静岡がんセンター・朴部長 セツキシマブは遺伝子解析で患者選別可能に
公開日時 2008/06/22 23:00
静岡がんセンターの朴成和部長(消化器内科)は6月19日、メルクセローノの
プレスセミナーで講演。転移性大腸がん治療薬で抗EGFR抗体製剤セツキシマブ
(製品名:アービタックス)の海外臨床試験で、特定の遺伝子(KRAS遺伝子)
の解析により、高い効果が得られる患者を選定できる結果が得られたと報告し
た。「KRASの変異の有無により、本剤を使い分ける時代が来るだろう」と期待
する一方、厚労省が遺伝子解析で対象患者を制限するか否かについては「縛ら
れることはないのではないか」と否定する見方を示した。同剤は17日の薬事分
科会を通過し、近く正式承認される予定。
今回発表された臨床試験の成績は6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表され
たもので、参加した国内外の消化器がんの専門家から高い注目を集めた。
朴氏が報告したのは、欧米でアービタックスの効果を検証したCRYSTAL試験(
フェーズ3)とOPUS試験(フェーズ2)。OPUSでは化学療法のFOLFOXに上乗せ
し、CRYSTALでは化学療法のFOLFIRIに上乗せした効果を検証した。ともにファ
ーストライン治療として併用した場合、野生型(非変異型)KRAS患者群は変異
型KRAS遺伝子を有する患者群に比べ、高い有効性が得られた。KRAS遺伝子の変
異は転移性大腸がんの患者の40%に認められ、予後不良になるとされる。朴氏
は「セツキシマブの有効性はKRAS野生型の患者でより大きいが、KRAS変異型の
腫瘍の患者では有益性がなかった」と結論づけた。
599人を対象にしたCRYSTAL試験では、セツキシマブの併用療法が野生型KRAS患
者で奏功率59%で、FOLFIRI単独療法群の43%に比べ、有意差をもって改善。P
FS(無増悪生存期間)は前者が9.9ヵ月、後者は8.7ヵ月で上乗せ効果が確認さ
れた。変異型KRAS患者群では、PFSはFOLFIRI単独群と併用群で差が見られず、
有益性が確認できなかった。
一方で、皮疹を主とするグレード3/4(重症例)の有害事象は併用群、単独
群で同等だったため「効果のない患者には使うべきではない」とした。皮疹の
症状が重い患者ほど高い効果が得られていることから、「皮膚毒性の重症度は
PFSと有意に相関している」とも述べた。
さらに、別の試験として、ベバシズマブ(アバスチン)との併用効果を検証し
たCAIRO2試験ではセツキシマブの上乗せ効果が証明されなかったことも紹介。
将来的には、バイオマーカー(効果予測因子)が開発され、個別化を含めた治
療戦略を主目的とする大規模ランダム化フェーズ3試験が展開されるとの見通
しも示した。