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【編集長の視点】 鈴木事務次官就任で見えた社会保障改革のその先にあるもの

公開日時 2018/07/25 03:51

厚労省の次期事務次官に鈴木俊彦保険局長の起用が固まった。昭和58年(1983年)入省組には現年金局長の木下賢志氏、保険局長に就任する樽見英樹官房長、現医政局長の武田俊彦氏と、厚労行政に精通した著名な官僚が居並ぶ。そのトップに鈴木氏が選ばれたことになる。


「今回(の改定)は2025年に向けた最後の体制整備を図る改定だった」-。今年3月中旬に鈴木保険局長とのインタビューを行った。改定を終えた安堵感からか、いつもは強面の鈴木さんが笑顔で取材に応えて頂けたのが印象的だった。その笑顔の写真はMonthlyミクス4月号に掲載してあるので、是非ご覧いただきたい。


鈴木局長はインタビューの中で、2025年に向けた「地域医療構想」という絵姿と「同じ方向にむかって実現への道を歩むための経済的な裏付けが診療報酬改定だと思っている」と述べ、今回の改定を通じて地域医療構想と診療報酬改定の歯車があった形になってきたと強調した。


鈴木局長とのお付き合いは17年前に遡る。2002年度診療報酬改定の改定率をめぐる議論が佳境を迎えた2001年12月某日の深夜、東京・内幸町のホテルで、私は医師会や与党幹部との調整に奔走する鈴木さんの姿を目の当たりにした。私も現役記者として、歴史に残る史上初の本体マイナス改定が決着する瞬間を自分の目に焼き付けるべく、同じホテルの廊下に張りついていた。


ホテルの一室には医師会の幹部が入り、そこに自民党厚労議員が出入りする。厚労省の幹部も部屋の中にいるようだ。時より事務方の担当官が慌ただしく部屋から飛び出て、持参したアタッシュケースを膝の上に載せながら電卓を弾く姿を目撃する。遠巻きにしか見えないが、なにやらメモを作成しているようだ。それが終わると一目散に部屋の扉を開けて、記者の前から姿を消す。そう、この人こそ若かりし鈴木さんそのものだった。こうした光景が何度も何度も繰り返される。


深夜まで及んだ調整は午前3時過ぎに決着する。直後に自民党厚労議員のトップが最後まで残った数人の記者を相手に簡単なブリーフ(記者説明)を開き、小泉政権が医師会や厚労族に突き付けた「本体マイナス改定」が決まったことを明かしてくれた。


この一連のエピソードを鈴木局長と、今回のインタビューの際に改めて共有させて頂いた。もちろん鈴木局長も覚えていてくれて、「沼田さんはこういう場面に必ず現れたよね。あの時は・・・」で話が盛り上がった。私にとって取材記者時代のエピソードの中で、特に記憶に残っていることの一つだ。


この話には続きがある。2002年1月に始まった通常国会は医療制度抜本改革案をめぐる法案審議で大きく揺れた。患者窓口負担3割引上げや高齢者医療制度の創設など、小泉官邸vs医師会の戦いが国会外でも繰り広げられ、その後、社会問題化する地域医療の崩壊や日本医師会の弱体化などを招いた。実は、その陰であまり陽の目が当たらない話があった。これがいまで言う地域包括ケアシステムの原型である。当時、小泉政権は小さな政府を掲げ、自治体改革の第一歩を踏み出していた。ところが、肝心の自治体組織が思うほど成熟しておらず、国保広域化など多くの政策が頓挫した。この時、霞が関で調整役を務めていたのが、鈴木保険局長をはじめ、現年金局長の木下氏、現医政局長の武田氏などだった。ある役人から聞いたことがある。「あの時の苦しさがあったからこそ、いまの改革がある」-と。


◎2040年に向けて政策のストーリーが変わる


鈴木局長のインタビューは、2025年以降の話に熱い想いが込められている。社会保障制度に長年精通している鈴木局長だけに、社会構造の変化と制度の持続性に関しては並々ならぬ想いがある。これまでの社会保障制度の議論は人口の高齢化がキーワードとなり、制度を支える側(現役世代)と制度の恩恵を受ける側(高齢者)のバランスが大きくフォーカスされた。ところが2025年を過ぎて、2030年度以降になると、少しずつ医療、介護の給付は抑えられ、逆に労働生産人口の減少から生じる社会経済の問題がクローズアップされるようになる。まさに社会構造や経済と社会保障のバランスが問題になることを意味するのだ。


確かに考えて見れば分かる。地方にはシャッターを閉めた商店街が多数存在する。有名デパートやスーパーなど大規模商店が参入し、商店街の小規模店舗の経営を直撃したというロジックは一昔前のことだ。現在は、地方紙の一面を大規模商店の相次ぐ撤退が飾るくらいだ。この背景は先述した人口減少に連動した労働生産人口の減に他ならず、地域経済を揺さぶり、地方都市を消滅しかねない状況となっている。


改めて鈴木局長のインタビューに戻りたい。鈴木局長は、「人口減少の中では、一人ひとりが、できる限り健康で、元気に、生活し活動することが、これまで以上に重要になる。それが個人にとっても社会全体にとっても重要なことだ」と語る。健康で長生きできる社会の実現。疾病の予防、健康づくりに自治体や街のコミュニティーが取り組む時代が目の前に迫っていると見ることもできる。このメッセージは極めて大きいと感じた。製薬産業にも可能性があると鈴木局長は言う。「健康に関する様々な情報をもっており、そこから派生するノウハウも多様だ」とインタビューで応えている。


「予防や健康づくりは、国や自治体が旗を振るだけでは絶対に進まない。あらゆる主体が参加し、同じベクトルで動いていくことが大事だ。(中略)その中で民間企業の果たすべき役割は大きい。色々なビジネスが生まれる契機もそこにはあるし、そうした動きに大いに期待している」-。


鈴木局長が指摘する通りで、製薬産業はもっと健康、予防にもっとコミットすべきだと感じた。今後、医療や介護の世界もロボットやAI(人工知能)、ICTの活用が拡がるだろう。製薬産業は唯一、ヒトを疾病から救い、健康で長生きできる環境を提供できる産業である。これまでは疾病や患者の掘り起こしにばかり目が向いていたような気がする。これを転換し、「健康で長生きしながら働ける社会の構築を目指す産業」というメッセージを発信してみては如何だろうか。健康寿命の延伸―。社会や地域は確実に製薬産業の革新的なイノベーションと、「健康、予防、医療、生活(介護)」を通じた地域貢献に期待するに違いない。(沼田佳之)


 

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