社保審・医療保険部会 スイッチOTC化された薬剤の保険給付率引下げ 反対意見相次ぐ
公開日時 2016/10/27 03:52
社会保障審議会医療保険部会が10月26日開かれ、スイッチOTC化された医療用医薬品の保険給付率の引下げ、かかりつけ医以外を受診した際の外来時の定額負担の導入について議論したが、いずれも出席した委員から反対意見が相次いだ。2項目ともに、昨年12月に閣議決定された経済・財政再生計画改革工程表で、年末までに具体的内容を検討し、結論を得ることが求められていた。2017年度予算編成で社会保障の改革7項目にあげられていたが、この日の議論を踏まえると、現時点での導入は難しい状況となった。
◎スイッチOTC化された医薬品の保険給付 健保連・白川氏「保険適応から外すべき」
この日の社保審では、2つの項目について厚労省側から論点が示された。薬剤給付の適正化の観点から、スイッチOTC化された医療用医薬品にかかわる保険給付の引下げをめぐる議論がなされた。薬剤費の適正化の観点からは、12年度診療報酬改定で単なる栄養補給目的でのビタミン剤の投与、14年度改定で治療目的でない場合のうがい薬だけの処方、16年度改定で、1処方につき計70枚を超えて投薬する湿布薬とメスが入ってきた経緯がある。
この日の議論では、施策の導入に慎重な意見が大半を占めた。日本薬剤師会の森昌平副会長は、スイッチOTCがある医療用医薬品は長年臨床現場で用いられていることから、他の医薬品と比べてもすでに低価格になっていると説明。「保険給付率を下げると、かえって(医療用医薬品を用いることで)より高額な薬剤にシフトしてしまう」と指摘した。また、長期収載品のスイッチOTC化が政策的誘導としてなされてきたが、こうした動きにブレーキがかかることにも懸念を示し、「国民のためになるのかと言えばならないのではないか」と述べた。
一方で、健康保険組合連合会(健保連)の白川修二副会長は、「保険給付率ではなく、OTC化されたら保険適応から外すのは本来あるべき姿だと思う」と指摘。C型肝炎治療薬や抗がん剤・オプジーボなどの高額薬剤が医療保険財政に与える影響を“深刻”とした上で、「高額薬剤は、保険収載しないと、国民全体が使えることにならない」と述べた。今後、iPSやバイオ医薬品など高額薬剤の登場が見込まれる中で、医療保険財政とイノベーションを両立させるためにも、「一般類似薬や軽度については保険収載から外す、もしくはフランスがやっているように償還割合、保険給付割合を変えるということを真剣に議論していただかないと、保険者だけでなく国に与える影響も大きい。早めに議論を始めていただくようお願いする」と述べた。日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部の望月篤部会長も、「保険給付率を引き下げるというよりかは対象外とした方が制度の安定性は保たれるのではないか」と述べた。
◎かかりつけ医 新たな定額負担導入に反対の声
もう一つの項目としては、かかりつけ医以外を受診した場合の定額負担の導入をめぐる議論がなされた。しかし、総合診療専門医や家庭医などの制度がある中で、かかりつけ医の定義そのものが明確ではないことや、患者の事情で複数のかかりつけ医がいる現状があることなどから、導入に慎重な声が大半を占めた。さらに、2002年健保改正法附則では、患者負担を引き上げた一方で、「将来にわたって7割の給付を維持する」と明記されていることを引き合いに、日本労働組合総連合会の新谷信幸副事務局長が「新たな定額負担を設けることは附則に反する。私どもとしては反対」と述べるなど、患者負担の引上げに反対の声も複数あがった。
日本医師会の松原謙二副会長は、「かかりつけ医の普及が合意されるのであれば、患者の負担だけを増やして経済的な誘導を図ることには反対だ」と主張。健保連の白川副会長も、患者の側から見れば診療科に応じてかかりつけ医がいる現状を指摘し、外来時の“定額負担”という考えが現状にそぐわないとし、「かかりつけ医の普及の観点からと書かれているが、国民の納得が得られるとは思わない」と反対の姿勢を示した。
一方で、健保連の実施した国民意識調査では、かかりつけ医を選択する理由として7割以上が、自宅から近いことをあげている。そのため、今後“かかりつけ機能”を高めることの必要性を指摘する声もあがった。