SMO（治験施設支援機関）のメディファーマによるGCP違反で、医師の電子署名に係るID/パスワードがメディファーマと共有され、保管されていることがわかった。メディファーマが医師に代わって電子症例報告書に電子署名していたのかは現時点では不明だが、「（症例報告書を）本当に医師が確認して署名していたのかがわからなくなっていた」（厚労省医薬局医薬品審査管理課）という。治験の信頼性が根底から揺らいでしまう可能性があることに加え、創薬プロセスの各段の加速・効率化に向けた治験DXにも逆行する事案で、厚労省は「許し難き行為」と憤りを見せている。

メディファーマのGCP違反は、厚労省が10月17日に公表した（記事はこちら）。厚労省に同社がGCP違反を行っているとの通報が寄せられたことから、８月下旬から９月に計３回、同社と関係医療機関に立入検査を実施。主な違反として、▽治験データの改ざん、▽呼吸機能検査の不適切な実施、▽医師・施設スタッフ・CRCのIDパスワード共有、トレーニング代理受講、▽治験薬保管不備の隠蔽――の４点が確認されたとした。そして厚労省は18日、これらの違反の詳細などについて本誌取材に応じた。

◎治験参加基準を満たすための不適切な指導も

治験データの改ざんでは、治験薬の投与時間、採血時間、血圧の測定値が改ざんされていた。

呼吸機能検査（スパイロメトリー）の不適切な実施に関しては、同社の治験コーディネーター（CRC）が治験参加希望者に同検査で低い値が出るように息の吹きだし方を指導し、治験の参加基準を満たすようにしていた。厚労省は、「治験に組み入れたいがための意図的な行為で悪質」と非難した。

ID/パスワードの共有では、「膨大な数」が同社と共有されており、医師の電子署名に係るものもあった。厚労省は、ID/パスワードを同社に提供した医療機関・医師側にも責任は「当然ある」と指摘。特に医師の電子署名のID/パスワードの共有に関しては、「医師自身がメディファーマとの共有を知っていたかどうかにかかわらず、電子印鑑が預けられていたこと自体が問題」だとした。医師に受講が義務付けられているトレーニングの代理受講も確認された。

治験薬保管不備の隠蔽では、保管庫の温度逸脱の隠蔽、温度記録の改ざんが確認された。

◎メディファーマ関与の治験で25製品承認　「現時点で承認取り消しはない」

同社は2012年12月に設立した。厚労省によると、創業からこれまでに医療機関から医薬品116試験、医療機器７試験の計123試験の治験業務を受託した。全試験がGCP違反に該当するかは現在精査中で、厚労省は同社に自主点検と報告を指示している。

同社が関与した治験でこれまでに医薬品23製品、医療機器２製品の計25製品が承認されている。医薬品は、ほとんどが医療用医薬品で、一部が一般用医薬品。厚労省によると、立入検査後に、これらの承認品目の製造販売業者に対し、同社関与のデータを全て削除した場合の治験結果に問題がないかを確認してもらったという。その結果、「各製造販売業者から、安全性、有効性の結論自体は変わらないとの報告を受けた」とし、「現時点では承認取り消しということはない」と述べた。

◎厚労省　製造販売業者はむしろ被害者に近い

25の製品名や製造販売業者名は開示されていない。この理由については、現時点で健康被害の報告を受けていないことに加え、「現時点で今回のGCP違反に製造販売業者の関与は確認されていない。製造販売業者はむしろ被害者に近く、製品名や業者名を開示すると風評被害につながる可能性もあるため公表していない」と説明した。

◎メディファーマ　「起こしてしまった問題というのは、大変大きな問題と認識している」

同社はこの日、本誌取材に応じ、厚労省が10月17日に発表したGCP違反の内容に「相違はない」とした上で、「関係各所、製薬メーカー、医療機器メーカー、医療機関、治験に参加していただいた患者様に対して深くお詫びを申し上げる」と陳謝した。

創業から10年以上、組織ぐるみの違反を繰り返していたのではないかとの指摘があることについては、「現在、厚労省の協力を仰ぎながら調査中のため、コメントは差し控える」とした。「弊社が起こしてしまった問題というのは、大変大きな問題と認識している」とも述べた。