「転職活動中に旅行に行きたい」そんなKさん、Oさん、二人の顛末は？

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わずか夏はバカンスの季節。震災の影響で「今年はお盆も仕事」という業界もあるようだが、逆に節電のため「いつもより長く休みがとれる」なんて、羨ましい人も多いと聞く。

さて、転職とバカンスは一見、結びつきがなさそうに思えるが然（さ）にあらず。現職の企業を辞める決心がついた途端、「もう今の会社で義理を果たす意味もないし、たまった有給休暇を使い切ろう」と考える人がけっこういるのである。
ただ、内定が決まってから旅行に行くのはいいのだが、選考まっただなかに、「旅行に行きたいのですが…」と言う人には、出来るだけ自重するようにお願いをしている。

理由は主にふたつ。
ひとつはスピードの問題。旅行期間中、面接が組めないのは、かなりの痛手になるし、転職では急な動きがけっこうあるもの。一次面接が終わって、次の面接は二週間後なんて言われて安心していると、突然「明日、都合はいかがですか？」という連絡が来たりする。これに対応出来ないことで、千載一遇のチャンスを逃してしまうことがあるのだ。

二つ目は、仕事・応募先企業に対する熱意を疑われかねないという点。転職は人生を左右する一大事。その時に長期にわたって旅行に行くという感覚に、疑問を呈する企業も中にはある。

Kさん（28歳）は、初回面談の時に「近く、旅行に行きたい」と言ってきた転職者だった。我々が、上記のような理由で「お勧めできない」とアドバイスすると、Kさんは渋々ながら「分かりました」と言ってくれたのだが、本心は違っていたらしい。

転職活動をはじめて、一次面接が一通り終わった頃、Kさんからメールがあった。
「体調を悪くして、今日病院にいったのだが、ひょっとすると悪い伝染病かもしれないので、検査の結果が出るまで自宅にいるようにと言われました」とのこと。

それならば仕方がない。我々は二次面接を予定している企業に連絡をして、日程調整を待ってもらうことにした。数日後、Kさんからこの件のメールがあった。
「検査の結果、陰性でした。伝染病ではないということですが、まだ体調がすぐれないので、面接は来週以降でお願いします」という。それではと、早速スケジュールを組んで、Kさんの回復を待ったのだが…。

翌週、Kさんの面接直後、彼を面接した会社から辛辣な連絡があった。
「Kさんは先週、病気だったと聞きましたが…」
「はい。我々もそう連絡を受けています」
「今日、面接に来られたんですが、良い色に日焼けしていましたよ。ちょうど、目の周りのゴーグルをつけるところを除いてね。シュノーケリングでもしてたのかなあ、羨ましいなあ」
ウソが発覚したことで、Kさんの評価は急降下。これなら旅行に行くと正直に言ったほうがずっとマシだっただろう。「前々から友人と約束をしていた」と言えば、分かってくれる会社もある。この後しばらく、Kさんは他社でも不採用が続いたのだった。

別の転職者Oさん（32歳）は、転職活動中、堂々と旅行に出掛けたのだが、その理由が振るっていた。我々が、いつものように上の二つの理由を述べると、Oさんは「とんでもない」と首を大きく振った。

「スピードの問題は確かにあるでしょう。しかし、転職に対する意欲が問われるというのは心外です。旅行に行くのは、まさに転職のためなんですよ」
「どういうことです？」我々の当然の疑問に、Oさんは目を大きく見開いて言った。
「今回の転職では年収が下がるかも知れない、あまり名前の知られていない会社にお世話になるかもしれないわけです。最後の最後になって、妻が『やはり転職には反対』なんて言ってこじれたら、大変でしょう？」
Kさんは大仰な調子で続けた。
「妻に、心配する必要はないんだ、僕は旅行に出るくらい余裕がある、安心して任せて欲しいと分かってもらうんです。そのための旅行です！」

この話はかなり眉唾だった。というのも、Oさんは大学時代冒険部に所属し、各地を旅してまわったという。その武勇伝を我々は直前に聞いていたのだ。
しかし、完全にウソと断じることは出来ない。我々はOさんの言った理由を、そのまま企業に伝え、選考をしばらく待ってもらう承諾を得た。問題になった企業はひとつもなかった。
採用に関わる人達は、一度は経験しているのだ。家族（特に転職者の奥さん）の反対で、直前になって転職がご破算になるということを。

Oさんは、実にうまい旅行の理由を考えたと、我々は感心したのである。