内閣官房は12月27日、「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」の初会合を開いた。日本の創薬力を強化する創薬エコシステムの構築が急務となる中で、核となる「株式会社先端創薬機構(案)」の設立構想が構成員から提言された。政府からの資金不足などが指摘される中で、国からの予算に加えて民間からの資金調達を活発化させることで、創薬開発の資金を還流させ、投資回収の予見性を確保するエコシステムの姿を描く。構想会議は、来春を目途に中間とりまとめを行い、与党調整を経て来夏の骨太方針への反映を目指す。
◎民間企業資金、国内外VCからの資金でファンド設立も視野 キャピタルも
同日の会議で提案された、“株式会社先端創薬機構(案)”は、創薬エコシステムの核となるグローバルに開かれた創薬センターのこと。日本発の革新的新薬創出に向けて、起業を目指すアカデミアやスタートアップを選抜。「治療標的の評価」から「開発候補品の創製」、さらには「早期臨床試験準備」の期間を、資金面、技術面、運営面、知財確保など総合的に支援することを想定する。
機構の下には、認定ベンチャーキャピタル(VC)の「先端創薬機構キャピタル(仮)」を置き、その下に「機構ファンド」を設立し、スタートアップに初期投資を行う。ファンド(基金)は、国費、民間企業資金、国内外VCからの資金で設立。これにより、「政府の競争的資金の獲得」も視野に入れる。早期段階では、VCからの資金調達も難しいことが指摘される中で、資金面でサポート。開発品の見通しが立った段階で民間のVCからの投資を呼び込み、機構VCの比率を下げることも視野に入れる。AMEDからはスタートアップ支援を除く、運営費や人件費、アカデミアの研究費要支援などを受ける。
◎機構の設立費用 インキュベーター設立に500~1000億円 運営費用は年間300億円
機構の設立や運営にかかる費用については、インキュベーター設立に500~1000億円。年間の運営費用は、年間300億円を見込む。運営費用は、AMED資金の流用に加え、薬価改定費用の流用なども提案した。
技術支援としては、①製薬企業の有する完成度が高い創薬技術の提供(製薬企業)、海外CROやCMO/CDMOも活用、②アカデミアの先端技術の提供(計測・解析技術、新規創薬技術)としている。
“株式会社先端創薬機構”構想を提案した永井良三構成員(自治医科大名誉教授)は、創薬の主流が低分子からバイオ医薬品へと変革する中で、「新たな死の谷」が生れていると指摘。創薬支援を行う政府の組織としては、AMEDがあるが、創薬全体で約400億円。一方、バイオ創薬は初期からファーストインヒューマン試験までに10~100億円/製品で、「予算不足」と指摘。また、AMEDにはスタートアップに対する十分な支援体制(資金・人材)が整備されていないとして、新たな機構の設置が必要としている。
◎鴨下一郎座長代理(内閣官房参与) バイオ医薬品の創薬「日本も世界に肩を並べる水準目指す」
鴨下一郎座長代理(内閣官房参与)は会合後の記者会見で、アカデミアから日本にはシーズがあるとの声があがっているとしたうえで、「シーズを開発から国民の手に渡るまでの日本全体での、いわば一気通貫の創薬エコシステムがやや遅れてしまった」と課題を指摘。「開発するメーカー、あるいはベンチャーにとって、投資の回収が予見できるような、全体的なエコシステムを作っていかなければいけない。それが最終的には、国民の皆さんに最新の医薬品を迅速にお届けするということにつながる」との考えを示した。
コロナ禍で、国産ワクチンが生れず、外資企業に「頼らざるを得ない」状況だったことを振り返り、「バイオ医薬品の創薬について日本も世界に肩を並べ、プレイヤーの1人としてやっていける水準にまではたどり着きたい」と意欲をみせ、国際競争力強化に向けた基盤整備を急ぐ考えを示した。「日本の中で外資が活躍してもいいし、日本の内資企業がグローバルな分野で活躍してもらってもいい。その水準に内資企業があってほしいということも含めて、これから環境整備をしていくということだろう」と話した。
◎上原明構成員(大正製薬取締役会長) セルフメディケーション推進の必要性を強調
この日の会合では、OTCを含めたセルフケアについても議論が及んだ。上原明構成員(大正製薬取締役会長)は、国民皆保険制度を維持するために、医療費を効率的・効果的に活用することを指摘。セルフメディケーションを推進する必要性を強調した。そのため、国民の健康リテラシーの向上や、OTC医薬品・検査薬の拡大・申請手続きの簡素化、セルフメディケーション税制上限の引き上げなどを訴えた。
鴨下座長代理は、「日本の産業の中で、製薬・創薬あるいはヘルスケア分野は、非常に有望だと思っている。今は社会保障、特に診療報酬の中での考えになっているが、むしろ外側に産業政策としての概念というのを入れていきたい。開発に携わっている方々にとってみれば、リスクを取って開発している。それなりのリターンがきちんとあるような仕組みにしていかないと、みんなのモチベーションが上がらない。こんなことも意識はしていきたい」と話した。
構想会議は、村井英樹内閣官房副長官が座長を務める。鴨下座長代理は、「私達はコロナ禍の3年間の教訓で、日本の創薬力、あるいは製薬について様々な問題があるということを実感した。国民の皆様の健康、生命に直結する課題だと思っている。製薬は、これからも日本のリーディングインダストリーであるとも思っている。国民の皆様に良いお薬を届けると同時に、日本の製薬産業が世界の競争力をもう一度取り戻す目的で会議が設置された」と述べた。鴨下座長代理は、今年9月に内閣官房参与(健康・医療戦略担当)に就任しており、創薬の司令塔機能をめぐる舵取りを担っている。鴨下座長代理は、「この会議は一つの私の役割の方向性をこれから作っていくための仕事だろうと思っている」とも話した。
◎構成員に前武田薬品代表取締役の岩﨑真人氏
構成員は、岩﨑真人(前武田薬品代表取締役)、岩﨑甫(山梨大副学長・融合研究臨床応用推進センター長)、上原明(大正製薬取締役会長)、髙橋政代(ビジョンケア代表取締役社長)、永井良三(自治医科大学長)、藤原康弘(PMDA理事長)、牧兼充(早稲田大大学院経営管理研究科准教授)、間野博行(国立がん研究センター研究所長)、南砂(読売新聞東京本社常務取締役調査研究担当)、山崎史郎(内閣官房全世代型社会保障構築本部総括事務局長)(敬称略)。