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製薬協 AMRアクションファンド設立で新規抗菌薬開発を支援 継続的な上市サイクルの構築も提言

公開日時 2020/07/14 04:50
日本製薬工業協会(製薬協)は7月10日、国内5社を含めた20以上の大手製薬企業が薬剤耐性菌(AMR)アクションファンドを設立したと発表した。AMRアクションファンドは、総額で約10億ドルの投資を行い、収益性の観点から事業化が困難となっている新規抗菌薬の開発を支援し、2030年までに2〜4剤の製品化を目指す。併せて各国政府に対してプル型インセンティブの導入など抗菌薬の研究開発への投資が進む政策改革を求める。

◎AMR関連の死亡者数は2050年で1000万人と推計

薬剤耐性(AMR)に起因する死亡者は現在、全世界で年間70万人に及んでいるが、このまま何も対策が取られなければ2050年までに1000万人に上ると推計されている。AMRによる死亡リスクが高まると、日常的な手術やがん化学療法の制限につながる危険性もある。一方、このようにAMRによる甚大な被害が予測されているにもかかわらず、有効な対策である新規抗菌薬の開発は停滞しおり、理由としては、開発に膨大な費用がかかるほか、開発しても適正使用の問題等からビジネスとして持続可能な市場が見込めないことなどがあげられる。

◎エーザイ、塩野義製薬、第一三共、武田薬品工業、中外製薬がファンドに参画

こうした問題を解決していく狙いから国際製薬団体連合会(IFPMA)のイニシアチブにより、AMRアクションファンドが設立された。WHO、欧州投資銀行、ウェルカム・トラスト等の業界外の支援を得た製薬業界主導型の共同プラットフォームである。世界の製薬企業23社から約10億ドルの出資を募り、ベンチャー企業等による新規抗菌薬の開発を支援、今後10年間で2〜4剤の新規抗菌薬の上市を目標としている。同時に抗菌薬の研究開発への長期投資は奨励される環境づくりに必要な政策改革を促進する。なお、日本からはエーザイ、塩野義製薬、第一三共、武田薬品工業、中外製薬の5社の参加が決定している。

◎製薬協・中山会長 「プル型インセンティブの導入求める」

製薬協の中山譲治会長(第一三共常勤顧問)は、「投資により10年間で2〜4つの新薬ができたとしても、それだけで継続的に新薬が開発されていくわけでない。魅力的な投資環境をつくることが継続的に上市されるサイクルを構築していく必須条件」と強調した。2011年に米国でGAIN法が設立し、開発費支援や審査期間の短縮、市場独占期間の延長等により一時的に新規抗菌薬の承認数は上昇したが、その後、新規抗菌薬の承認を受けた企業2社が2019年に相次いで倒産した。中山氏の発言はこうした抗菌薬市場の事業環境の厳しさを踏まえてのものだ。

そのうえで、「事業環境を変えるには政府による新たな政策が必要不可欠。新薬開発に成功した企業が投資に見合う利益を確保できるシステム、つまり新たなプル型インセンティブの導入といったマーケットベースのリフォームが必要と考える」と改めて訴えた。

プル型インセンティブの例として、▽承認を取得した際に政府や公的機関から適切な報酬を受ける製造販売承認取得報酬制度▽商品ごとに購入金額を支払うのではなく一定期間の利用権として定額料金を支払うサブスクリプションモデル▽承認を取得した薬を国が一定量を買い取る事前買取り保証制度(備蓄)──の3つをあげた。

「ファンドの設立をAMR対策の大きな一歩にしたい」という中山氏は、政府によるマーケットベースのリフォームの実行に加え、研究者のAMR対策の重要性の再認識とチャンレンジ、国民のAMRと適用使用についての十分な理解が不可欠として、「政府、企業、国民が1つになってこそ、未来の命が守られることにつながる」と述べ、三者の一致団結を求めた。

IFPMA副会長の立場で登壇した手代木功氏(塩野義製薬代表取締役社長)は、フロアからの質問に答えるかたで新規抗菌薬が出てきた場合の公平な分配について「先ほども話に出たサブスクリプションモデルや備蓄についてWHO等を中心にフェアに行う仕組みをこの10年のなかで早期に考えていく必要がある。そうしていかないと新興国ではよりAMRが深刻にならざるを得ない」との考えを示した。

◎国際医療研究センター・大曲センター長 AMR対策は新型コロナに比べ「時間的余裕ある」

国立国際医療研究センターAMR臨床リファレンスセンターの大曲貴夫センター長は、日本のAMRの現状についてMRSA(いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とFQREC(とフルオロキノロン耐性大腸菌)の菌血症で年間8000人が死亡している現状について言及。「パンデミックで世界を混乱に陥れているCOVID-19の国内死亡者1000人弱(7月10日時点)と比較すると、現状においても数倍規模でAMRを原因に患者が亡くなっている」とそのインパクトの大きさを示した。

また、「欧州では重度のCOVID-19の患者の間で徐々に耐性菌感染の問題が認知されつつあり、お互いがかみ合うと状態はさらに悪くなる」と述べ、COVID-19とAMRは不可分の関係であることを指摘。さらに「ゼロから治療薬をつくらなければならないCOVID-19と異なり、薬剤耐性菌はすでに特定され、機序も明確であることから、事前の対処が可能である。しかし、開発支援のための体制づくりが必要」と述べ、AMRアクションファンドに期待を寄せた。

◎厚労省・鈴木医務技監 企業・団体の協働や行政との連携を評価

一方、厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏は、▽COVID-19の流行で感染対策が注目されているなかでの取り組み▽各企業・団体の協働▽民間企業と行政の連携──の3点でAMRアクションファンドの設立を高く評価した。

日本の抗菌薬使用の特性に関しては、「全体として使われている抗菌薬の量は少ないが、新しい世代の抗菌薬が多く使用されている。ここで耐性ができると使用できる薬剤がなくなる可能性もある」と述べ、新規抗菌薬開発の必要性を指摘した。その研究開発支援の方法としてプッシュ型およびプル型インセンティブを紹介。「抗菌薬に限った場合、耐性の問題で数多く販売されることは必ずしもいいことではない。むしろ少量の販売でもその薬が維持されていくことが大事」との観点を披露し、製薬業界が導入を主張するプル型インセンティブの導入についても理解を示した。
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