MSD・タトル社長 2年連続最高売上 ”前向き“な24年度薬価改定が後押し 25年度改定は一転”後ろ向き“
公開日時 2025/05/22 04:52

MSDのカイル・タトル代表取締役社長は5月21日の定例記者会見で、2024年通期業績が前年比2%増収の約4759億円となり、2年連続で過去最高売上を達成したと強調した。増収要因として、抗PD-1抗体キイトルーダが前年比16%増、HPVワクチンのシルガード9が208%増と業績全体を牽引した。タトル社長は「前回24年度薬価改定が“前向きな改革”で、小児の適応拡大など日本への投資を継続できた」と強調。ただ、今年4月実施の25年度薬価改定に触れ、「新薬創出等加算の累積額控除など予見性の無いルールが適応された」と述べ、「わずか1年で真反対の“後ろ向きな”決定がなされたことは誠に残念」と苦言を呈す場面もあった。
◎キイトルーダ「発売以降27の適応症を取得。約22万7000人の患者に投与された」
MSDの24年グローバル通期売上は前年比7%増の約574億ドル。主力のキイトルーダは約295億ドル、ガーダシル(シルガード9)は約86億ドルでそれぞれ売上が伸長した。一方、日本国内は前年比2%増収、コロナ治療薬ラゲブリオを除くと前年比13%増収となり、同社の過去最高業績を2年連続で更新した。タトル社長は主力品のキイトルーダについて、「2017年の発売以降27の適応症を取得。約22万7000人の患者に投与された」と報告。24年は新たに6つの適応症を取得したほか、現時点で78の臨床試験が進行中だとして、「より多くの患者さんががんと闘えるよう引き続き貢献していきたい」と意欲を示した。
一方、HPVワクチン・シルガード9については、子宮頸がん検診と受診率を大幅に改善するほか、キャッチアップ接種の経過措置対象者に対して2026年3月までの全3回接種完了を促進する考えを強調した。定期接種世代(12~16歳)の接種率向上にも注力する。ただし、都道府県別のワクチン接種率に差があることに触れながら、「居住地ごとで接種率に差があることは問題だ」とし、公衆衛生上のギャップを埋める啓発活動に取り組む考えを強調した。
◎HPVワクチンの男性接種「性別を問わないでワクチンの接種できるようにしたい」
タトル社長はまた、HPVワクチンの男性接種にも触れた。「日本ではHPVワクチンを子宮頸がんワクチンと捉えるが、他国ではHPV関連疾患を予防するワクチンとして捉え、性別を問わない接種が一般的になっている」と強調。「70を超える国・地域で性別を問わない接種が行われ、公費助成が行われている。G7で男性接種が行われていないのは日本のみ」と指摘し、男性接種を対象とした臨床試験を通じ、適応取得に取り組んでいきたいと述べながら、「最終的には性別を問わないでワクチンの接種ができるようにしたい」と意気込んだ。
◎米トランプ大統領の薬価引き下げ大統領令「日本の医薬品産業に必ず影響が出る」

会見では米トランプ大統領の薬価引き下げに関する大統領令にも話題が及んだ。タトル社長は、「(大統領令を)実行するにしても具体的にどんな影響があるのか、どの範囲でやるのか、どの製品に影響があるのか、どの国が対象になるのか分からない」と指摘。ただ、「私自身、多国籍企業の日本支社長として今回の最恵国の影響は日本の医薬品産業に必ず影響が出ると思う」と見通した。
◎「状況が悪化するのではとの懸念を持っている」
その理由としてタトル社長は、「革新的新薬や特許品などは米国の価格より63%低いとPhRMAが試算している」と述べ、「日本では市場拡大再算定や毎年薬価改定など様々な価格改定ルールがある中で、価格の予見性を持つことは難しい。最恵国のポリシーがどう採用されるかにもよるが、多国籍企業はこれまで以上により厳しい目を持って、どの国にどの製品を導入するか検討するだろう。そうすると状況が悪化するのではとの懸念を持っている」との見解を述べた。