
日本製薬団体連合会安定確保委員会は1月24日の「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」に後発品を製造する製造販売業者の実施した自主点検の分析結果を報告した。承認書と製造実態との齟齬があった要因としては、「承認書との表記の不一致」が最多で、「口頭伝承」も報告された。参考人の平澤健司氏(日薬連安定確保委員会安定供給検討部会部会長)は、口頭伝承について「悪質なものはなかった」などと説明。従業員のヒアリングで口頭伝承が明らかになったことから、「風土が醸成されている表れ」などと述べた。これに対し、構成員からは「人員交代したときに、“口伝じゃ駄目ですよ”ということは必ず入れていただきたい」、「厚労省とともに安心・安全かつ国民の手に届くように、ぜひ襟を正してやっていただきたい」と釘を刺す声が相次いだ。
◎「承認書と表記の不一致」が最多 「口頭伝承」が製造方法欄2.3%
日薬連の調査では、厚労省の通知などを踏まえて精査した結果、37.6%に当たる3281 件に変更になったと報告した。承認書と製造実態との間に齟齬がある品目について、前回は対象品目の43.5%に当たる3796品目だった。
分析の結果、多かったのは「承認書との表記の不一致」で製造方法欄1157品目(35.2%)、規格及び試験方法欄および別紙規格欄1045品目(31.9%)だった。次いで、「承認書からの追加・省略」が製造方法欄1105品目(33.7%)、規格及び試験方法欄および別紙規格欄798品目(24.3%)、「承認書等への転記ミス」が製造方法欄232品目(7.0%)、規格及び試験方法欄および別紙規格欄218品目(6.6%)だった。また、「口頭伝承等」も製造方法欄76品目(2.3%)、規格及び試験方法欄および別紙規格欄167品目(5.1%)も少ないながら報告された。このほか、「試薬の適合性の未確認」も規格及び試験方法欄および別紙規格欄に627品目(19.1%)あった。
最多となった「承認書との表記の不一致」や「承認書からの追加・省略」について、参考人の平澤氏は、「承認書と手順書の製造手順が根本原理から違うといった致命的な欠陥事例はほとんどなかった」と説明した。
◎口頭伝承 平澤参考人「報告があったことも風土醸成の表れ」
「口頭伝承」については、「製造方法の変更(原料を篩過する網目の口径等)が現場でのみ管理されていた」などの事例が報告された。
平澤参考人は、「いわゆる承認されていない基準や不文律化した誤った試験方法を繰り返すといった悪質な事例は確認されず、詳細な手順、試験方法の承認書またはGMP文書への反映が適切に行われていないケースだった」と説明した。今回の調査では、文書だけでなく、従業員のヒアリングを行ったことで口頭伝承があることもわかった。平澤参考人は、「昨今の品質問題を受けて、各社がいわゆる品質、文化、クオリティカルチャーの醸成を進め、風土が強く醸成されてきている表れだと私どもは考えている」と述べた。一方で、「口頭伝承は、何かのアクシデントに伴って伝わらなかったり、誤って伝わったりするリスクもあり、非常に深刻な問題であると思う。こうした事例を含め、手順書をしっかり整備することで相違を解消するように進める」と述べた。
◎原構成員 「“口伝”は悪事だという印象しか残らない」
原靖明構成員(日本保険薬局協会医薬品流通・OTC 検討委員会 副委員長)は、「メーカー側も厳しい口調だったのでよくよくわかっていると思う」としたうえで、「“口伝”というのは人に聞かれちゃいけないようなことをやる場合で、悪事だという印象しか残らない。この言葉を使っている以上、各メーカーに相当印象悪いということをお伝えいただいて、こういうことがないようにしていただきたい」と指摘。「人員交代したときに、“口伝じゃ駄目ですよ”ということは必ず入れていただきたい」と釘を刺した。
これに対し、梶山健一構成員(日本製薬団体連合会安定確保委員会委員長)は、「口伝については駄目だということをきっちりと文章として残していく、それを伝えて、人が変わっても同じことができるということが大事なんだということにつきましては、今後に予定しております説明会等におきましても対応していきたい」と応じた。
