会社パンフやホームページに書かれた企業理念。転職者は、そこから何を読み取ればいいのだろうか？

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応募した会社のホームページをチェックするのは、転職者にとって基本の下調べ。もっとも、全ての企業が充実した内容のホームページを持っているわけではない。あまり読むところがなく、取りあえず企業理念だけ目を通したなんて経験の方もあるのではないだろうか。とはいえ、この企業理念というものも、なかなかのクセモノなのだが…。

金融情報を扱うA社では、求人に応募してきた全員に、「事前にホームページに掲載された企業理念に目を通すように」と、通知がなされている。そして、面接で必ず聞かれる質問は、「弊社の企業理念と、あなたと職業倫理・価値観を照らし合わせて、どのように感じていますか？」というものだ。

このように、A社は会社理念を非常に重要視しているのだが、その内容がすごい。
『恒久の世界平和に貢献していくために…』
『人類共存繁栄の一助となるべく…』
といった壮大な文言が、これでもかというくらいに並んでいるのだ。

転職希望者の方からは、しばしば
「A社の企業理念には、政治思想が反映されているように思えるのですが…」
「社長が何らかの宗教の熱心な信者だったりするのでしょうか？」
といった質問があるのだが、既に転職を果たした数名からの情報で、A社は特定の政治・宗教団体に関わっているわけではないことが、我々には伝わってきていた。

では、なぜこんな企業理念を掲げ、しかもそれを面接に使っているのか、打合せの席で、我々はA社の専務におそるおそる聞いてみた。
「ホームページの企業理念に、非常に崇高なことが書かれてありますよね。応募者のなかには、あれを見て腰が引けてしまう方もあるようなのですが…」
「たしかに大袈裟に思われる方もいるでしょうね。けれど、私たちはあの企業理念を読んで、自分のことと捉えて考えてくれる人が欲しいと思っているんです」
専務は続けた。
「A社では、重大な機密情報を扱うことが多くあります。セキュリティー体制は整えていますが、もし社員が後先を考えずに、たとえば海外に逃げるつもりで金儲けに走れば、止めることはできません。最後の歯止めになるのは、やはりひとりひとりの意識、職業倫理なんです。だからこそ、面接で重点的にお聞きしています」

企業理念は、その会社の姿をよく表しているものだ。しかし、それが書かれたそのままの意味とは限らない。

娯楽関連のベンチャーB社の面接で、Mさん（29歳）はホームページに書かれてある企業理念の一節を暗誦して、B社への入社意欲をアピールした。

「企業理念にこう書かれてあるのを読み、共感を覚えました。『業績・利潤に追われるのではなく、企業としてのステータスを磨くために、一歩一歩着実に歩んでいく』。今の時代、数字に流されている企業ばかり。御社のようなスタンスで仕事が出来るのは、私の理想です。また、『全社員が5年後10年後の自分を思い描き、長期的視点で仕事にあたる』という点は、私が常に意識していることです。現職の会社では、一歩引いた冷静なタイプとして見られていますので、御社のカラーにはすぐに馴染めると考えています」

Mさんは自分のスピーチに、自信満々の顔で笑ったが、聞いていたB社社長は困ったような顔をして、目を伏せてしまった。あとで、社長は我々のところに電話をかけてきて、言った。

「Mさん、うちの企業理念をよく読んできてくれて、本当にありがたいことなんだけれど、ちょっと勘違いをしているようなんだよね」
「勘違いと言いますと？」
「あの企業理念は昨年僕が書いたものなんだけど、とにかくうちに足りないところを列挙してあるんだ」
「つまり、書かれてあることと実態は…」
「そう、真逆なんだよ」
社長によると、B社はとかく数字優先主義。利益に飛びついていく目端の利くスタッフが尊敬を集めていて、長期的視点は二の次にされがち。現在はそれがうまくまわっているが、社長は将来を懸念して企業理念を刷新したのだという。結局、Mさんは社風に合わないという理由で不採用になったのだった。

ないがしろには出来ないが、文字通り受けるわけにもいかない。企業理念というのは、なかなか厄介な代物なのである。