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子宮頸がんはHPVワクチンで「排除」可能のがん MSDセミナー

公開日時 2021/02/12 04:50
MSDは2月4日、HPVワクチン「シルガード9」承認、および「ガーダシル」適応追加に関連してメディアセミナーを開催した。2020年7月に承認された国内初の9価ワクチン「シルガード9」と、同年12月に男性への接種対象を拡大した「ガーダシル」に関する内容で2部構成。前者は新潟大大学院医歯学総合研究科・産婦人科学教室特任助教の工藤梨沙氏が「子宮頸がんとシルガード9の有効性」、後者は愛知医科大学大学院医学研究科・臨床感染症学主任教授、三鴨廣繁氏が「男性接種の意義と肛門がん」についてそれぞれ講演した。

◎日本では子宮頸がん数増加 世界的な流れに逆行

日本では子宮頸がんの罹患率と死亡率は年々増加しており、40歳未満の罹患率は発展途上国並みの世界27位、OECD加盟国でワースト3位に入る。加えて発症年齢の若年化も深刻な問題となっている。

子宮頸がん等を発症させるHPV(ヒトパピローマウイル)は100種類以上あり、多くは疣(いぼ)の原因となる“ありふれた”感染症で、うち15種類が発がんに関与。主に性交渉によって感染し、感染しても90%以上は自然消失するが、一部で持続感染し、数年から十数年かけて子宮頸がんになる。子宮頚がん以外にも腟がん、外陰がんのほか、肛門がん、陰茎がん、咽頭がんの発症にかかわり、男性にも関連する。

最初に講演した新潟大学の工藤氏は子宮頸がんについて、「がんの進展過程が判明しているため、一次予防としてのHPVワクチン、二次予防としての子宮頸がん検診という予防手段が整っている数少ないがん。特にワクチンによって新規発症者のいない排除(Elimination)の状態にすることも可能だ」と特徴を述べた。

そのうえで、子宮頸がん検診の成功例としてイギリスの例を紹介。同国ではもともと浸潤子宮頸がんの罹患率は人口10万人に対して15人前後だったが、1980年代半ばに国家事業として阻止型検診を導入し、受診率が80%を超えると前がん病変への早期治療介入ができるようになり、罹患率は10人程度減少した。一方、日本の検診受診率は現在も40%程度にとどまっている。

加えてHPVワクチンの接種状況について世界でHPVワクチンを国の予防接種プログラムとしている地域は100カ国以上に上り、接種率の向上でHPV感染や前がん病変の減少、さらには子宮頸がんの減少が明らかになっている。しかし、定期接種の積極的勧奨中止以降、接種率が激減している日本の現状を振り返ると、「世界的にみても異常な状態」(工藤氏)だという。

浸潤子宮頸がんの減少を報告したスウェーデンのデータは160万人以上を国家規模の統計を用いて160万人以上のワクチン接種者を解析したもので、ワクチン接種者では63%の浸潤子宮頸がん減少効果あり、特に推奨される17歳前に接種した場合は88%の減少効果が報告されている。

日本においても積極的勧奨中止前のHPVワクチン接種世代(1994~1999年生まれ)の接種率はピーク時8割弱と高く、この年代を対象にした研究で、がんを発症させるHPV16/18型感染率や前がん病変発生率が顕著に減少するといった有効性に関するデータが出始めている。半面、積極的勧奨中止の原因となった副反応に関して厚生労働省の調査によると、⽉経異常、頭痛、めまいなど副反応疑いは0.005%にすぎない。

こうした現状を踏まえ、工藤氏は「HPVワクチンの有用性と安全性は国内外から多くの報告がなされており、世界は子宮頸がん排除に向けて進んでいるが、日本は取り残されつつある」と危機感を示した。

