A社で同時期に内定になった2人は、見た目も性格もまったく似ていなかったのだが…。

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漫才には兄弟のコンビが多い。少年漫才のまえだまえだ、実力派の中川家、古くは夢路いとし・喜味こいし、中田ダイマル・ラケットなどの名人がいた。
子供時代を共に育つのは当然にしても、大人になってまでずっと一緒というのは、喧嘩にならないのだろうかなどとついつい思ってしまうが、考えてみると、兄弟漫才で長く続いているところは、性格が正反対というコンビばかりだ。

専門商社A社の経理と営業に、2週間ほどのタイムラグで、1人ずつの採用が決まったのは昨年暮れのこと。苗字は同じSさんであった。

経理に決まったSさん（31歳）は、いわゆる経理のイメージそのままのタイプ。緻密で几帳面、何をするにも石橋を叩いてわたるような慎重な人柄。A社に対しても、理詰めで「どうしてこの会社を選んだのか」「どう自分のキャリアで貢献できるか」を説明して、高評価を得た。

営業のSさん（29歳）は大胆さがウリ。大風呂敷を広げる度胸の良さをA社の経営層に買われて、採用が決まった。

見た目の印象も、小柄な経理Sさんに対し、肩幅の広いたくましい営業Sさんと、まるで似たところがなかった。よく経歴を見れば、同じ中学・高校を卒業していることに気がついたかもしれないが、まさかこの2人が兄弟だとは、我々もまったく気づかなかった。

そして、これは採用したA社も同じ。2人とも、兄弟で応募しているとは一言もふれなかったため、内定が決まるまでどころか、入社してしばらく経つまで、たまたま同じ苗字のSさんが入社したとばかり思われていたのだ。
入社から数週間後、業務で2人が話している様子を聞いた同僚が「いきなり下の名前で呼び捨て？」と不審に思い、真相が発覚した。

大企業ならそうしたこともあるかもしれないが、A社は従業員200名ほどの中小企業である。当然「どうして、言ってくれなかったのか？」ということになったが、
性格は真逆の2人が、この質問の答はどういうわけかピッタリ同じであった。
「いやあ、兄弟だなんて、なにか照れくさいような気がして」

まあ、そう思うのは分からなくもない。しかし、それなら一緒の会社に入るのも照れくさそうなものだ。しかし…。
「別の部署ですし、ずっと一緒に仕事をするわけじゃないですから」
2人の言うことは、ここでも見事に同じだった。性格も見た目も全然違うのに、互いに対する意識が似ているところが兄弟たる所以か。

そして、この兄弟、情報交換はしっかりしているらしく、2人ともA社の全体像を掴むのが早く、A社サイドも「実は兄弟だった2人」として名前・人柄が浸透し、2人は良い形で会社に馴染んできているという。
A社定例の新年総会、揃って挨拶することになった2人は、壇上、兄弟漫才よろしく丁々発止のやりとりをみせ、全社員を大いに笑わせたそうだ。

どういう理屈かは分からないが、似ていない兄弟というのは、同じ職場でうまくいく、ひとつの定型なのかもしれない。面白いものである。