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広島大学 寄付講座めぐり医師がグラクティブの使用働き掛け「利益相反の観点から問題」調査会が報告書

公開日時 2023/02/24 04:52
広島大学は2月22日、小野薬品から寄付を受けて設置した寄付講座をめぐり、当該医師(M寄付講座教授)がDPP4阻害薬グラクティブの採用や使用を院内のスタッフに働きかけるメールを送ったことは、「利益相反の観点から問題」とする調査会報告書を公表した。外部の弁護士を含む調査会は法令違反(第3者供賄)についても検討したが、「寄付行為とグラクティブの採用・使用を勧めるなどの行為に対価性が存するものと認められない」として、第3者供賄罪が成立するとは言えないと結論づけた。広島大学は本件について謝罪するとともに、当該医師に停職2か月の懲戒処分としたが、本人から同日付で辞職願が出され、受理した。

2022年11月1日、広島大学の公益通報窓口に一通の連絡が入る。内容は、大学院医学系科学研究科糖尿病・生活習慣病予防医学講座のM寄付講座教授が、小野薬品の薬剤を院内採用し、使用量を増やすよう内分泌・糖尿病内科の医局員に指示し、その見返りとして小野薬品から寄付を得ている―との内容。公益通報では、時間外労働の不許可等も含まれていた。

これを受けて広島大は11月18日から内部調査に着手。12月8日に外部弁護士3人を含む計6人で構成する「広島大学寄付講座等に関する調査会」(座長:木村豊弁護士)を設置し、院内や小野薬品の関係者など総勢19人の事情聴取および書面調査を行った。調査会は2月20日まで計12回開催された。

◎M寄付講座教授がR教授(薬事委員会委員長)に宛てたメール

M寄付講座教授がR教授(薬事委員会委員長)に宛てた2017年11月15日付のメール。タイトルは「グラクティブ錠の採用について」。
 「先週、申し上げました「在米日系人医学調査」の寄付講座については来週の教授会の議題に上がる予定だと2内科◎◎教授から聞いていますが、その内訳は、年間、O社(原文ママ・小野薬品)1500万、A社300万、B社300万、C社300万の3年間となっています。本日、O社(小野薬品)の方と話しましたが、院内採用のシタグリプチン50mgをジャヌビアからグラクティブに変更するための、薬事委員会への申請書類への理由に妙案が浮かびません。薬価は136円と138円なので、患者負担は14点と同じであれば、「寄付講座設立に対するO社(小野薬品)の多大なる貢献と、当社の糖尿病薬剤の処方を広めたいため」とストレートな理由で申請してはいけないでしょうか。事前に私が事の経緯を薬事委員会の委員の先生方に説明して回った方が宜しいでしょうか」-。

◎内分泌・糖尿病内科スタッフ、医科診療医宛てメール「一見したら破棄・削除でお願いします」

2本目のメールは2018年3月9日付。M寄付講座教授が内分泌・糖尿病内科のスタッフおよび医科診療医らに宛てたものだ。タイトルは「糖尿病薬の使用」。
 「大学病院の外来や外勤先にて、寄付講座の設立に貢献したO社(小野薬品)、A社、B社の薬剤をなるべく使ってあげてください。添付は努力目標です。一見したら破棄・削除でお願いします。(添付ファイル「DPP4阻害薬、SGLT2阻害薬.docx」)

◎ジャヌビア内服中の外来患者はグラクティブへ変更を「順位が変わるようにしたいので」

さらに、内分泌・糖尿病内科のスタッフおよび医科診療医らに宛てた2019年2月13日付のメールがある。タイトルは「処方薬について」。
 「皆さんへ(これは秘密のメールですので、読んだら削除してください。) 2018年上半期の当科薬剤使用ランキングが通達されました。【入院】メトグルコ1780件、ジャヌビア877件、シュアポスト0.25mg828件、ミグリトール658件。【外来】メトグルコ3643件、ジャヌビア1494件、シュアポスト0.25mg1299件、テネリア1085件、トラゼンタ1041件。
 そこでお願いなのですが、ジャヌビアの処方をなるべく制限し、下記のように変更してください。【入院】ジャヌビア→テネリア、【外来】ジャヌビア→グラクティブ(院外)>テネリア。
 現在、ジャヌビアを内服中の外来患者には(なにかの機会に)グラクティブへ変更を、ジャヌビア内服中の患者が入院してきた場合にはテネリアへの変更を検討してください。下半期で変更を行い、2019年度の上半期にはDPP4阻害薬の順位が変わるようにしたいので、是非協力をお願いします。」

