最初に紹介した転職者の面接を3分で打ち切ったA社。すぐに社長に話を聞きにいくと…。

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我々の組織では、転職者をサポートする転職エージェントとは別に、人事と連絡を取り採用支援をする企業サイドの担当者がいる。
転職者に色々な方がいるように、企業も千差万別。我々以上に採用のノウハウに通じ、関連法規にあかるい担当者がいる企業も珍しくないが、自分勝手な社長・採用責任者がいる企業もあり、それが我々の悩みの種になることがある。

数年前の話。デザイン企画会社A社は大口クライアントとの契約が決まり、急ぎの人材採用を迫られていた。そこに、我々から初めて紹介したのが経理事務のKさん（24歳）だったのだが、面接がはじまった頃に、Kさんから我々のところに電話がかかってきた。
「どうされました？」
「面接、もう終わっちゃいました。実は…」

担当者はすぐにA社に向かった。言い訳を考える時間を与えたくなかったので、事前に連絡はいれず、着くとまっすぐ社長のところに向かった。
「社長、いったい何を考えているんですか？」
A社社長はクリエイティブ畑出身の40代、自信家で少し強引なところのある、ある意味社長らしい社長だ。

「Kさんの面接？一目見て、うちには合わないって分かったからすぐ帰ってもらうことにしたんだ」
「合わないって、何が合わないんですか？」
「うちはデザイン会社、センスの合わない人は勤まらないね」
「Kさん、そんなに酷い服装で、面接に来られたんですか？」
「女学生のリクルートスーツってヤツ、そのまんまだったよ」
「就活の時のすり込みが強かったんでしょう。しかし、それだって非常識な服とは言えないのでは？そもそも、事務仕事に見た目のセンスが関係するんですか？」
「それは…。小さい会社だし、いろいろ手伝ってもらう可能性だってある。それに彼女みたいな人がきても、浮いちゃって他のスタッフと馴染めないよ」

我々はため息をつきつつ、引き続き、社長にコトの重要性を分かってもらおうと声のトーンをあげた。
「社長の判断は分かりました。けれど、転職者の方だって、面接の為に企業の勉強を何時間もして、仕事を休んでわざわざやって来るんですよ。最低限、30分程度の面接をするのが礼儀ってものでしょう？それに、断るときも採用の時も、必ずいったん我々を通して下さいと言ってあったはずです」
「いや、だからそれは、見た瞬間に『これは違うな』と思ったから…」
「だからって、その場で本人に『もっと遊んで、アカぬけた感じになってから出直してこい』って言うことないでしょう？セクハラ・パワハラですよ」
「そこまでキツい言い方じゃ…」
「なにか違うんですか？」
「いや、概ね、そういうような内容のことは言ったけれど…。う〜ん…、たしかに不適切だった。そこのところはエージェントさんからよく謝っておいてよ」
「いま、Kさん担当の転職エージェントが電話で話しているところです。でも、Kさんが納得せず、この件を、例えばツイッターで流したらどうなります？」
「ツイッターで？」
「A社の面接でこんなことがあった。社長にこんなことを言われた。それだけでA社は、ネットでよく言う『ブラック企業』の仲間入りですよ。これからの採用に影響してくるかも知れません」
「そ、それは困る。困るよ…」
「分かってます。だから我々がこうして飛んできたんです」

10歳以上年下の担当者に言いたいように言われて、社長もさぞ不愉快だったろうとは思う。しかし、最初にガツンとぶつかった相手というのは、その後の関係が修復すれば、不思議とうまくいことが多い。A社とは、それから半年のうちに管理部門を中心に5名の採用が決まり、今やすっかりお得意様になっている。
思うに、痛い思いをした社長が、エージェントの利点を早くに理解してくれたことが大きかったのだろう。

わざわざ登録して下さった転職者の方に、色々やかましく言うこともあるのがエージェントという仕事。「鬱陶しいな」と感じる方もあろうかと思うが、企業の方にも言うべきことは言っているつもりだ。そして、それもこれも企業・転職者、双方の為を思えばこそ。そこのところは是非わかっていただきたいのである。