個人事業主Kさんは、1度、転職を目指したが無残な結果に。以来、組織で働くことは諦めていたのだが…。

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Kさん（36歳）は大手ゲーム会社でエンジニアとして働いていたが、30歳を期に独立、いわゆるSOHOで仕事をしている。彼は金融危機が起こる少し前に、1度転職活動をしたことがあったが、実を結ぶことはなかった。

Kさんが転職をしようと思ったのは、個人ではじめた事業が行き詰まったからというわけではない。独立から3年あまり、仕事はまずまずうまく回っており、それなりの収入も得ていたが、個人事業主として、できる仕事の限界が見えてきた時期だったのだ。

もちろん社長となり、従業員を雇うという道も考えたが、立ち上げの会社にKさんが求めるレベルの人材が来てくれるとは到底思えなかった。もし、仕事を任せてうまくいかなければ、一気に信用を無くしてしまう。そのリスクを考えると、ある程度の規模の組織に入り、それなりの人的スタッフを得て、自分のアイディアを試す方がベターと考えたわけだ。

しかし、「個人事業主」というキャリアは、なかなか転職市場で評価されなかった。Kさんは相当数の応募をしたが、ほとんどで門前払い（書類選考不合格）という結果になった。

「3年もやると、自分で自由にやることに慣れてしまっているでしょう。組織に馴染まないんじゃないかな？」
「自分で経営をしている人は、上に対して批判的。経営方針を無視する傾向がある」
「スキルがあるのは分かるが、職人気質が強すぎて、マネージメントスキルが不安」
というのが、Kさんが選考に落ち続けた主な理由だった。

その後、景気が悪くなり、転職活動はいったん休止に。Kさんは「こんな状況では、ますます自分を受け入れてくれる会社はないだろう」と、組織のなかで働く希望を諦めかけていた。

ところが、やはり個人で事業をしているエンジニア仲間のひとりが、最近大手関連の会社に就職したという話が飛び込んできた。
「このご時世に、よく転職できたな」Kさんが言うと、その知人は笑ってこう返してきた。
「仕事の内容からいって、お前の方がチャンスは大きいだろう？」
「いや、少し前にやってみたんだが、まるでダメだったよ」
「今度入る会社の人事が言っていたんだが、数年前だったら、個人事業主を採ることはなかったろうって。採用基準がだいぶ変わったらしいよ」

Kさんは半信半疑だったが、仕事が落ち着いている時期だったので、3年ぶりに転職エージェントにコンタクトをとってみた。すると、以前はほとんど書類で落とされていたのに、今回は景況が悪いなか、ちょくちょく面接が入るようになったのだった。

個人事業主への評価がここ数年で変わったというのは、我々も感じていたところだ。これは企業のマインドが大きくシフトしたことを示す、ひとつの証左だろう。
事業が順調な時は、リスクの少ない、堅実な人材確保に走る。だが、現在のような頭打ち感がただよう時には、自力で状況を切り開けるタイプが好まれる。ブレイクスルーを作り出せる人材として、個人事業主のノウハウに注目している企業が増えているわけだ。

また、個人でビジネスをする環境が整い、以前に比べ、より多様な人材が個人でビジネスをしていることもあるだろう。個人で仕事をしているからといって、自由第一主義、自分が中心でないと気が済まないタイプというわけでもなくなっている。
もちろん、個人事業主なら誰でもウェルカムということではない。組織のなかで仕事をした経験があり、一定のスキル、会社に入った後のプランを持っていることなどが前提だが、明らかに可能性は広がってきているのだ。