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国内製薬トップ年頭所感 社会のサスティナビリティに貢献 新型コロナで決意新たに

公開日時 2021/01/07 04:51
国内製薬企業各社は1月6日までに、経営トップの2021年の年頭所感を発表した。研究開発型の大手・準大手は、新型コロナウイルス(COVID-19)が人々の生活を一変させたことを受けて、パンデミックの終息や、社会のサスティナビリティにいかに貢献していくべきかを改めて考えさせられたとの内容が目立った。そして、注力領域の患者の存在を常に念頭におき、自社の強みをより深化させて、「唯一無二の貢献を果たせる存在を目指す」(アステラス製薬の安川健司社長CEO)といった決意が相次ぎ示された。

このような中で塩野義製薬の手代木功社長は、感染症を標榜する企業にもかかわらず、世界の切迫したニーズに迅速に応えられなかったことに悔しさをにじませ、「今までの延長ではシオノギの存続はあり得ない」との厳しい現状認識を示した。社員に対し、限られた資源を集中すること、業務のスピードへの先入観をぶっ壊すこと/業務のスピードを今までの常識から解放すること、成長にどん欲にこだわること――の重要性を訴え、21年から「次のフェーズに本格始動したい」とした。

このほか、第一三共、アステラス製薬、田辺三菱製薬、協和キリンは、2021年度を初年度とする新中期経営計画をスタートさせる。新中計の詳細は、協和キリンは2月4日、田辺三菱は20年度中、第一三共は3~4月頃、アステラスは5月に発表する予定。

■武田薬品・ウェバー社長 革新的な医薬品を創出するビジョン「この先も変わらない」

武田薬品のクリストフ・ウェバー社長CEOは、「21年を迎えるにあたり、私たちが心から望むのは新型コロナウイルスによるパンデミックの終息だ」とした。同社が国内流通を担うモデルナ社のCOVID-19に対するワクチンやファイザー製ワクチンなどの予防効果について、「初期段階では有望な結果が得られている」とし、「このウイルスと闘うために重要な役割を果たす業界で働いていることを誇りに思う。トンネルの先の光は、すぐそこに見えている」との認識を示した。

同社は6月に創立240周年を迎える。ウェバー社長は、「革新的な医薬品を創出するという私たちのビジョンは、これまでも、この先も、変わることはない」と表明した。そして、「タケダはグローバルトップ10のバイオ医薬品企業として変革し続ける」、「今年も世界中の人々のために真の違いを生み出せるよう邁進していく」とした。

■第一三共・眞鍋社長 世界ナンバー1のADCカンパニーとしての基盤を強固に

第一三共の眞鍋淳社長兼CEOは、コロナ禍により、「先進の創薬技術を持った製薬企業がクローズアップされ、製薬産業自体が社会基盤に影響を与える基幹産業のひとつとして再認識された」とした上で、「これを機に、第一三共がグローバルな製薬企業としてどのように社会のサスティナビリティに貢献していくべきかを改めて考え、当社グループのパーパスである『世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する』を再認識した」と20年を振り返った。

21年度は第5期中期経営計画(新中計)の初年度となる。詳細は3~4月頃に発表予定だが、眞鍋社長は、「新中計は2025年ビジョンを確実に実現するための道筋をつける非常に重要な内容となる」とした。

25年ビジョンでは、「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」の実現を掲げている。年頭所感でも、がん領域の抗体薬物複合体(ADC)である▽抗HER2 ADC・エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)▽抗TROP2 ADC「DS-1062」▽抗HER3 ADC「U3-1402」(同パトリツマブ デルクステカン)――の3つのADCの早期の実用化により、「世界ナンバー1のADCカンパニーとしての基盤を強固にしたい」と表明した。このことから新中計では、ADCによるがん事業の成長が主要項目のひとつになることは間違いないだろう。

