日本イーライリリーのシモーネ・トムセン社長は4月13日、2020年業績会見をウエブで行い、MR活動や医療従事者向け自社サイトなどすべての情報チャネルの合計で顧客と150万回のデジタルコミュニケーションを実現したと発表した。
19年に比べ、35%以上増加しており、コロナ禍にみまわれた20年にいち早くバリューチェーン全域にわたる患者・顧客志向のデジタル化を推進した結果だと自信をみせた。臨床試験については、リモートモニタリングを活用することで、計画通りの進捗を達成できたことも紹介した。トムセン社長は、「20年は5つの新製品や適応追加に加え、デジタル活用を加速することで意味ある価値を日本の患者さんに提供できた」と強調。「21年以降の成長のための礎を強固に築くことができた」と述べた。
■対面訪問は40%未満、60%以上はデジタルで顧客と接点
同社は、20年6月はじめまでに、全MRにリモート面談機能を実装し、“対面+デジタル”のハイブリッド型の活動を始めた。20年のMR活動は、対面訪問は40%未満で、60%以上はデジタル(=電子メール、リモート面談、電話など対面以外の活動)で顧客と接点をもったという。21年もハイブリッド型の活動を推進し、顧客との機会拡大を図る。
トムセン社長は21年のMR活動を含む情報活動全体について、「マルチチャネルによる顧客アプローチを加速させる」、「私たちがやりたいことは正しい情報を、正しい顧客に、正しい時間に、正しいコミュニケーションチャネルを通じて提供することだ」と強調し、21年は顧客とのコミュニケーション機会を25%アップさせる考えを示した。デジタルに継続的に投資する構えもみせた。
同社のデジタルを用いて医療従事者とコミュニケーションをとる取り組みは10年以上になり、社内では「e-MR」や「e-学術」と呼称し、医療従事者向けサイトは「Lillymedical.jp」として展開している。同サイトは20年に72万アクセスを達成し、19年比で30%以上伸ばした。
■21年も5製品の承認取得を計画
同社は20~25年の6カ年の中期経営展望を掲げている。重点領域は糖尿病、がん、自己免疫疾患、筋骨格・中枢神経疾患――の4領域で、「25年までに累積2350万人の日本の患者のより豊かな人生に貢献する医薬品を提供すること」をゴールのひとつとしている。トムセン社長は、21年は「ゴールの達成に向けて重要な年」、「継続的な成長への重要な年」と述べ、21年に予定している5製品の上市及び追加適応の承認取得と、デジタル化のさらなる推進に取り組む意向を示した。
21年に承認取得を計画している5製品は、▽SGLT2阻害薬ジャディアンスの慢性心不全の追加適応▽CDK4/6阻害薬ベージニオの乳がんにおける術後補助療法の追加適応▽RETキナーゼ阻害薬selpercatinib(開発コード:LY3527723)▽片頭痛を対象疾患とする5-HT1F 受容体アゴニストのlasmiditan(同LY573144)――の4製品と、1月に承認を取得した片頭痛薬の抗CGRP抗体エムガルティとなる。
同社の公表資料によると、selpercatinibは▽RET融合遺伝子陽性非小細胞肺がん▽RET遺伝子変異陽性甲状腺髄様がん▽RET遺伝子異常を有する小児固形がん(小児適応)――で開発後期にあるが、どの適応で最初に承認取得を計画しているのかは不明。
■JAK阻害薬バリシチニブ 新型コロナ治療薬として国内申請
同社の吉川彰一バイスプレジデント(執行役員 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)は会見で、経口JAK阻害薬バリシチニブ(一般名、国内製品名:オルミエント)について、20年12月25日に日本で、「SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)による感染症」の適応追加を申請したことを明らかにした。
今回の申請は、新型コロナの入院患者に対するバリシチニブ使用を評価した、米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー感染症研究所(NIAID)主導の国際共同第3相試験(ACTT-2)をベースにしたもの。同試験は8か国67施設で1033人の患者が登録され、バリシチニブとレムデシビル併用療法群とレムデシビル単独療法群について、主要評価項目を「治療期間における回復までの期間」として評価した。
吉川氏によると、全患者(1033人)では回復までの期間がバリシチニブ群は7日、対照群は8日で「統計学的に有意に1日短縮した」という。酸素吸入や人工呼吸器を必要とするいわゆる重症患者216人にしぼって評価したところ、回復までの期間はバリシチニブ群は10日、対照群は18日で、バリシチニブ群で有意な期間の短縮を示したと説明した。
■20年売上2671億円 2.9%減 トラゼンタの売上計上変更、フォルテオ特許切れで
同社の日本市場における20年売上は2671億円で、前年比2.9%の減収だった。数量は0.8%伸びた。独ベーリンガーインゲルハイム(BI)と糖尿病領域のグローバルアライアンスを結んでいるが、契約内容を19年に更新した結果、DPP-4阻害薬トラゼンタの売上を20年からBIに計上することになった。これが日本での20年の減収要因のひとつとなる。トムセン社長は、トラゼンタの影響を除外した場合、「1ケタの成長率を遂げることができた」と説明した。
20年は2製品の新製品(超速効型インスリンアナログ製剤ルムジェブ、低血糖時救急治療薬バクスミー)の上市と、トルツ、サイラムザ、オルミエントの3製品で適応追加等の承認を取得した。これらの新製品・適応追加品に加えてトルリシティ、ジャディアンス、ベージニオなどの成長製品も堅調に売上を伸ばし、「新製品・成長製品」の売上は1119億円(前年比27%増)で、全売上に占める割合は42%と前年から10ポイント伸びた。
長期収載品などで構成する成熟製品の売上は1552億円(同17%減)で、全売上に占める割合は58%となった。特に19年11月にバイオ後続品が登場したフォルテオは売上278億円で、36%減となった。
国内主要製品の20年売上(億円、1000万円以下切り捨て、薬価ベース)と前年比は以下の通り。
サインバルタ 637 4.4%増
サイラムザ 521 7.5%増
アリムタ 404 9.2%増
トルリシティ 333 17.2%増
フォルテオ 278 36.0%減
ジャディアンス 273 22.7%増
ベージニオ 194 87.3%増
オルミエント 141 62.3%増
トラディアンス 129 100.6%増
ヒューマログ/ヒューマリン 116 4.6%減
ジプレキサ 106 18.1%減
ストラテラ 79 48.8%減
ヒューマトロープ 72 6.9%減
トルツ 68 23.3%増
インスリングラルギンBS注「リリー」 46 3.7%増
エビスタ 40 23.2%減
ジェムザール 13 21.8%減
バクスミー 0 -
ルムジェブ 0 -