◎「もうしばらく私にお付き合いください」

グラクティブの採用に関しM寄付講座教授が内分泌・糖尿病内科のスタッフに宛てた2019年9月20日のメール。タイトルは「寄付講座」。
 「スタッフの皆さんへ。本日、いろいろなことで急展開がありました。まず朝一で、T病院長から電話がかかってきて、寄付講座の延長ができないか(つまりはこの1-2年での診療科としての独立は難しい)と問い合わせがありました。O社(小野薬品)の本部長に電話をし、グラクティブの院内採用が条件で、寄付の2年間延長が約束されました。
 その後、薬剤部のR教授、そして夕方、O社の広島担当者と協議し、夜にT病院長と面会しました。その結果、院長下知とR教授の承諾により、グラクティブの院内採用(ジャヌビアは院外)が決まりました。いつからかは分かりませんし、K社にも事情を説明しなければなりません。ただ、私は10月に大阪のO社に行って、取締役の方々の前で在米日系人医学調査の成果と、IoT遠隔医療の計画・展望についてのプレゼンと寄付延長のお願いに行ってくるつもりです。
 寄付講座は3年、2021年3月までの予定でしたが、5年、2023年までの延長となります。そして、2022年の秋の糖尿病地方会を担当します。もうしばらく私にお付き合いください。よろしくお願いします。」

―この結果、2019年12月18日の第5回薬事委員会において、ジャヌビア錠50mgからグラクティブ錠50mgの院内取引が開始される。グラクティブの院内処方量(50mg錠、25mg錠、100mg錠の合計)は、2017年度の441錠が、18年度に1万7414錠、19年度は2万6366錠、20年度は2万6345錠、21年度は2万5592錠、22年度は1万3111錠となった。また寄付講座は、20年9月ごろにO社(小野薬品)のほか、2社から寄付が見込まれることにより、2年間の延長となる目途が立つ。ただ、21年1月末ごろに小野薬品から寄付講座延長の寄付を断る旨の連絡を受け取っている。その後、この寄付講座はC社、D社を寄付者とし、総額4200万円、設置期間21年4月1日から23年3月31日まで2年間延長した。

◎「患者の利益よりもO社の利益を優先させているのではないか」

報告書では利益相反上の問題点を検証している。ここに紹介したメールにあるようにM寄付講座教授は小野薬品が寄付講座に寄付したことを理由に採用申請を行いたいとの意向を示している。また、R教授とのメールから、グラクティブの「院内採用」に向けた働き掛けがあった。ただ、この点についてはR教授から「院内採用」ではなく、「院外採用」を提案され、2017年12月にM寄付講座教授は「院外採用」を申請していた。この時、グラクティブとジャヌビアの患者負担額に違いが無いことも話し合われているが、調査委員会の見解は、「患者の利益よりもO社(小野薬品)の利益を優先させているのではないかとの疑念を抱き、その結果、同病院の社会的信頼を低下させるおそれがあるといえる」と指摘。M寄付講座教授の働きかけは「利益相反の観点から問題があったと言わざるを得ない」と強調した。

さらに2018年3月9日付のメール(糖尿病薬の使用)についても「今後の院内採用を見据えてグラクティブの使用量の増加を図りたいという思いがあったのではないか」と指摘。2019年2月13日付のメール(処方薬について)も、寄付講座の寄付した企業が製造販売する医薬品の使用を積極的に求め、その上で、さらに「O社(小野薬品)が製造販売するグラクティブを最も有利に取り扱うことを求めるメール」として、患者の利益よりも小野薬品の利益を優先させようとしているとの疑念を抱くとし、「2月13日付のメールを送付した行為は利益相反の観点から問題があったものと考える」と結論付けた。

このほか調査委員会の報告書では、2019年12月8日の薬事委員会でグラクティブの「院内採用」が承認されたことについて、内分泌・糖尿病内科からの申請でなく、薬剤部から上程され薬事委員長宛てに医薬品新規採用申請書が提出されていないことを明らかにしている。報告書では、本来されるべき手続きが取られておらず、「この時の薬事委員会の対応は、利益相反に関しての配慮は全くなく、手続き上問題があったと指摘せざるを得ない」と断じた。

◎「寄付行為とグラクティブの採用・使用を勧めるなどの行為に対価性が属するものが認め難い」

一方で法令違反(第3差供賄)については、「寄付講座開設時」については、「寄付行為とグラクティブの採用・使用を勧めるなどの行為に対価性が属するものが認め難い」として、第3者供賄が成立するとは言えないとした。また、「寄付講座延長時」については、2019年9月20日ごろにM寄付講座教授が小野薬品のH製品企画部長に電話して、寄付の延長を頼んだものの、直ちには難しい等との消極的な回答に止まり、同日に寄付の延長を約束したことを否定する供述をしていることを指摘。さらに、小野薬品の社内手続きにおいても、本社営業本部の営業企画推進部の審査、総務部の決済を経て進められるもので、一社員のみで決められるものではないとし、「グラクティブの院内採用を動機として寄付を行うという約束が成立したとは認め難く、請託があったとも認め難いから、第3者供賄が成立するというには疑義があると言わざるを得ない」とした。

◎広島大 利益相反に関する研修を義務化 医薬品の採用手続きの厳格化も

広島大学は同日、「このような事態が生じたことは極めて遺憾であり、患者さんをはじめ関係する皆様に多大なご心配とご迷惑をおかけしたことを心よりお詫び申し上げます。調査結果を真摯に受け止め、今後は再発防止のための取り組みを一層強化するとともに、さらなる啓発活動を推進し、全学的に利益相反に対する意識向上を図るとともに、信頼の回復に全力を挙げる所存です」とコメントした。また、医薬品の採用手続きを厳格化するほか、すべての教職員を対象とした利益相反に関する研修を義務化する方針を明らかにした。


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