キャリア採用を活発化するメガバンク各社。しかし、超大手の選考はなかなか前に進まない。

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この1年、日系メガバンクとその関連企業のキャリア採用が活発になってきている。金融スペシャリストやグローバル人材など、専門的なスキルを持つ人を対象にしたものが主だが、こうした求人が出るのは、5年前では、まず考えられないことだった。

大手銀行は、新卒学生にとって就職の最難関。選び抜かれた行員は能力が高く、行内の採用・育成もしっかりしているので、外部から人材を入れる必要はなかった。
しかし、ビジネスはスピード化し、国際競争も激化するばかり。行内での育成も当然行うが、不足がちな部署には、外部から優秀な人材を招くようになってきたのが現状と言えよう。

ただ、そうしたグローバルビジネスが絡んだ募集背景とはうらはらに、採用の行程は、日本の大企業らしさが如実に出ているのもメガバンクである。

外資系金融会社を退職予定となり、早期転職を目指すTさん（28歳）は、事業会社にも興味をみせながら、大手銀行関連A社の求人を第一希望にしたいと、転職の抱負を述べていた。
「学生時代から、金融業界で働きたいと思っていました。就職したのは外資だったので、長く勤務することが出来ませんでしたが、A社なら自分の経験を活かしつつ、長く働けます。これ以上の環境はありません」
「分かりました。ハードルは高いですが、キャリアはマッチしていますから、可能性はあると思いますよ。がんばりましょう」

Tさんは書類選考・一次面接をそつなくこなし、次のステップに進むことになったのだが…。
「まだ、A社の二次面接の日取りは決まらないのでしょうか？」
「なるべく早くとお願いしていますが、まだ連絡が来ていません。A社がこのポジションで採用をするのは始めてなので、勝手が分からないところがあるのでしょう。もう少し待ってください」
「しかし、事業会社の方は来週には最終面接です。このままでは…」
「もし内定が決まったら、A社は辞退するおつもりですか？」
「具体的なオファーを見ないとなんとも言えませんが、私としては、やはりA社の結果を待ちたい気持ちです」
「分かりました。もう一度、プッシュをかけてみます」

採用慣れしていない大手関連企業に共通したことではあるが、メガバンクの選考は遅く、融通が効かない。どれだけ経験のある人材であろうと、優秀な方であろうと、選考行程を飛ばしたりしない。融資審査をするが如く、ひとつずつ選考のチェックマークを入れていくのだ。そうした愚直さが、銀行の信用を支えているわけだから、批判できない面もあるものの、キャリア採用でマイナスになってしまうことがあるのも事実である。

こうした壁を切り崩すのは、アナログな口説きしかない。
「なんとか早くTさんの二次面接をお願いします」
「こちら（人事）も急ぎたいのだけれど、関係部署からの返事がまだ来ないんだよ」
「Tさんは事業会社で内定が出ても断ると言っていますし、他行関連会社の求人は受けようともしていないんです。A社を第一という方針を貫いていているんですよ」
「ほぉ、他行に興味なし？」
「Tさん曰く、他とは格が違うと」
「ハハハ、なかなか殊勝だなあ」
「そんなTさんですから、人事のお力で早く面接…」
なんともベタだが、こうして転職者の意欲を訴えるのは、バカにならない効果があるのだ。

しかし、選考を早めてもらっても、銀行・関連会社への転職は活動開始から3ヶ月以上かかるのも、ごく普通のこと。Tさんは二次三次面接とクリアしていったが、最後の役員面接で、また選考が止まってしまった。

「時間が掛かりますね」
「申し訳ありません。日程が届き次第、すぐにご連絡します」
「実は私の父が、B社で役員をしていまして、『そんなに転職が決まらないなら、知り合いの会社を紹介する』と言ってきたんです。離職期間をあまり長くはしたくないので、考えてみようかと思っているのですが…」
「その当たりの事情もA社に話をして、急ぐようにお願いしてみましょう」

「…というわけなのですが」
「え？Tさんの御尊父が大手B社の役員？そういうことは先に言って下さらないと。すぐに役員に話をしてみます」
この電話連絡の後、数時間でTさんの最終面接日程は決まったのだった。

財界の有力者の家族だと分かったとたん、面接が決まるというもどうかと思うのだが、業界に詳しいTさんの方が、言葉を濁して経緯を説明する我々に、弁明をしてくれた。
「銀行の評価は減点法。後々、問題になるようなことがあってはいけないという力学が働いたのだと思いますよ。ああいうところでは珍しくありません」

なるほど、銀行員の思考法として、ミスをしないことが一番に来るのは理解できるが、よく考えてみれば、選考が遅くなって、優秀な人材を他行・他社に取られてしまうのも、マイナス点になりそうなもの。
いずれ、キャリア採用が浸透してくれば、銀行の選考スピードも早まる時も来るのかもしれない。