SABCS 2022 高リスクHER2陰性早期乳がんへのセミプリマブ+REGN3767+パクリタキセル3剤併用
公開日時 2022/12/21 04:50
抗PD-1抗体薬セミプリマブとLAG-3阻害薬REGN3767の併用をパクリタキセルに追加した3剤併用の術前療法が、トリプルネガティブ乳がんおよびホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性乳がんの高リスク患者において、パクリタキセル単独と比べ病理学的完全奏効(pCR)を向上させたことが、第II相試験「I-SPY 2試験」から明らかになった。一方で、3剤併用群では副腎不全と1型糖尿病などの免疫関連有害事象(irAE)が発現したことも分かった。米ジョージタウン大学のClaudine Isaacs氏が「サンアントニオ乳がんシンポジウム2022」(SABCS 2022)のGeneral Sessionで報告した。(メディカルライター/ヘルスケアビジネスコンサルタント 森永知美)
◎REGN3767は免疫細胞に発現するLAG-3に結合・拮抗
REGN3767(Finalimab)は、免疫チェックポイント分子LAG-3を標的とする、完全ヒト化高親和性モノクローナル抗体である。LAG-3はT細胞を含む免疫細胞に発現する細胞表面分子で、PD-1と共に発現することが多い。REGN3767はLAG-3/MHCクラスII分子によるT細胞阻害を阻止する。
抗PD-1抗体薬を標準的な術前化学療法に追加することによりトリプルネガティブ乳がんの転帰改善が報告されているほか1,2、前臨床データおよび未治療メラノーマの試験からは、抗LAG-3療法と抗PD-1療法との間の相乗的相互作用が示唆されている3,4ことから、研究グループは、高リスクHER2陰性乳がんにおいて、術前化学療法に対するREGN3767+セミプリマブ併用の追加を検討することは理にかなうと考えた。
◎パクリタキセル+REGN3767+セミプリマブの3剤併用と、パクリタキセル単独とを比較
I-SPY 2試験は、局所進行乳がんの術前補助療法において、複数の試験薬を同時に評価することが可能な「プラットフォーム」デザインを採用している。今回の解析では、対照群としてパクリタキセル単独療法(80 mg/㎡、週1回静脈内投与)、介入群としてパクリタキセルにREGN3767(1600 mg、3週毎静脈内投与)+セミプリマブ(350 mg、3週毎静脈内投与)を追加する3剤併用群を比較検討した。どちらの被験者群もこれらを12週施行した後、AC療法を施行し手術を受けた。
対象は、腫瘍径が2.5 cmを超えるHER2陰性乳がん患者で、HR陽性の場合はマンマプリント(MammaPrint)が高リスクの症例とした。適応的ランダム化(adaptive randomization:割り付け途中で介入群と対照群の被験者数に大きな差が出た場合、次の組み入れ被験者の割り付けを調整する)により、パクリタキセル+REGN3767+セミプリマブ3剤併用群に76例、パクリタキセル単独群に350例を割り付けた。主要評価項目はpCRで、HER2陰性全体、トリプルネガティブ、およびHR陽性HER2陰性の、3つのサブタイプ集団についてそれぞれ評価した。
またパクリタキセル+REGN3767+セミプリマブ3剤併用は、次のステップである第III相試験(登録患者300例)での成功確率が85%以上と予測されると「卒業」とみなし、第III相試験に進むことになる。
被験者の年齢中央値は3剤併用群が47歳、パクリタキセル単独群48歳、白人がそれぞれ75%、78%、アジア人がそれぞれ7%、9%であった。HR陽性の割合は3剤併用群が53%、パクリタキセル単独群56%、腫瘍径中央値はそれぞれ3.45 cm、3.8 cm、リンパ節陽性がそれぞれ41%、43%だった。
◎ 3剤併用によるpCR率はトリプルネガティブ集団で53%に
pCR率は、HER2陰性の症例全体では3剤併用群が44%、パクリタキセル単独群21%、トリプルネガティブ集団ではそれぞれ53%、29%、HR陽性HER2陰性集団ではそれぞれ36%、14%であった。3剤併用の第III相試験における成功確率は、HER2陰性全体で0.955、トリプルネガティブ集団が0.915、HR陽性HER2陰性集団は0.940と予測され、3集団全てにおいて「卒業」とみなされた。
また3剤併用はパクリタキセル単独と比べ、残存腫瘍負荷(RCB)スコアを改善させていた。RCB-0とRCB-1を合わせた割合は、HER2陰性全体では3剤併用群が64%、パクリタキセル単独群が37%、トリプルネガティブの集団はそれぞれ70%、48%、HR陽性HER2陰性の集団はそれぞれ60%、29%だった。
◎グレード3の副腎不全、1型糖尿病が発現
投薬下で発現した有害事象(TEAE)の発現は全グレード(G)で、倦怠感(3剤併用群84%, パクリタキセル単独群68%)、下痢(49%、34%)、頭痛(46%、30%)、ALT上昇(21%、10%)などで、3剤併用群で高かった。3剤併用群ではirAEが53%に発現した。甲状腺機能低下(G1/2 24例、G3 0例)、副腎不全/下垂体炎(G1/2 10例、G3 6例)、1型糖尿病(G1/2 0例、G3 3例)などの事象が発現しており、Isaacs氏はREGN3767を減量して安全性プロファイルを評価する予定だと述べた。
さらに本試験では、53遺伝子のプロファイルから術前免疫療法に奏効する患者を予測する「ImPrint」を開発している。この検査法によりトリプルネガティブ集団の47%とHR陽性HER2陰性集団の28%に免疫シグネチャー(免疫陽性)が検出され、HRの状態と免疫サブタイプで層別化しpCR率を解析した結果、トリプルネガティブで免疫陽性の症例では3剤併用群は82%に上った。これに対しパクリタキセル単独群は35%、免疫陰性の3剤併用群は32%、パクリタキセル単独群は22%だった。HR陽性HER2陰性で免疫陽性の3剤併用群は91%に至った一方、パクリタキセル単独群は33%、免疫陰性の3剤併用群は28%、パクリタキセル単独群は8%だった。