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【緊急寄稿 米ミシガン発現地レポート Part2】急増する感染者、予備選挙などタイミングが悪かった?

公開日時 2020/03/27 04:50
米国在住 ヘルスケアビジネスコンサルタント
MRG Associates, Inc. 代表取締役社長
森永 知美

◎止まらない感染者数の急増

“Hi! How’re you?” これまで半ば自動的に毎日繰り返してきたこの言葉が、これほどまでに意識的に口をついて出てきたことは、いまだかつてないかもしれない。”I’m fine, thank you.” と答える側も、いつもとはちょっと違い、ただの社交辞令ではない感じがする。

現時点(3月25日現在)のミシガン州のCOVID-19感染者数は2295人で、この2日間で約1000人増えた。死者は43人。患者の殆どは、人口が集中するデトロイト市とその郊外に偏っている。検査件数を増やす努力をしているため感染者数が増えるのは当然のことかも知れないが、3月10日に最初の感染者が報告されてから1週間ほどは数例ずつ増える程度だったのが、18日から1日あたり数百例ずつ急激に増加している。しかも州人口は1000万人足らずの全米第10位なのに、感染者数ではワシントン州に次いで5番目に多い。州人口が約4倍で感染者数が3番目に多いカリフォルニア州との差は僅か367例で、さらに言うと、州人口が約170万人多いお隣オハイオ州と比べると、3倍も多いのである。

◎民主党候補者を決める予備選挙が裏目に?

なぜここまで感染者が多いのか。これは私の私見だが、最初の感染者が確認されたのが、パンデミックと呼ばれている他州と比べて遅く、それまでこの問題に対する市民意識がまだ対岸の火事であり、州政府が具体的対策を打てなかったことと、民主党候補者を決める同州の予備選挙のタイミングが非常に悪かったことに一因があるでのはと考えている。まず背景として、ミシガンは自動車関連産業が主要ビジネスの多くを占め、中国をはじめ各地にサプライヤーや関連企業があるため、国内外からの人の移動は多い。そしてこの地の冬は非常に寒さが厳しい上に長く、一見すると街並みは閑散としているが、繁華街のレストランやバー、カフェなどは意外にも混んでいる。建物は高気密で暖房で暖められ、冷たい外気が入らないよう工夫した狭く騒がしい空間で、人々は顔を近付けておしゃべりをする。またデトロイトは音楽の街でもあり、様々なジャンルのライブやコンサートが季節を問わず開催されている。要するに、基礎環境として感染拡大要素が満載なのだ。

そして極めつきは、3月10日の予備選挙である。1週間前に行われたスーパーチューズデーの結果を受けて、同州でも非常に盛り上がっていた。火曜日の投票日に向けて、日曜日にはバーニー・サンダース上院議員がミシガン大学のキャンパスに駆けつけ、ちょうど春休み明けの大学生ら約1万人が詰めかけた。ちなみに、アメリカの大学生にとって春休みは思いきり羽を伸ばす期間であり、帰省する人もいれば、メキシコやフロリダなど温暖なリゾート地で過ごすというのも人気である。こうした国内外に散らばっていた学生たちがキャンパスに一気に集結したのである。それにこの日は珍しく気温が上がり、寒さで引きこもりがちだった人々の外出も増えていたかも知れない。続いて月曜日の夜には、ジョー・バイデン前副大統領がデトロイト市内の高校で政治集会を開き、千人以上のサポーターが集まった。

アメリカはもともと除菌に対する市民の意識が高い方だと思う。西海岸などで感染者が増えるにつれ、公共施設で除菌用ローションが設置される場面も多くなっていたが、イベントやコンサート、集会などの自粛を呼びかける動きはなかった。ミシガンでは1例も感染者が報告されていなかったことが理由かもしれない。

そして10日の投票日。奇しくもこの日に最初の感染者が報告された。州知事はこれは受けて同日緊急事態を宣言、その後連日にわたって学校閉鎖、50人以上の集まりの禁止、飲食店などのサービスに対する規制などを施行したが、急増のトレンドが現れ始め、外出禁止令の発動に至った。バイデン氏とサンダース氏の選挙陣営は、選挙キャンペーンがもたらす公衆衛生リスクを認識し、翌週17日に予備選挙を控えていたオハイオ州での選挙集会を中止した。オハイオ州はこの事態を受けて選挙を延期している。ちなみに同州の感染者数は704例に留まっている。

◎市民一人一人が責任を果たす

とにかく今は、一市民としての責任を果たすしかない。それは、家にいること。無症候の期間が長く、その間に人に感染させてしまうリスクがある以上、唯一、一般市民がすべきことは「家にいること」である。もちろん、自分の身を守るためでもある。どんなに豊かな国や地域でも、医療システムには必ず限界がある。医療システムだけではない。警察や消防隊などの公共サービスもしかりだ。州内に8カ所の医療施設を展開する大規模病院ネットワークでも、人工呼吸器の使用率がキャパシティーを超えそうで、医療スタッフの数もギリギリの状態だと報告している。またデトロイト市警では既に2名がCOVID-19により死亡し、その同僚の約330名が隔離措置となっている。これで何か有事があった場合に街の治安は守れるのか?

今は出来るだけ多くの公共資源を、感染封じ込めに集中させるべきだというのが、外出禁止令を発動している州政府の考え方だ。極端に言ってしまうと、アメリカは州が一つの国のようなものだ。各州が独自の権限と責任を有しているため、今回の措置についても、連邦例府のガイドラインを待たずに自らの方針を打ち立ててきた。ミシガンでも、もう数日早いタイミングで大規模集会などに対する介入出来ればよかったが、感染例が全くないなかで市民の同意を得るのは難しかったとも考えられる。公衆衛生対策の難しさである。

外出禁止と言っても、買い物や屋外での運動などは許されている。その場合は人との距離を2メートル保つこととされているが、幸いなことに、パンデミックが最も深刻なニューヨークでは、この措置が奏効している兆しが見えるらしい。明けない夜はないのだ。
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