医療用医薬品製造販売業公正取引協議会（メーカー公取協）は5月30日の通常総会で、公正競争規約の運用基準で定められた飲食や食事などの提供に関するルールの見直しを報告した。新たなルールでは、自社医薬品の講演会や調査・研究委託に関する懇親行事について、提供する「飲食」の上限金額を2万円と明記。一方、社内研修会の慰労会や、懇親行事として着席での飲食提供は許容されないこととなった。新たな運用基準は2026年４月１日から施行される。

飲食などの提供に関する運用基準の見直しは2012年の改定以来。現行ルールとなってから10年以上がたち、新型コロナウイルス感染症のパンデミックや、インターネットを活用した情報提供活動の変化、医療従事者の働き方改革の進展など、社会状況や環境の変化を踏まえたもの。

◎金額基準を明記　「飲食」は上限２万円　「食事」は上限３千円

これまでの運用基準では、「講演会等の役割者等に対する慰労等を目的とした飲食」や「自社医薬品の講演会等に付随する懇親行事等」は、顧客を誘引する手段となる「きょう応」から除外されるケースとしていた。一方で、線引きは抽象的で、規制の空白部分や不明瞭な部分が散見されていた。改定では、公務員倫理規程を参考に、①国民・患者目線で理解が得られるものか、②規制体系全体を俯瞰的に見て整合性がとれているか、③規制のあり方としてシンプルなものとなっているか、④飲食等の提供行為自体が不当に取引を誘引する手段となっていないか―という基本視点に立ち、規制の整理や基準の簡素化を図った。規制の中核となる金額基準については、飲酒を伴う「飲食」は上限２万円、伴わない「食事」は上限３千円と明記した。

◎「医療機関の施設外での医薬情報活動」は上限３千円の「食事」提供に厳格化

医療担当者に業務を委託するケースでは、「講演会等の役割者又は会議等への参加を依頼した医療担当者」に提供する「飲食」は上限２万円、「食事」は上限３千円とした。医療担当者に業務を委託しないケースの「医療機関等の施設外での医薬情報活動等」や「個別の医療機関等の施設内での自社医薬品の説明会等、講演会等」は3千円を超えない「食事」に限定した。現行ルールで「医療機関等の施設外での医薬情報活動等」では5千円を超えない範囲で「飲食」の提供も許容されていたが、改定により、上限3千円の「食事」の提供に厳格化された。

また、社内研修会の講師に対する慰労目的の飲食提供は、「乱用の恐れが大きく、『社会的儀礼行為』の類型から外し許容しないこととした」と説明。さらに、「懇親行事は立食形式にて行うもの」として、1万円を超えない範囲内で認められていた着席での飲食提供も認められないことになった。

◎3年ぶりの措置事案で「指導」　10年以上にわたり病院長を社有車で送迎

通常総会では、24年度の規約違反事案の報告もあり、3年ぶりとなる措置事案として「指導」に至ったケースがあった。

措置事案の企業名は非公表。この事案は、13年10月から24年4月までの間、近畿地方に所在する病院の院長に対し、自宅から勤務先や非常勤先の医療機関までの区間などで社用車を使って送迎などを行っていた。院長を担当していた歴代支店長や課長により行われ、上長も認識していたにも関わらず中止しなかった。24年12月18日付で「指導」となった。

杉山幸成専務理事は「違反が10年という長期間にわたって反復継続して行われていた上、組織性が認められたことを重くとらえた」と説明。「昨今の働き方改革の趣旨に照らしても、看過できない行為だ」と述べた。

このほか、企業側が規約違反と判断した自主改善報告は7件あり、自社医薬品の説明会での弁当提供や、飲食の提供など「きょう応」に関するものだった。

◎役員改選　新会長にアステラス製薬の安川健司氏

役員改選では、新会長に安川健司氏（アステラス製薬会長）が選任された。安川氏は「飲食等の提供に関するルール見直しに関して、改定内容を周知し、浸透を図ることに積極的に取り組んでいく。また、製薬業界を取り巻く環境変化に応じて、公正競争規約を継続的に見直していくとともに、規約の遵守及び規約違反の未然防止、拡大防止に引き続き努めていく」と抱負を述べた。