
米バイオ医薬品企業リジェネロンの共同創設者であるジョージ・ヤンコポーロス取締役会共同会長・社長兼最高科学責任者(CSO)は5月12日(現地時間)、米オハイオ州コロンバスで本誌の単独インタビューに応じ、次期主力候補で複数の第3相臨床試験結果が年内に得られるとの見通しを明らかにした。日本に対しては、「科学技術を重んじる文化があり、次世代育成にも力を入れている、“志を同じくする国”だ」と今後の事業展開への強いコミットメントを語った。このほか、自らの経験に根差した“若い科学者の育成”への思いを明かし、次世代の科学者やエンジニアたちに向けて熱いメッセージを送った。(米・コロンバス発 森永知美)
◎今年は複数の第3相試験データを発表
リジェネロンは、医師であり研究者でもあるレオナルド・シュライファー氏とヤンコポーロス氏の2人によって、1988年米ニューヨーク州で設立されたバイオ医薬品企業。眼疾患、アレルギー性疾患、炎症性疾患、がん、心血管・代謝性疾患、血液疾患、感染症など、幅広い複数の治療領域でパイプラインを展開している。現在、15品目の医薬品が米国およびその他の国で承認されており、いずれも自社の研究所で創出したものだ。その中には、アトピー性皮膚炎や気管支喘息に対するデュピクセントや、眼疾患治療薬のアイリーアおよびアイリーアHD、免疫チェックポイント阻害薬リブタヨといった代表的な製品が含まれる。2024年総売上は142億ドル。
◎転移性メラノーマの1次治療におけるリブタヨとフィアンリマブ併用療法の試験結果に期待感
ヤンコポーロス氏は本誌とのインタビューで、今年は複数の第3相臨床試験の結果が得られる予定で、大いに期待を寄せているとした。オンコロジーでは、転移性メラノーマの1次治療におけるリブタヨとフィアンリマブの併用療法を検討する第3相試験が実施されており、またCOPDでは抗IL-33抗体イテペキマブが2本の第3相試験で同時に検討されている。
さらに肥満治療領域では、GLP-1受容体作動薬セマグルチドにミオスタチン阻害薬トレボグルマブを上乗せすることにより、脂肪を選択的に減らす一方で筋肉を維持できるかどうかを検討する第2相試験の結果も報告される見込みで、いずれも今年後半に発表される予定である。
「これらは画期的なパイプラインのごく一部であるが、多くの患者さんに対して医療の実践そのものを変える可能性があると信じている。病気に苦しむ人々に全く新しい治療法を届けることが、リジェネロンが存在する根本的な理由である」-。ヤンコポーロスCSOは強調した。
◎日本市場に全面的にコミット 抗悪性腫瘍剤リブタヨは日本で初の単独販売製品
リジェネロンは革新的なバイオ医薬品を世界各国に届けるなかで、日本市場に対して確かなコミットメントを示している。2022年には日本法人リジェネロン・ジャパンを設立、翌年からデュピクセントのコ・プロモーションを始め、事業を開始した。医療関係者との連携も深めながら着実に存在感を高めている。加齢黄斑変性や糖尿病性網膜症といった眼疾患に対しては、同社の代表的な治療薬アイリーアを長年にわたりバイエル薬品とコ・プロモーションしてきた。また、アトピー性皮膚炎や喘息などを含む6つのアレルギー性疾患に対する治療薬デュピクセントは、サノフィとのコ・プロモーションで日本市場に参入、さらに抗悪性腫瘍剤リブタヨは、同社が日本で単独販売しており、がん治療における選択肢の多様化に寄与する重要な薬剤として、今度の展開が注目される。
◎ヤンコポーロスCSO「重要な医薬品を日本の患者さんに届けられるよう尽力する」

日本事業についてヤンコポーロスCSOは、「日本の科学は長年に渡り世界をリードしており、私達も過去の重要な研究プロジェクトで、日本の科学者たちと深い協力関係を築いてきた。科学技術を重んじる文化があり、次世代育成にも力を入れている、“志を同じくする国”だ」と語り、「日本市場および日本の医療・医師コミュニティーとの関係を私たちは非常に重視しており、今後も全ての重要な医薬品を日本の患者さんに届けられるよう尽力していきたい」と意欲を示した。
◎ 出発点は高校の科学フェア 「科学が人生を変えた」
今回のインタビューは、同社が冠スポンサーを務める「リジェネロン国際学生科学技術フェア(リジェネロンISEF、Regeneron International Science and Engineering Fair)」に、ヤンコポーロス氏が出席した際に実現したものである。リジェネロンISEFは、世界中の高校生を対象とした世界最大の科学技術コンテストで、STEM分野(Science、Technology、Engineering、Mathematics)の研究に取り組む世界中の若者に、研究成果を発表する場を提供している。高校生は世界各国で予選として開催される科学技術コンテストに参加し、それらの上位入賞者がファイナリストとしてリジェネロンISEFに参加する権利を獲得する。今年はオハイオ州コロンバスで先週開催され、世界62か国から集まった約1700名の高校生が動物科学や生物医学、細胞・分子生物学、地球・環境科学、ロボット工学・知能機械など22部門において競い合った。

リジェネロンは2020年からISEFの冠スポンサーに就任している。また、米国の高校生を対象とした最も古い科学数学コンテスト「リジェネロン・サイエンス・タレント・サーチ(リジェネロンSTS)」の冠スポンサーも務めており、STEM教育に対し、これまでに約2億ドルを投じてきたとしている。若き科学者たちの育成に力を注ぐ、その原動力は何なのか-。それは、ヤンコポーロス氏もシュライファー氏も、高校時代に科学プロジェクトに取り組み、科学フェアでの経験が自らの人生を決定付けた、という個人的な経験が根底にあるという。
ヤンコポーロス氏は、「私の祖母はアルツハイマー病を患っており、子供ながらに本気で“自分がアルツハイマー病を治すんだ”と考えていた。そうした個人的な経験が、科学と医学の道を志すきっかけとなった」とし、「私達の世代は、様々な病気や人類の存在そのものを脅かす問題を十分に解決できていない。だからこそ、次世代に私達が果たせなかったことを成し遂げて欲しい。これが彼らを鼓舞する理由だ」と熱く語った。
◎若き科学者たちへの熱いメッセージ「全てを疑い、惨めに失敗する勇気を持て」
ヤンコポーロス氏は本誌の取材を通じ、未来の科学者たちに向けて2つのメッセージを送った。ひとつは、「科学の第一原則は”全てを疑え“である。革新的な発見は常識への挑戦から生まれる」というものである。そしてもう一つは、ジョン・F・ケネディの言葉「惨めに失敗する勇気を持つ者こそ、大きな成功を得られる」を信条として大切にしていることだ。「リジェネロンは創業から最初の20年間、全く薬が承認されず、何度も資金難に陥った。それでも前例のない技術に挑戦し続けたからこそ、現在の成功がある」と強調した。
リジェネロンISEFの開会式でヤンコポーロス氏は、ファイナリストに向けて「君たちは、未来を受け継ぐのではなく、未来を創造し、救うためにここにいる。全てを疑い、失敗を恐れず、大胆に挑戦し続けて欲しい」と、力強いメッセージを送った。