営業で抜群の実績を持つTさんは、面接で尊大な態度を隠そうとしなかった。

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転職エージェントはサービス業、お客さまに奉仕するのが仕事である。

といっても、ほとんどの方は、エージェントを、転職を共に乗り切るパートナーと感じてくださるようで、目を見張るような経歴を持っていても、我々をアゴで使うような態度をとる方は滅多にない。むしろ、優秀な人ほど腰が低いというのが実感なのであるが…。

Tさん（39歳）は経験社数が5社ながら、20代後半から営業所の立ち上げに数多く経験しかなりの実績を残してきた、いわば拠点立ち上げのプロ。優秀なキャリアの持ち主なので、どんな人なのだろうと楽しみにしていたのだが、Tさんは転職エージェントを『業者』見なしているのか、面談が進むにつれ、我々に対して尊大な構えをとるようになっていった。

「じゃあ、会社選びは、話したような方向で。」
「わかりました。会社のリストをメールで送ります。」
「期限を必ず守るように。頼んだよ。」

若い頃からマネージメントをしてきたせいで、部下に対する口調がそのまま出ているのかもしれないと、我々はそれほど気にしていなかったのだが、面接までこの姿勢となると、さすがにマズい。
その点を助言しようとすると、言い方がカンに障ったらしく、Tさんは「そんなことは分かってる！」と、我々を一喝したのだった。

たしかにキャリアのある人には余計な一言だったかも知れないが、口調はなおせても、居丈高な雰囲気は完全には消えない。面接した企業からは、「一体、あの人はなんなのか？」というクレームに近い面接評が返ってくることもあり、実績が認められて二次面接に進んだ装置メーカーA社ですら、人事から「役員面接ではそれらしい姿勢で…。」と注文が出されていた。

ただ、その頃、Tさんの我々への態度はさらに高飛車になっていて、何をするにも命令口調。下手なことを言えば、かえって逆効果になるかもしれなかったが、話をしないわけにもいかず、我々は思いきって、Tさんにアドバイスのための電話を掛けた。
「失礼とは思いますが…。」
取りあえず、話を聞いてくれたTさんは
「私は、舐められるのは我慢ならないんだ。」
と、静かにいった。
「舐めるなんて、とんでもない。A社も実績は認めていますし、我々も面談にいらした時から、すごいキャリアの方が来たと思っていたんですよ。」
「すごいキャリア？でも、私は高卒なんだが…。」

そう。Tさんは有名大学を中退して、友人らと起業するも事業は失敗…。以後、つてを頼って、大手関連会社に入社したが、学歴が高卒扱いだったため、不遇の4年間を過ごしていた。彼のキャリアが花開いたのは、三社目以降のことだった。
「高卒ということで、ずっと仕事を任せてもらえなかった。当時は、まだ転職に否定的な人が多い時代で、動くことも容易ではなかったしね。」
「それからもう20年近く経っています。これだけのキャリアがあれば、高卒も大卒も大学中退もないじゃないですか。」
我々が言うと、Tさんは暫し言葉を失っていた。

A社の二次面接、トーンはすこし柔らいでいたものの、Tさんは役員相手にも自分は一歩も引かないという姿勢をとった。A社内では、かなりの議論があったというが、最終的には実績がモノを言って、Tさんはどうにか内定を取り付けることが出来た。

「電話でお話ししたのに、どうして面接のやり方を変えなかったんですか？」
我々の問いに、Tさんは答えていった。
「私はずっとこの姿勢で戦ってきた。これを曲げてしまったら、仕事にも妥協してしまうだろう。決して見下されない。そのかわり、態度に見合っただけの実績を必ず出す。それが私のスタイルなんだ。謙遜するのは簡単。しかし、それでは心に隙が出来る。A社もそれは望んでいないはず。」

その後の連絡でも、Tさんから我々へのメールは、上司から部下への連絡のような命令口調だ。しかし、彼の本心を知った今は、そのなかにも信頼関係ができているように思える我々なのであった。