アジアスポットライト:変化の兆しで、中国のビジネスモデルは持続不可能に-次の一手は?
公開日時 2012/05/17 04:00
3月14日、中国・上海で「中国ヘルスケア投資会議」が開催され、急速な環境変化に対応するために、中国の医薬品企業は現在のビジネスモデルでは持続できず、画期的なソリューションを見つけ、かつ、組織を再構築しなければならないというのが会議参加演者の一致した意見となった。
中国では最近、薬価引き下げが頻繁に実施され、特に多国籍メーカーの新薬が引き下げの対象となっている。そのため、欧米のビッグ・ファーマは、中国での売上の60%-80%をブランデッド・ジェネリックに依存している。
実際に、ファイザー、メルク、アストラゼネカなどは中国ではブランデッド・ジェネリックによって成長してきている。
しかし、中国政府もいつまでも薬価引き下げ策だけでは製薬産業を維持できないと認識しており、融和策も視野に入れている。
内資企業Simcere Pharmaceutical GroupのYehong Zhang社長は、「連続的で不合理な薬価引き下げ策はもはや維持できない」と説明、「いまこそ企業が中国政府と新たな、より持続可能なビジネスモデルを形成するために協力する良い機会」だと指摘する。
同社長は、「業界が、医薬品の価値に基づいた、政府と包括的で柔軟かつ持続可能な薬価制度を作ることに協力するのにまたとない良い機会だ」と政府が薬価制度について柔軟な姿勢を見せていると分析している。現場の実務レベルでは、取引量と価格との交換条件について地方政府と話し合えるので、業界は地方政府との関係を構築する必要があるとした。
業界の大きな懸念は、引き下げを狙う「基本薬価格表」にあるが、中国政府はその透明性を図ってきているという。
イーライリリー中国法人のJulie Xing氏は、「5年前と比較して、(政府の)透明性の程度、業界との協議の程度は著しく改善されている」と指摘している。
ビジネスモデルの変貌は、多国籍企業と中国内資との合弁企業の増加にも現れている。最近では、ファイザーとZhejiang Hisun Pharmaceutical、米メルクとSimcereの合弁設立が注目された。政府による施策の透明性向上とともに、政府の疾患啓蒙への協力が新たなビジネスモデルとして注目されつつある。
イーライリリーは、中国では、インスリン供給企業としては20%のシェアを獲得、第2位に位置し、現在、上海に糖尿病薬創製のためにR&Dセンターの解説を計画している。そのようなことを背景に、同社は、中国政府と糖尿病啓発キャンペーンを展開することを計画している。Xing氏は、政府に消費者の啓蒙ばかりでなく、医師の教育でも協力を図り、中小都市のみならず地方でも啓蒙運動を展開する意向を示している。
糖尿病啓発運動では、リリーばかりでなく、競合社のノボノルディスクやサノフィも重点を置いている。中国は、世界で最も糖尿病人口が多く、疾患啓蒙の必要性がある国にだけに、企業に取ってはその機会はますます増している。
新たなビジネスモデルが求められる中国だが長期的にはさらに変革が予想される。
中国政府は、現在進行中のヘルスケア改革で、今後5-10年で「ゲートキーパー・システム」の構築を計画している。これは、小都市・地方で、プライマリケアを担当する地域ヘルスケアセンターを設置し、患者に対するゲートキーパーとする計画で、現在の病院をベースとした制度から大幅な変革となる。多くの薬剤は大病院で処方、調剤されるようになる。従って、ビッグ・ファーマは、大都市、大病院に集中するようになることが予測される。ビッグ・ファーマにとっては、それへの対応を考える必要が迫られると識者は指摘している。
(The Pink Sheet 4月9日号より) FDAと米国製薬企業の情報満載 “The Pink Sheet”はこちらから