エージェントを信用しないOさんは、転職活動中エージェントを試すような行為を続けていた…。

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このコラムでは毎回、赤裸々な転職事情を紹介しているが、エージェントという仕事をしていても、いつも転職者の本音が聞けるわけではない。いや、むしろ、詳しい話をしてもらえる方が少なく、心中をうかがい知れない人のほうが、割合としては多いかもしれない。

たしかに「現職の仕事で大きなミスをした」「社内で不倫をして、職場に居づらくなった」なんて裏事情があれば、口が重くなるのも仕方ないと思えるのだが、「上司と相性が悪かった」「他業界に憧れていた」といった、どこにでもあるような話でも、なぜか理由を隠したがる人が多くいる。
しかも、公私にしがらみが多くなるベテラン社員よりも、20代の若手の方がエージェントを信頼しようとしないのも、また、不思議なところである。

建設業界の営業Oさん（26歳）は、表面上は人当たりが良いのだが、我々を信頼してくれなかった転職者のひとりだった。初面談とき、Oさんは担当エージェントにどの程度の業界知識があるか、さぐりを入れてきた。

我々は職種・業界等の専門領域を持っているが、経験の差によって知識に多少の差がある。ただ、これも善し悪しで、異業界への転職も視野にいれているような場合は、長く同じ業界を担当してきたエージェントよりも、多種多様な転職者・企業をみてきたエージェントの方が柔軟なマッチングができるというメリットがある。実際、Oさんは建設業界を離れたいと考えていたので、業界知識で担当エージェントの力量をみるのは、あまりに意味のないことだったろう。

エージェントに懐疑的なOさんは、さらに極端な行動をとった。我々が紹介した企業のなかで、「特にオススメ」とした求人に決して応募しようとしなかったのだ。どうやら、エージェントが勧めるのは企業側のニーズの強い求人、つまり社員の入れ替えの激しい会社だから、応募するべきでないと思い込んでいたらしい。

企業との交渉でも、Oさんは我々を試すようなことを続けた。
あるとき、「A社に興味があるのですが、給与条件にやや不満があります。改善できないでしょうか？」というメールがあったので、我々がA社と交渉して条件を改善をさせると、OさんはアッサリA社を辞退して、「今度はB社で給与条件の交渉をお願いします」と言ってきた。A社を当て馬に、どの程度の交渉が出来るかを試したのだろう。

しかし、少し考えれば分かることだが、交渉は相手あってのこと。A社で交渉成立したからといって、必ずしもB社でうまくいくとは限らない。
B社で給与アップがないと分かると、Oさんは「どうしてA社はうまくいって、B社はダメなんですか？本命はB社だったのだから、こちらを真剣にやって欲しかった」と憤慨して抗議してきたが、どうにかなるものではないのだ。

その後も我々とOさんのギクシャクした関係はなおらなかった。B社で内定をもらうと、Oさんは我々に訊ねてきた。
「エージェントとしては、B社は私にあっていると思いますか？」
通信サービスB社は伸び盛りの会社ではあるが、営業はかなり雑多な仕事をしていると聞いていたので、専門知識を持ちたいといっていたOさんの志向には合わないのではないか？我々はそう正直に思っていることを話したのだが、Oさんはそれを聞いてすぐに入社の決断をしたのだった。

ここまで天の邪鬼な例は珍しいが、本心を明かしてくれない転職者は本当に多い。我々としては、出来るだけオープンにいろいろ話をしてくれたほうがやりやすいし、転職者ご本人の負担も減ると思うのだが、なぜか転職活動をはじめてから数か月も経った頃に、「実は本当の転職理由は…」「実はこの業界にいきたかった」など、最初と違う話がぼろぼろ出てくるケースが後を絶たない。

キャリアのない人、若い人ほど、こうした傾向が強いことを思うと、エージェントを信頼できない、全てを明かせないというのは、自信の無さからくるものなのかもしれない。
実際、20代には「エージェントの言いなりになると、無理矢理転職させられてしまうかもしれない」と警戒してくる人が意外に多い。面接を受けたからといって、どうなるものでもないし、行きたくと思えば、そう伝えればいいだけ。「無理に転職させる」などということは、実質あり得ないのだが…。

我々はそんな彼らを見ては、本当の希望を伝えて信頼してくれればいい転職ができるよう対処できるのに…と悔しい思いをするのである。