A社のT社長は、全ての社員に世界を相手にビジネスをしていくという意識を持って欲しいと思っていたのだが…。

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A社は中堅のネット情報サービス会社。我々からの人材紹介を受け、昨年から海外事業部を発足、アジアのみならず欧州にも事業を展開しようとしている。
滑り出しは上々と聞いていたが、A社社長T氏のなかには不満がくすぶっていた。

「国内市場に期待しにくい今、全社員がグローバルを意識して欲しいのに、ほとんどのスタッフは『海外展開は、上が思いつきではじめた試み』くらいにしか思っていないんだよ。ネットに国境などないのに、世界を相手にしようという雰囲気がまったく感じられない…」

雰囲気がないというのは、社長の思い込みではなかった。数年前、英語の研修費用を会社が肩代わりする制度をつくったA社、当初はけっこうな数の申込があったが、その後下火になり、海外事業部発足後も制度への申込は増えていなかった。
また、A社では社員に毎年、異動するならどの部署にいきたいかという希望を出させているが、そこで海外事業部の名前を出ることも稀だったらしい。

T社長は我々にぶちまけた。
「社員に常にグローバルを意識させたい。その為には、やはり環境が重要だと思うんだ。いくつか欧州の会社と商談をしてきたけれど、向こうは違う目の色・髪の色、いろんな人種の人たちが当たり前のようにひとつのチームいるんだよね。様々なバックグラウンドを持つスタッフが、たがいに刺激しあえる環境が常にあるわけ」
「A社のオフィスもそういう風にしたいと？」
「そうそう。ヨーロッパ系・中東系・アフリカ系…、そういう人達を毎日オフィスで見掛ける、それだけでグッと意識が違ってくると思うんだ」
「しかし、国籍や肌の色で採用をするわけにはいきませんよ」
「う〜ん、たしかにそれはそうか…。でも、日本人とは違う文化で育った人という視点で、少し人を捜してみてくれないか」

こうして我々は、海外生活が長い人達や日本とは違うバックグラウンドを持った登録者にA社を紹介してみたのだが、結論から言えば、この採用はうまくいかなかった。
海外経験がある人達は、当然ながら自分の語学力や多文化経験を仕事にもいかしたいと思っている。しかし、A社が望んでいたのは、そういう人を海外事業部以外の普通の部署にいれることだった。
望んでいるのは異文化の人。しかし、やって欲しい仕事は普通の国内向けの仕事では、つじつまが合わなかったのだ。

唯一、採用出来たのは日本マンガ大好きのオタクアメリカ人Sさん（30歳）。
彼はことあるごとに「日本はホント最高の国。日本から出たいと思ったことなんて、1度もないですよ。日本を離れたいなんていうのは、よほどのバカですね。アッハッハッハ！」と、ありがた～い日本賛美を繰り返しているとか…。

最近、T社長はアジア方面への出張が多く、直接会えていないのだが、人事担当者から社長の近況が耳に入ってきた。
「先週くらいのことなんですけど、社長、急に髪を金髪に近い色に染めたんですよ。本人はただの気分転換って言うんですけど、いい歳して、なんで急にって、みんなで噂をしていて…。頭が薄くなっていたのは気づいてましたけど、金髪にしたら余計目立ちますからねぇ。だから、失恋じゃないかとか！真相は分かりませんけどね（笑）」

グローバルっぽい雰囲気をつくりたいという社長の願い、これを叶えるのは、なかなか難しいことのようだ。