このほか、遺伝子治療、核酸医薬、細胞治療、デジタル技術などADCの次の柱となるモダリティを見極め、持続的な成長につなげる意向も示した。

■アステラス・安川社長 「より大きな『患者さんの価値』を生み出し届ける」

アステラス製薬の安川健司社長CEOは、新型コロナによる未曽有の危機下にあっても、製薬企業の使命は医薬品の安定供給と新薬の研究開発の継続による患者貢献だと強調。「その社会的意義の高さに、改めて身の引き締まる思いで新年を迎えた」とした。

21年度は新中期計画の初年度となることに触れながら、「各戦略をさらに深化させ、より大きな『患者さんの価値』を生み出し届けるため、全社一丸となって力を合わせていく所存」と述べた。同社広報部によると、新中計の詳細は5月に発表予定。

現在推進している戦略には、▽バイオロジーとモダリティ/テクノロジーの独自の組み合わせを見出し、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患に対する革新的な医薬品の創出を目指す「Focus Areaアプローチ」▽医療用医薬品(Rx)事業で培った強みをベースに、最先端の医療技術と異分野の先端技術を融合させることで医療シーン全般において患者に貢献し、かつ単独で収益を生み出す「Rx+事業」――がある。これらは新中計でも、より深化させる戦略のひとつに位置付けるとみられる。

■エーザイ・内藤CEO 「動ぜず前へ進む」

エーザイの内藤晴夫CEOは、「動ぜず前へ進む」との年頭所感を寄せた。コロナ禍にあった20年は、社員の安全確保と安定的な操業に注力し、医薬品の安定供給ができたとする一方で、最適な臨床試験の進め方や、デジタルとリアルを組み合わせた顧客とのエンゲージメントの在り方について「模索を続けてきた1年であった」と振り返った。

21年は、「これまで正しいと思ってきた考え方や価値に対して根源的な問いかけがなされている中で、中長期の見識をしっかりと打ち立て、1つひとつの出来事に対して一喜一憂せず、眼前の業務を丁寧に進めていくことが重要となる」とし、「hhc理念のもと、持続的な企業価値の向上に向けて、安全第一のもと、全社一丸となって邁進していく」との考えを示した。

出社して仕事をすることが当たり前だった世の中が、コロナ禍により、在宅勤務やリモートワークが働き方の一つの方法として定着し、デジタルトランスフォーメーション(Dx)が急速に進んだ。内藤CEOは、先行き不透明な状況に動じることなく中長期の見通しをしっかり持ち、これまで当たり前だったことに疑問を持ち、場合によっては変革を進め、丁寧に仕事をしていく必要性を示したとみられる。

■中外・小坂会長 “Postコロナの新しい働き方”が本格化 デジタル化でスマートワーク実現

中外製薬の小坂達朗会長CEOは、「COVID-19はデジタルトランスフォーメーション(Dx)の動きを加速させた」との認識を示した。同社は20年3月に「CHUGAI DIGITAL VISION 2030」を発表。すべてのバリューチェーンにデジタル技術を活用し、同社のビジネス革新を実現する新たなビジネスプラットフォームの創出に取り組んでいる。年頭所感でも同VISIONに触れながら、「Dxによりデジタル基盤の強化、創薬をはじめとした全てのバリューチェーンの効率化を図っていく」とした。

21年は「『Postコロナの新しい働き方』が本格化する年になる」とし、「当社でも、新しい働き方に合わせた制度が始まる」と紹介した。この制度は、業務のデジタル化により、組織・職種・業務の特性に応じた柔軟性の高い働き方(スマートワーク)を実現し、生産性向上とワークライフシナジーを両立させ、連続的イノベーションの創出を目指すものだという。小坂会長は、「個人だけでなく、組織の生産性が上がるよう、一人ひとりが可視化、自律、コミュニケーションを意識し、最良の働き方を見つけていきたい」と述べ、最良なニューノーマルの働き方の実現に意欲をみせた。