川上純一構成員(浜松医科大医学部附属病院薬剤部 教授・薬剤部長)は、「口頭伝承などでは、実際にどういうことが実施されたのか、実施されたことが正しいのか判断のしようがないと思う。製造に関する記録をどこまで丁寧に付けられているのかっていうのが重要かと思う」と指摘した。
これに対し、平澤参考人は、「GMPという範囲の中では、製造の記録をつけるというのは第一義としている。 そして、製造を逐一チェックした上で、これを第三者が必ず照査をして、その内容をチェックして出すというところは、必ずやっているものであるというふうにご理解いただきたい」と述べた。
◎前回報告時は「軽微」強調 梶山構成員「表現が軽率だった」とお詫び
梶山構成員は、承認書と製造実態について3796品目に相違があったことについて、「過去の点検では未実施であった試験方法に関する点検を実施したこと、製造試験現場担当者へのヒアリングも実施したこと、統一した点検手順を示した上でLine by Lineによる点検を徹底したこと、また、自粛期間中の継続したQ&A対応や説明会を実施し、相違の有無判断につきまして、自己解釈で相違なしとしないことなどを徹底したことも影響したと考えている」と改めて説明。そのうえで、速報値を検討会で報告した際に「軽微」を強調した点について触れ、「処方調剤いただき、患者さんに服薬いただく上で問題となる報告ではなかったとお伝えしたった。軽微だからよいという意味ではなかった。私どもとしては、表現が軽率だったことを反省し、まずお詫び申し上げたい」と述べた。
構成員からは相違のある品目での品質の担保を問う声もあがったが、平澤参考人は、「私は製造の立場、品質保証の立場の人間だが、今回は承認書との齟齬があったということであって、品質の悪いものを作っていて良し、としているという意味では全くない。今回は承認書との相違があったけども、品質としてちゃんとしたものを出している」「承認書とのずれがあったが、それは大きな問題を起こさない、ただ軽微という言い方は前回間違っていた」などと説明した。
◎宮川構成員 「企業の体質そのものが悪い」 “軽微”の言葉の裏に問われる製薬業界の姿勢
宮川政昭構成員(日本医師会常任理事)は、「本当に問題点を解消できる方向に進むかどうか、私は疑念を持っている。口伝は絶対なくすのは当然のことだろう。GMPに則り、記録するということを強く言われたが、そうであれば承認書と手順書に不一致があり、報告が行われていなかったことは非常に重要ではないか。そうであれば、厚労省に報告しなければいけなかったのに、それさえもできていなかった」とバッサリ。“軽微”と説明したことについては、「企業の体質そのものが悪い」と指摘した。「(業界側が)人材の確保や教育ができていなかった、コンプライアンスが不十分といっていたが、そんなことを世の中に言っていいのか。そんなことを作っている会社に任せられない、日本の薬は飲めないと患者に言われてしまう。“軽微”ではないといったのはそういったことも含めて指摘した。もう少し理解していただいて、しっかり対応を取っていただき、厚労省とともに安心・安全かつ国民の手に届くように、ぜひ襟を正してやっていただきたい」と釘を刺した。
◎業界側が行政の指摘も川上構成員「後から言われても言い訳にしか聞こえない」
業界側は、「承認書に記載すべき事項と、GMP に従い適切に運用されていれば承認書に記載しなくてもよい事項との線引きが明確でないことが要因となり、薬事手続きの未実施等が生じていた」などと指摘し、規制当局側の課題も指摘した。
川上純一構成員(浜松医科大医学部附属病院薬剤部 教授・薬剤部長)は、ルールの見直しには理解を示したうえで、厚労省は薬事規制の検討会で議論を進めていたが、業界が意見陳述の中で要望を出していなかったことを引き合いに、「このことを指摘するタイミングが1回周回遅れ」と指摘。「全ジェネリックの自主点検をやって相違がこれだけ見つかったから言い訳のように言われても、おかしいようにしか聞こえない。本当にフォローしているのであれば、先に業界団体から手を打つべきだったのではないか」と指摘した。
これに対し、平澤参考人は、「私どもこれをする前から関係、部署であるべき姿というところのお話はさせていただいているが、今後もそれを続けていくというところで対応してまいりたい」と述べた。