小野薬品は６月７日、グレリン様作用薬エドルミズ（一般名：アナモレリン塩酸塩）の発売を機に、「がん悪液質治療薬の登場で変わるがんサポーティブケア」をテーマにメディアセミナーを開催した。がん悪液質の基本情報やエドルミズの有効性や安全性、がん悪液質の治療展望などについて、京都府立医科大学呼吸器内科学教授の髙山浩一氏による講演が行われた。

◎がん死因で最も多く　４分の１を占める悪液質

がん悪液質は、がんに伴う体重減少（特に筋肉量の減少）や食欲不振を特徴とする複合的な代謝異常症候群で、がん患者の50～80％に認められると言われている。悪液質（過去６カ月間の体重減少率５％以上）の有病率をがん種ごとでみると、膵がん、胃・食道がん、頭頚部がん、肺がんの順に多く、がん患者の直接の死因としては23％が悪液質によるというデータもある。

京都府立医科大学の髙山氏は、「臓器がそれほどダメージを受けていないにもかかわらず、がんが進行して衰弱して亡くなるということは、イコール悪液質で亡くなるということ」と説明。これまでにもがん悪液質による生命予後の悪化を示す研究データは多数報告されている。

がん悪液質の特性については、飢餓（栄養摂取量不足）と比較して紹介。「体重や脂肪組織が減るのは共通しているが、飢餓の場合は安静時のエネルギー消費量を減少させ、骨格筋を維持しようとするのに対し、がん悪液質ではエネルギー消費量がむしろ増加し、効率の悪いエネルギー代謝状態になる。本来は守らなければならない骨格筋まで分解してエネルギーに変えてしまうという状態が起こるのが大きな特徴だ」と話した。

そのうえでがん悪液質について、「通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、進行性の機能障害に至る、骨格筋量の持続的な減少を特徴とする多因子性の症候群」と定義づけられていると述べ、診断基準として、①過去６カ月間の体重減少＞５％、②BMI＜20、体重減少＞２％、③サルコペニア、体重減少＞２％──のいずれかに該当し、経口摂取不良、全身性炎症を伴うものとしている。

◎適正使用にがん悪液質の啓発が不可欠

こうしたがん悪液質に対してコルチコステロイドやNSAIDsなどによる薬物療法が試みられてきたが、効果が数週間程度であったり、有害事象が発現したりすることで、「現実的に患者さんにメリットをもたらすことがトータルとしては難しかった」（髙山氏）という。

４月21日に発売されたエドルミズは、悪性腫瘍（非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がん）のがん悪液質を適応とした、国内初のがん悪液質治療薬。選択的かつ新規の経口グレリン様作用薬で、主に胃から分泌される内在性ペプチドのグレリンは、その受容体と結合すると、体重、筋肉量、食欲および代謝を調節する複数の経路を刺激し、がん悪液質患者の体重、筋肉量の増加、食欲の増加効果を示す。

非小細胞肺がんの悪液質患者を対象とした国内臨床試験では、主要評価項目を体重増加（除脂肪体重）に設定し、エドルミズ群が平均1.38㎏増加したのに対し、プラセボ群は－0.17㎏となり、明らかな有意差を示した。投与３週時点で除脂肪体重がほぼピークに達したあと、12週まで維持しているのが特徴で、こうした結果を受けて添付文書では、「体重増加または食欲改善が認められない場合、投与３週後をめどに原則中止すること」と使用上の注意を促している。

また、警告として「本剤はがん悪液質の診断および治療に十分な知識・経験を持つ医師のもとで、本剤の投与が適切と判断される症例のみ投与すること」と記載されているが、高山氏の調査では、医療従事者でもがん悪液質のステージ分類や診断基準を知っている人は３割にも満たないことから、「現在リモートで行っている適正使用セミナーをさらに強化し、疾患の啓発を含め情報を発信していく必要がある」との認識を示した。

最後に髙山氏は、定量的な評価ではないと前置きしたうえで、「治験で患者さんやご家族に接して感じたことは、患者さんは食べられるようになって元気になり、ご家族にも大変喜ばれる。精神的なストレスがお互いに減る印象だ」と評価。フロアからがん悪液質の改善によって生命予後に影響するかとの質問に対しては、「この薬自体ががんの進行を抑えることはないが、状態が良くなることによって治療を中断せずに続けられる患者さんが増えるのではないか。そのことによって予後改善につながる可能性がある」と期待を示した。