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てんかん患者の運転免許取得条件の見直し求める 日本てんかん学会提言

公開日時 2012/10/12 04:02

日本てんかん学会は10月11日、てんかんのある人の運転について、現行の道路交通法に則った運用の制度見直しと施行令の適性運用を求める「てんかんと運転に関する提言」を公表した。提言の中では、運転免許取得に必要な無発作期間を従来の2年間から1年間とすることなどを明記した。


現行制度が遵守されておらず、無申告で運転免許を取得・更新したてんかんのある人への厳罰化を求める声がある中で、てんかんの多様性や国際的基準を踏まえた学術的な見地から実効性のある対応策をまとめた。警察庁では現在、運転免許制度見直しを検討する有識者会議がこの問題に関する検討を行っているが、今回のてんかん学会の提言が今後、こうした議論に与える影響が注目される。


2002年の道路交通法改正により、それまで運転免許取得の絶対的欠格事由だったてんかん有病は相対的欠格事由とされた。道路交通法施行令では「発作が再発するおそれがないもの、発作が再発しても意識障害及び運動障害がもたらされないもの並びに発作が睡眠中に限り再発するもの」では免許取得が可能となった。


具体的には①過去5年以内に起こったことがなく、医師が「今後、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合 ②発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が「今後、X年程度であれば、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合③医師が1年間の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合④医師が2年間の経過観察の後「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合――は医師の診断書提出を条件に運転免許の取得・更新が認められる。

◎“発作が再発するおそれのきわめて少ない”症例具体的な運用明記へ


今回の提言では、道路交通法施行令第33条の「発作が再発するおそれがない」から「発作が再発するおそれのきわめて少ない」などの表現に変更するよう要望した。これは、医学的に再発が起こらないとの断言が難しいことから、医師が診断書を書くことに躊躇(ちゅうちょ)することが指摘されていたことが背景にある。


「意識障害及び運動障害がもたらされないもの」についても、運転の支障になる発作はこれらのみではないため、「意識や行為に影響を及ぼさないもの」に変更することなどを求めている。


その上で、「発作が再発するおそれのきわめて少ない」の具体的な運用については、新たに「1年以上、無発作で経過し、その後も同じ治療を継続する場合」「1年以上、無発作で経過し、医師の指示により抗てんかん薬を減量・中止し発作が再発したが、以前の治療内容に戻して3ヶ月聞発作の再発がなく、その後も同じ治療を続ける場合(抗てんかん薬の減量中ならびに減量・中止後6ヶ月間は運転せずに経過観察する)」「1年以上、無発作で経過し、医学的・社会的にやむを得ない理由(災害による薬剤入手困難、腹部手術時など)で服薬できずに発作が再発したが、以前の治療内容に戻して3カ月間発作の再発がなく、その後も同じ治療を続ける場合」の3ケースと定義づけた。


従来は、医師が発作が起きないと診断した期間を症例に応じて設定していたが、「5年以上発作が抑制されるまで免許更新時に診断書を提出する」と改めるよう求めた。


「発作が睡眠中に限り再発するもの」については「1年以上、覚醒中の発作がない」、「発作が再発しても意識や行為に影響を及ぼさないもの」についても1年以上そうした状態が継続する場合と定めた。


さらに提言従来は運用基準になかった、てんかんではない発作、診断時点ではてんかんと確定できない発作に関して、誘発発作(急性症候性発作、状況関連性発作)、初回の非誘発発作ともその後6か月間発作がない場合は免許取得が可能であるとの見解を示した。


◎大型免許や2種免許は除外規定のみ免許交付を求める


一方、従来は法的には特別な条項が設けられていなかった大型免許や2種免許に関しては、一般の運転免許と異なる規定を定めることも求めた。①過去に1回のみ非誘発発作があった場合は抗てんかん薬なしで5年の経過観察期聞に発作の再発がない②過去に2回以上の非誘発発作があったものでは、抗てんかん薬なしで10年の経過観察期間に発作の再発がない―――の2つを除外規定とするとし、これらの場合のみ免許交付を可能とすることを求めた。


◎医師の任意通報GL作成が今後の課題に


表面的には無発作期間が短縮された形になったが、同学会はこの根拠として、適正な治療を継続している前提では無発作期間が1年と2年では、その後の事故発生にほとんど差がないとの海外データがあると説明。さらに、海外ではより短い無発作期間の評価でも免許取得を認めている例も少なくないことから、期間を設定した。患者自身も納得できる合理的な環境を整えることで、自己申告の増加につなげたい考え。


過去の無申告てんかん患者による死傷事故を受けて、一部には医師によるてんかん患者通報義務化の声もあるが、同学会の法的問題検討委員会委員長の松浦雅人氏(東京医科歯科大学大学院生命機能情報解析学教授)は「過去の混乱なども踏まえて学会としては通報義務化には反対の立場。慢性的なノンコンプライアンスの患者の場合には任意通報はありうるが、どのような場合に任意通報の対象になりえるかなどは学会としてガイドラインの作成などは今後の検討課題」との見解を示した。


現状ではてんかん患者の多くが専門医以外で診療を受けている実態があり、非専門医への提言の普及やてんかん診療の啓蒙もてんかん患者による交通事故減少の鍵を握ると言われている。このことについて同学会理事長の兼子直氏(医療法人清照会湊病院北東北てんかんセンター所長)は「日本医師会とのタイアップにより、全国50カ所で、医師会の生涯教育の中に基本的なてんかんの診断治療をてんかん専門医が講義する場を設けることになった。このことを通じて国内のてんかん医療の幅広い底上げを図っていきたい」との方針を説明した。
 

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