また、「世界では今この時も、病気で苦しんでいる患者さんがいる。患者さんの存在を私たち一人ひとりが常に心に刻み、自分たちの日々の仕事がどのように貢献できるのか、考え抜いていく」とも語った。

■田辺三菱・上野社長 「世界が大きく変わる中、その変化を大いに取り込む」

田辺三菱製薬の上野裕明社長は、新型コロナが世界の風景を一変させた中で、「医療や医薬品の必要性、重要性が再認識された」との認識を示した。グループ会社のメディカゴ社でのワクチン(MT-2766)開発を加速し、「喫緊の社会課題である新型コロナ感染症予防に貢献していく」と述べた。社員に向けて、「世界が大きく変わる中、その変化を大いに取り込み、自らが変革に向けた大きなチャンスと捉え、一丸となってこの難局を乗り越え、将来の飛躍に向けた充実した1年としたい」とも呼びかけた。

21年は、5か年の新中期経営計画の初年度となり、親会社の三菱ケミカルホールディングスは初の外国人社長の体制でスタートする「大きな節目の1年」となる。新中計は3月末までに公表予定だが、上野社長は経口ALS治療薬エダラボン(開発コード:MT-1186)、プロトポルフィリン症治療薬MT-7117、視神経脊髄炎スペクトラム障害治療薬イネビリズマブ(同MT-0551)の後期開発を着実に進めることが、持続成長実現へのポイントになるとした。

さらに、アンメットニーズの高い稀少疾患への治療オプションの提供に向けて、「新たなモダリティやデジタル技術などに積極的に挑戦する」とし、「医薬品の枠を超えた製品やソリューションを提供できるトータルヘルスケアカンパニーを目指す」とした。

■大日本住友・野村社長 環境変化に柔軟に対応 目標実現に「ちゃんとやりきる力」求める

大日本住友製薬の野村博社長は、コロナ禍に対し、在宅勤務、デジタル技術を活用した情報提供活動、勤務シフトなどを工夫して製品の安定供給に努めたことなどを紹介しつつ、「業務ごとに柔軟な対応をしてきた」と振り返った。今後、生産性を高め、成果を出すためには、環境変化に柔軟かつ適切に対応することが必要との認識を示し、「柔軟」をキーワードに挙げた。

現中期経営計画では、目標を実現するために、「ちゃんと(CHANTO)やりきる力」を掲げている。コロナ禍との事業に大きな影響を与え得る環境変化が起こっているいまだからこそ、社員に向けて、「全てが計画通りに進むわけではないが、結果に一喜一憂せず、『CHANTO』完遂して事をなすために何をすべきかを考え、実行し、成果を出していきたい」と呼びかけた。「従業員が力を合わせることで、今年1年を当社にとって実りある素晴らしい年にすることができるものと信じている」とも語った。

20年度に北米で18億ドルの売上を見込む最主力品の抗精神病薬ラツーダは、北米で23年2月に特許切れする。このラツーダクリフの克服が最重要の経営課題となる。野村社長は年頭所感の中で、ラツーダクリフは米国での前立腺がん等治療薬レルゴリクスや過活動膀胱治療薬ビベグロンの成長で補い、この間に自社品の研究開発を進めて持続成長を実現する戦略を披露した。レルゴリクスは米国で20年に前立腺がん適応で承認を取得。21年は子宮筋腫の追加適応の取得を目指し、子宮内膜症の効能追加を申請する予定だ。また、ファイザーと同剤の開発・販売提携契約を締結しており、大型化への準備を着々と進めている。

■塩野義・手代木社長 これまでのスピード感や能力では「切迫したニーズに応え続けられない」

塩野義製薬の手代木功社長は、世界がコロナ禍に明け暮れた20年に、「私たちは感染症を標榜する企業として、これまでのスピード感や能力では、世界の人々の切迫したニーズに応え続けることができないことを学んだ」との認識を示した。そして、顧客、社会、従業員、株主・投資家の4つのステークホルダーズからシオノギを“生かしてもらう”ために、「改めて『何ができ、何をすべきか』を学びから実践に移行しなければならない」「今までの延長ではシオノギの存続はあり得ない」と危機感をあらわにし、社員に21年のポイントを提示した。

