日本ベーリンガー 5年間に15件以上の承認取得へ 4事業部制、アセットチーム導入で迅速に意思決定
公開日時 2024/05/29 04:53
日本ベーリンガーインゲルハイムの荻村正孝代表取締役医薬事業ユニット統括社長は5月28日、2024年事業説明会にのぞみ、28年までの今後5年間に「15件以上の承認・上市を目指す」と表明した。6つの注力疾患領域から15以上の承認取得を実現するためには、「より専門性を高め、意思決定スピードを上げる」必要があると判断。1月に4つの事業部制に再編するとともに、開発パイプラインごとに、権限が与えられた少数メンバーで組織する「アセットチーム」を導入した。荻村氏は、「より早く開発を進展させ、日本の患者さんにいち早く革新的な治療薬を届けたい」と強調した。
荻村氏は、今後5年間のビジネスの展望について、「主力製品のジャディアンスファミリーとオフェブでさらに成長する。15件以上の承認・上市を目指す。これらにより中長期に昨年(23年)同等の成長を維持する」と述べた。23年の日本法人の売上(薬価ベース)は前年比7.0%増の2319億円。ジャディアンスが32.3%増の592億円、トラディアンスが22.2%増の290億円、オフェブが12.1%増の610億円――を売り上げ、これら3製品の2ケタ成長が日本のビジネスをけん引した。荻村氏は主力製品の伸長と、持続成長へのカギを握る15件以上の承認取得により、国内事業の1ケタ台後半の成長を継続させる考えを示した格好だ。
◎心腎代謝、呼吸器、オンコロジー、免疫、メンタルヘルス、網膜の6疾患領域に注力
独ベーリンガーは歴史的に呼吸器疾患や循環器疾患を強みとし、研究開発の注力領域としてきたが、今後は、▽心腎代謝疾患、▽呼吸器疾患、▽オンコロジー、▽免疫疾患、▽メンタルヘルス、▽網膜疾患――の6つを注力疾患領域と位置付け、集中的に投資していく方針。日本法人もグローバルの方針に則り、24年以降これら6疾患領域に注力する。
◎国内第3相に6プロジェクト 5つが新有効成分
第2相以降の国内開発パイプラインは4月現在、網膜疾患を除く5疾患領域に17プロジェクトあり、このうち第3相に6プロジェクト(新有効成分5、適応追加1)、第2/3相に適応追加が2プロジェクトある。
第3相試験段階にあるのは、心腎代謝疾患で、▽SGLT2阻害薬・ジャディアンスの急性心筋梗塞の適応追加、▽肥満症を対象疾患とするGLP-1/グルカゴン受容体デュアルアゴニスト・survodutide(開発コード:BI456906)――の2つ。呼吸器疾患では、特発性肺線維症などを対象疾患とするPDE4B阻害薬・nerandomilast(BI1015550)の1つ。オンコロジー領域では、▽脱分化型脂肪肉腫を対象疾患とし、先駆的医薬品に指定されているMDM2-p53阻害薬・ブリギマドリン(BI907828)、▽HER2陽性の非小細胞肺がん(1次治療)を対象疾患とするHER2チロシンキナーゼ阻害薬・zongertinib(BI1810631)――の2つ。メンタルヘルスでは、統合失調症の認知機能障害(CIAS)を対象疾患とするGlyT1阻害薬・イクレペルチン(BI425809)がある。
第2/3相試験段階には、抗IL-36Rモノクローナル抗体・スペビゴ点滴静注の化膿性汗腺炎及びネザートン症候群の適応追加がある。
荻村氏は説明会で、nerandomilast、ブリギマドリン、zongertinib、イクレペルチンを具体的に紹介しながら、これら4つは今後5年間に承認取得を予定している品目に含まれていると明らかにした。
◎イクレペルチン 統合失調症の認知機能障害(CIAS)に対する世界初の治療薬へ
荻村氏によると、nerandomilastはPDE4を標的とする治療薬として、肺線維症領域におけるファースト・イン・クラスの可能性があるもの。ブリギマドリンは脱分化型脂肪肉腫を対象とした50年ぶりの新薬候補で、p53をターゲットに初めて実用化を目指す「非常に注目度の高い薬剤」。3週間に1回の経口投与で開発している。zongertinibは肺がん領域においてHER2を標的とした初の経口薬となる可能性があり、イクレペルチンはファースト・イン・クラス薬候補であり、統合失調症のCIASを対象とした世界初の治療薬として開発中だとしている。
◎2事業本部制から4事業部制に再編 「より専門性を高め意思決定スピードをあげる」
多岐にわたる疾患領域で遅滞なく15件以上の承認を取得し、より早く患者に治療法を提供できるようにするため、日本ベーリンガーは24年1月に組織を見直した。これまでプライマリーケア事業本部とスペシャルティケア事業本部の2つの事業本部制だったが、1月から、▽心・腎・代謝領域、▽肺線維症・呼吸器領域、▽オンコロジー・免疫領域、▽メンタルヘルス・眼科領域――の4事業部制に再編した。MRは現在、メンタルヘルス・眼科領域を除く3事業部に配置したが、将来は4事業部それぞれにMRを配置する方針。
荻村氏は、4事業部制に再編した意図について、「より専門性を高め意思決定スピードをあげることで、患者さんに迅速に治療法を届けるため」だと説明した。
◎アセットチーム 開発の早い段階から市販後までパイプラインを一貫して管理
また、「15件以上の承認取得を目指すという非常に複雑な状況に対応するためには、小さなアセット単位のチームの方がより機動的に、迅速に意思決定できると考えた」とし、開発パイプラインごとに、権限を与えられた少数メンバーによる「アセットチーム」を立ち上げたことも紹介した。アセットチームは、開発担当やマーケティング担当などで組織し、開発の早い段階から市販後までパイプラインを一貫して管理する。グローバルに同様のアセットチームがあり、グローバルとも連携して開発の加速化と上市後の早期の最大化を目指す。
同社広報部によると、アセットチームに与えられた権限に関し、「考え方としてはこれまで役員会で決めていたことの一部を権限委譲し、アセットチームで迅速に意思決定できるようにした」とのことだが、詳細は非開示だとしている。