2020年7月に承認され、2月24日から発売される「シルガード9」は、国内初の9価HPVワクチン。4価HPVワクチンのHPV6/11/16/18型に加え、新たに高リスク型(発がんに関与)のHPV31/33/45/52/58型が含まれており、同ワクチンにより90%以上の子宮頸がんを予防できる可能性が示唆されている。4価HVPワクチンと比較した国際共同試験によると、追加されたHPV31/33/45/52/58型が97.4%減少し、9価HVPワクチンの有効性が確認された。

WHOは2030年までにワクチン接種率90%を目標に掲げている。この目標値について現状の日本で実現可能かという問いに対して工藤氏は、「まずは積極的勧奨を再開する必要があるが、中止前の7~8割に到達するのもかなりの時間がかかる。学校で接触するなど工夫していかないと達成は難しい」との認識を示した。

また、シルガード9は当面は任意接種となるものの、9価HVPワクチンは多くの国で定期接種化されている。MSD株式会社代表取締役上級副社⻑でグローバル研究開発本部⻑の白沢博満氏は、「当社は多大な需要に対して大きな投資をして供給量を年々増やしているが、ワクチンはリードタイムが非常に長い。日本で将来的に定期接種化して、安定して大量に供給できるのは2023年頃になる」と述べる一方、「HPVワクチンの有用性や安全性は確立されており、WHOなどは毎年1万人が子宮頸がんに罹患し、3000人弱の方が亡くなる日本の現状に対して大きな懸念を持っている。まずは定期接種となっている2価と4価の積極的勧奨を速やかに再開することを強く要望する」と訴えた。

◎自分とパートナーを守る男性接種の意義

続いて愛知医科大学の三鴨氏が、4価HPVワクチン「ガーダシル」の適応追加の意義について講演。ガーダシルは昨年12月、接種対象者を女性に限らず「9歳以上の者」として拡大、さらに効能・効果として「肛門がんおよびその前駆病変の予防」が加えられた。HPVは、子宮頸がんワクチンとも呼ばれているため、女性特有のウイルスと思われることが多いが、男性にも感染し、男女共通の疾患である肛門がんや尖圭コンジローマを引き起こす。

男性のHPV感染率は全年代で5~7割に達しており、男性から女性への感染発生率は7%ほどある。これらのデータを踏まえて三鴨氏は「男女平等に予防していくべきウイルスであるのは明らかだ」と指摘した。すでに海外では40以上の国と地域で男性を対象にした公費助成があり、GNV(Gender Neutral Vaccination)の考え方の広がりを背景に男性接種は世界的な潮流となりつつあるという。

三鴨氏は、「男性はワクチン接種を通じて、自身のHPV関連疾患のリスクを減らすと同時にそれを伝播させることを抑制できる。加えて子宮頸がん以外のHPV関連がんには検診方法がない。HPVワクチンで予防するのは至極当然の考え方だ」と男性接種の意義を述べた。
そのうえで、オーストラリアにおけるHPVワクチン接種プログラムの導入と尖圭コンジローマの発生率の推移を紹介。同プログラムの女性への導入時、さらに男性への導入時の2段階で発生率が顕著に低下しているデータを示し、「このことからもGNVの推進がいかに大事かがわかる」と述べた。

次いでガーダシルの適応追加となった臨床試験について解説。例えば、国際第Ⅲ相試験では男性における4価HPVワクチンの有効性、免疫原性および忍容性をプラセボと比較して検討した結果、主要評価項目であるHPV6/11/16/18型に関連した性器周辺部病変の予防効果は90.6%に上っている。

最後に三鴨氏は、ワクチンで治る疾患はワクチンで予防するVPD (Vaccine Preventable Diseases)の重要性を強調し、「GNVに基づいて、VPDの考え方でHPV関連疾患を性別にかかわらず限りなくゼロにする。それがガーダシルに期待するところ」と抱負。また、MSDの白澤氏は、「男性に発症する疾患の予防ができるということに加え、パートナーの防衛、さらに皆が接種することによってコミュニティ全体の予防効果があり、社会的な意義は大きい」と男性接種への拡大を評価した。

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