東和薬品・吉田社長 未病に着目したソリューション開発で健康寿命延伸に挑戦
公開日時 2019/02/12 03:52
東和薬品の吉田逸郎代表取締役社長は本誌取材に応じ、製薬業界を取り巻く環境が急速に変化するなかで、これまで培った医薬品ビジネスだけでなく、「今後は未病の人を病気にさせないことで、健康寿命の延伸に貢献できる事業を考えていきたい」と決意を語った。医療現場が地域包括ケアシステム構築へと進展するなかで、その基盤となるITソリューションが、健康、医療、介護、生活、福祉など、地域社会が抱える課題を解決するツールになるとの考えを示したもの。その一環として同社は、2018年10月にTISインテックグループのTISとの合弁会社「Tスクエアソリューションズ」を設立した。吉田社長はこうした社会環境の変化を捉え、医療保険の枠組みを超えた新規ビジネスの創出に意欲をみせた。
東和薬品は、企業理念の一つに“人々の健康への貢献”を掲げる。吉田社長は、「いまの事業は、病気の人を健康にすることで貢献している」と説明。超高齢化社会の到来で薬剤費の伸び抑制が求められるなかで、ジェネリックメーカーとして財政面から貢献してきたことを強調した。ただ、急速な高齢化と人口減少社会の到来、労働生産性の確保など、新たな課題に日本は直面するとして、製薬産業として新たな“イノベーション”に取り組む姿勢を強調した。
◎ノンコア事業でプラットフォーム構築 シェアードで業務効率化、生産性向上も
その一つが、最新テクノロジーを利活用した医薬品産業、医療界への取り組みだ。吉田社長は、政府のSociety5.0に代表されるAI(人工知能)やビッグデータの台頭に伴う社会基盤の変化に言及した。「Society5.0 で、IT技術などが急速に発達するなかで、働き方改革を含めた業務の効率化が急速に進む」と強調。政府が主導する薬価制度抜本改革や後発品80%を通じ、製薬産業に対しても構造転換が求められる状況にあるとの認識を示しながら、「開発や生産、販売以外のノンコア事業である管理業務を効率化する必要がある」と語った。
ノンコア事業については、プラットフォームを構築し、“シェアード”することで、業務効率を上げ、生産性の向上にも寄与するとの考えだ。これを推進することで、コア事業である開発部門や生産部門への投資を維持・拡大することも可能になると見ている。吉田社長は、こうした事業が、「ジェネリックメーカーの協業のきっかけになると思っている」とも語った。
◎Tスクエアソリューションズを通じて企業体力の強化に期待
同社の出資するTスクエアソリューションズは、「ITによる業務効率化を通じ、ジェネリック業界の体力強化」を事業コンセプトの一つに掲げている。まずは東和薬品グループの情報システム部門機能の受託に取り組むが、今後はジェネリックメーカーをはじめ、他の製薬企業に拡大したい考え。具体的には、ロボットによる業務自動化(RPA化)で仕入れ単価マスタ登録や原材料帳更新、他社の変更情報入手業務などを短縮化などの実証を行っているという。
◎“未病”に着目したビジネスの創出に意欲 地域への提案型ビジネス目指す
吉田社長は「健康寿命の延伸に向けて、我々も何か参加できないかと考えた」と述べ、”未病”に着目したビジネスの新規創出にも意欲を見せた。フレイルや、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)などが“病気”となることを未然に防ぐためには、運動や食事などの生活習慣改善のほか、音楽療法なども視野に入る。「医薬品だけでなく、アプリやロボット、AIなどを通じた貢献」を例にあげた。さらに、「個々の製品を販売するのではなく、地域に提案するソリューションビジネス」を展開する考えを示した。
Tスクエアソリューションズでは、「地域共生社会の実現に向けたIT関連サービスの企画・提案・導入支援」を掲げ、自立移動型ロボットやバーチャル・リアリティー(VR)、AIデバイスなどの実証に向けて計画も進める。吉田社長は、このほかにも東和薬品社内のプロジェクトで、新規ビジネスの検討を進めていることも明らかにした。
一方で、ジェネリックメーカーとしてこれまで培った強みとしては、製剤技術の高さをあげた。2017年4月に立ち上げた基盤技術研究所では、苦みのマスキングやOD錠などの基盤技術の構築に取り組む。さらに、光や熱、水分などによる有効成分の分解を抑え、消費期限を延ばす製剤技術の確立を目指す考えも示した。最終的に有効成分が分解されなくなれば、「医療機関や薬局での廃棄ロスはなくなる」(吉田社長)。国際展開を視野に入れる東南アジアやアフリカなどは、高温多湿な地域。消費期限が長く、水なしで服用できるOD錠があれば、「必要となるものを作っている会社になれる」と述べ、製剤力を武器に競争に打ち勝つ自信もみせた。