ディオバン問題 別論文も薬事法違反でノバルティス元社員を再逮捕 両罰規定でノバルティスも起訴
公開日時 2014/07/02 03:52
ARB・ディオバン(一般名:バルサルタン)の臨床研究不正問題で、東京地検特捜部は7月1日、ノバルティス元社員の白橋伸雄容疑者(63)を別の論文でも薬事法違反(誇大広告)があったとして再逮捕した。6月11日の逮捕容疑となった論文とは異なる論文で、データ改ざんにより作成された虚偽のデータに基づいた論文をWeb上に掲載させた疑い。ただ、この論文も同様に、京都府立医科大学などで実施された「KYOTO HEART Study」のサブ解析のひとつ。一連のKYOTO HEART Studyの論文の元データについては、脳卒中の発生数や2群間の割付などを操作し、ディオバン群で有意な結果が出るよう改ざんされた疑いが持たれている。そのため、本解析も含めたすべての論文で同様の疑惑がある。東京地検は、白橋容疑者の臨床研究における行動を広告にデータを用いることを目的とした業務の一環とみなし、ノバルティス社も同日午後、両罰規定で起訴した。同社の現在の代表取締役社長であるダーク・コッシャ氏が6月27日に任意での事情聴取を受けていることもわかった。
論文は、The American Journal Of Cardiology(AJC)誌の2012年5月号に掲載された「Cardio-cerebrovascular protective effects of valsartan in high-risk hypertensive patients with coronary artery disease (from the Kyoto Heart Study)」。
KYOTO HEART Studyに登録された患者3031例を冠動脈疾患(CAD)既往の有無に分け、それぞれディオバン群と非ARB群との間で治療効果を比較した。主要評価項目の脳心血管イベントの新規発症または増悪について、CAD既往の有無によらず、ディオバン群で有意な発生率の低下が報告されている。CAD既往群では、ディオバン投与による狭心症、脳卒中の抑制効果も示されている。
薬事法の公訴時効は3年間とされており、2011年以降に発表された論文が該当する。ただ、2011年以降に公表された論文は、4本のサブ解析がすでに撤回されており、現在も論文が撤回されておらず、Webなどを通じて情報が発信されているのは、逮捕容疑となった2論文のみとなっている。
◎“業務の一環” 両罰規定でノバルティスを起訴
東京地検は同日、ノバルティスについても両罰規定で起訴した。両罰規定は、薬事法第90条で規定。従業員などが業務に関して違反行為を行った場合に行為者を罰するほか、法人に対して罰金刑を科することが明記されている。薬事法第66条の虚偽・誇大広告の禁止での罰金刑は、200万円以下とされている。
厚労省の「高血圧症治療薬の臨床研究事案に関する検討委員会」(委員長:森嶌昭夫名古屋大学名誉教授)の最終報告では、「元社員の大学側研究者への労務提供について、ノバルティス社のプロダクトマネージャーを通じて手配されている」、「労務提供にかかる交通費などはノバルティス社が支給している」などと説明し、「営業を含めた同社の業務の一環として行われたものと考えられる」としていた。
また、元社員の上司や経営陣の一部が臨床研究への関与について認識していた可能性を指摘し、「元社員一個人が関与していたというよりは、実態としてはノバルティス社として今回の事案に関与していたと判断すべき」としていた。
◎ノバルティス「大変重く受け止める」
ノバルティスは同日付で、「度重なる弊社元社員の逮捕、ならびに会社の起訴などについて、大変重く受け止めている。患者、ご家族、医療従事者の皆さま、および国民の皆さまに更なるご心配とご迷惑をおかけすることになり、改めて深くお詫び申し上げる」とのコメントを発表している。