AMED・中釜理事長 創薬力強化「国内外のエコシステム連携に力」 調整役設置「日本と海外の架け橋に」
公開日時 2025/07/03 06:30

日本医療研究開発機構(AMED)の中釜斉理事長は7月2日の記者説明会で、創薬力強化に向けて、「国内外のエコシステム連携が非常に重要だ。ここに力を入れたい」と表明した。“グローバル視点”を重視し、海外ベンチャーキャピタル(VC)を巻き込み、投資を日本に呼び込むことが重要とし、海外イベントなどを通じて、日本の状況を積極的に発信する必要性に言及した。また、こうした動きを加速する目的で、関連部署を統括する「調整役」を同日付でAMED内に設置。前・経済産業省商務・サービスグループ生物化学産業課の課長を務めていた下田裕和氏が就いた。中釜理事長は「国内と海外との懸け橋として創薬、政府のエコシステムに尽力いただきたい」と期待を寄せた。
◎創薬ベンチャーエコシステム強化事業 15の欧米VC認定 国内裨益のある海外シーズ2課題を採択
創薬エコシステム強化に向け、AMEDは「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」を実施している。AMEDがVCを認定し、認定VCの出資を受ける創薬ベンチャーが行う医薬品の実用化開発課題をAMEDがハンズオンで支援するというもの。一つでも多くのグローバル基準のベンチャーの成功事例による相乗効果、好循環をつくり、日本の創薬エコシステムを強化することを目的に掲げている。強化事業では、現時点で30のVCを認定しており、半数の15社が海外に拠点を置いている。さらに、国内裨益が認められた海外シーズの2課題を採択した。これらの課題は海外VCが投資を行っているという。
中釜理事長は、「国内における創薬技術の構築だけではなくて、それを海外と連携することが非常に重要だ。国内外の医薬品市場を見据えた、創薬エコシステムの構築が非常に重要だ」と説明。結果として、日本の創薬エコシステムの発展につながることに期待を寄せた。そのうえで、「国内外の製薬企業・VC・アカデミア・スタートアップ・CRO・CDMO等間での、協力関係構築や技術・人材・資金の好循環を念頭にした取組みを強化、推進する」と強調した。
多様なステークホルダーが参画する創薬エコシステム構築に向けて、日本の実情を国外に発信する必要性も指摘。J.P. Morgan Healthcare ConferenceやBIO International Conventionなど国際イベントを通じたネットワーク構築が重要と表明。日本での活動を“見える化”することが、グローバルVCの呼び込みにもつながると期待を寄せた。
◎調整役に前経産省生物化学産業課長の下田氏「海外からの視点でギャップ埋める」
創薬エコシステム構築に向けてAMEDの体制も強化する。同日設置する調整役について、中釜理事長は、「国内と海外との懸け橋となっていただき、創薬または政府におけるエコシステムのさらなる強化に積極的に尽力をいだきたい。大いに期待している」と話した。
下田調整役は、「ベンチャー企業をより大きなバリューで、イグジット(EXIT)させて創薬に結びつける時に、日本だけではなくグローバルを見据えて育てる必要がある」と説明。「海外の視点、VCや製薬企業の視点を見ると、日本のシーズンはもう少し磨き上げ、海外から見ても魅力的なものにしていかければいけない。一方で、AMEDでは、色々な素晴らしい研究がある。それがどうつながって世界の注目するシーズになるかかというところには、一定のギャップがあるのではないか」と指摘。「私が調整役になったのは、そこのギャップを埋めるために海外からの視点、あるいは海外のコミュニティーから早め早めにAMEDでやっていることを知ってもらい、つないでいく。出口から見て、逆算して、必要なところにアプローチしていくということも大事だと思っている」と話した。
◎「ベンチャーが育てばCDMOも育つという絵を描き、全体を見ながらサポート」
目指す創薬エコシステムの姿について下田調整役は、ベンチャー企業を支援するうえで、スケールアップなどの製造の課題や技術、品質など様々な課題があると説明。「実はAMEDでも、製造プロセスの開発や基礎研究も色々行っている。こういったところをつなぐというのも、大事なコエコシステムの1つだと思う」と説明。さらに、「CDMOという形で、色々な製造技術がビジネス化して成り立っていく時には、ベンチャーと一体となり、ベンチャーが育てばCDMOも育つというような絵を描き、全体を見ながらサポートしていくというのが大事だと思う」と述べた。
◎海外のプレーヤーとつないで「最短ルートの絵を描きながら場作りする」 AMEDが大きな役割
AMEDの役割について、個々のベンチャー企業への交付金などだけでなく、「課題を見つけ、人と人、企業と企業をつなぎながら、この相乗効果を作っていく」と説明。「その時には日本のプレーヤーだけでなく、海外のプレーヤーともつないで、最短ルートでやっていくという絵を描きながら場づくりをする」必要性を強調した。6月26日に首相官邸で開かれた「創薬力向上のための官民協議会」についても、「単なる政府と民間の対話の場というだけでなく、グローバルな視点でのつなぎをする。世界のニーズと日本のニーズ、シーズとシーズをつなぐ場でありたい。こういうところにAMEDがかなり大きな役割を果たすのではないか」と話した。
◎国内製薬メーカー参加でイグジットの流れを
海外のエコシステムと連携する必要性について下田調整役は、海外VCと日本のVCとの規模の違いを指摘し、資金面での重要性を指摘した。そのうえで、「ハンズオンの支援いうか、世界のマーケットに打って出る、また、承認を取るというところの人脈と、この経験をつないでくるというところもポイントになっている」として、ヒト・モノ・カネの観点から国内外のエコシステム連携の必要性を強調した。一方で、実用化の出口の段階では、国内製薬企業の参画の必要性も指摘。「(AMED事業が)日本の政府の補助金ということを考えると、国内製薬メーカーに大きな裨益をしてもらいたいというところもある。早め早めにそういうところにも参加してもらって、イグジットのところを考えてもらう流れを作っていきたい」と意欲を語った。