まず、限られた資源を集中するとともに、業務のスピードへの先入観をゼロベースで壊すことを求めた。「感染症という、発症から解決までのスピードが必要な領域を標榜するシオノギだからこそ、今回のパンデミックからタイムラインに限界はないことを学ばなければならない」とし、「業務のスピードをいままでの『常識』から解放する。このことが21年のシオノギファミリーに求められている」と訴えた。

「貪欲に成長することに、とことん拘る」ことも求めた。成長は量的な成長だけでなく、今までにできなかったことに取り組むことや効率を上げて質的な改善を続けていくことも成長だと説明。「COVID-19で世界は未だ混乱の中にあるが、次のフェーズに向け、成長に貪欲に拘ることが重要だと考えている」とした。

■「新」との文字に想い込めた

手代木社長は社員に、21年の1年を表す一文字として「新」を贈った。「新」には「今までになかった、進んだもの」との意味に加え、「以前のものを違った状態で悪い点や足りないところを直す」、「生きていくために必要な力を持っている」との意味もあると解説した。手代木社長は「シンプルな文字だが、21年のシオノギファミリーに最もふさわしい一文字だと考えた。『新』の文字に込めた私の想いをぜひ受け止めてもらい、ともに次のフェーズへの本格始動を行いたいと思う」と締めくくった。

■大塚HD・樋口社長 「大塚だからできること、大塚にしかできないこと」で社会に貢献

大塚ホールディングスの樋口達夫社長兼CEOは、新型コロナは不安定な社会・政治経済情勢を招き、先行き不透明感を増長させる一方で、「人々のニューノーマルという環境への順応と、新たな可能性の模索につながっている」との側面もあるとした。

大塚グループはこれまでも、トータルヘルスケアの考えのもと、健康の維持・増進、病気の診断から治療までを担う事業活動を進めてきた。このことから、「人々の健康への意識の高まりと願いに応え、大塚だからできること、大塚にしかできないことを通じて、Otsuka people creating new products for better health worldwide”の企業理念のもと、サステナブルな社会の実現のために邁進していく」と表明した。

■協和キリン・宮本社長 糖尿病性腎臓病用薬RTA-402に「画期的新薬になる可能性」

協和キリンの宮本昌志社長は、21年からスタートする新中期経営計画は、「当社がグローバル・スペシャリティファーマとしての基盤を強固にするとともに、グローバル市場での成長を実現させる期間」になると紹介した。詳細は2月4日に明らかにするが、「中長期の当社の成長を更に確実なものとするために、ME-401、KHK4083、KW-6356といったプロダクトのグローバルでの開発を着実に進めなければならない」との認識を示した。

この3つのグローバル開発品は、ME-401は米国などで膿疱性リンパ腫でP2などを実施中のPI3Kδ阻害薬。KHK4083は日米欧でアトピー性皮膚炎を対象にP2段階にあるヒト型抗OX40抗体。KW-6356は日本で経口パーキンソン病薬としてP3段階にあるアデノシンA2A受容体拮抗薬となる。

宮本社長は、日本でP2段階にある維持透析下の高リン血症治療に用いるKHK7791や、日本で糖尿病性腎臓病を対象にP3段階にあるRTA-402にも期待感を示し、なかでもRTA-402に関しては「糖尿病性腎臓病の患者さんにとって画期的な新薬になる可能性があり、大いに期待している」と語った。

新しい価値を次々生み出し、新中計で掲げる目標を達成するために、また激しい環境変化が今後も起こる可能性があることにも触れながら、「地域や組織を超えた連携と、計画をやり抜くための強い覚悟と責任感が必要だ。そのためにも『患者さんを笑顔にする』という目標を常に掲げ、力を合わせていこう」と社員に呼びかけた。
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