【FOCUS】担当者個人の医療従事者向けメール配信 プレスリリースを使った販売情報提供活動は慎重対応
公開日時 2025/07/29 04:53
厚労省監麻課の「2024年度医療用医薬品の販売情報提供活動調査事業・報告書」(7月25日公開)では、コロナ禍以降の製薬企業による情報提供活動の新たな課題に触れている。一つは、「製薬企業担当者個人からの医療従事者向けのメール配信形式による販売情報提供活動」の適正化だ。もう一つが、「プレスリリースを使った販売情報提供活動」の事例。プレスリリースの記事自体は広告に該当しないが、それを用いて営業活動を行う場合は販売情報提供活動に該当する可能性があると報告書は指摘する。その上で報告書は、医療従事者がどう受け止めたかも含めて「慎重に対応したい」と注意喚起している。(ミクス編集長・沼田佳之)
販売情報提供活動調査事業(旧販売情報提供活動監視事業)は2016年から実施され、今回で9年目を迎えた。この間、厚労省の「販売情報提供活動ガイドライン(GL)」が2019年4月から実施され、2020年から数年間は、コロナウイルス感染症の感染拡大と医療機関への訪問自粛を経験した。MRを含む医療用医薬品の情報提供活動も、この間、大きく様変わりした。現在も、病院の訪問規制強化やデジタル・AIの普及などで、リアル訪問一辺倒で活動していた時代から、デジタル情報とMRを組み合わせた“ハイブリッド型”の活動へと変化を遂げる途上にいる。
◎記事体広告や製品情報概要の不適切事例は減少 対面・オンラインを問わず不適切事案散見
この間、厚労省監麻課の「販売情報提供活動調査事業報告」も、記事体広告や製品情報概要の不適切事例は減少に向かった。一方で、対面・オンラインを問わず、医療機関への個別面談で、エビデンスなく有効性や安全性を説明した事案や、有効性のみを説明し安全性についての情報提供を怠った事案、他社製品との比較の際に自社製品に有利な部分のみを抜粋して説明した事案など、不適切な販売情報提供活動が依然として存在している。特に、競争市場にある医薬品は、エビデンスのない説明を行ったケースや、競合する他社製品の誹謗を行ったケースも含め、不適切な販売情報提供活動の事案が複数医療機関から報告されており、報告書は、「営業組織による意図的な取り組みを疑わせるもの」と強く指摘している。
さらに、2019年4月の販売情報提供活動GL実施に伴い、「医薬品の情報提供に過度に慎重になっている製薬企業・担当者が増えた」ことも問題視され、いくつかは学会や研究会などを通じて医師や薬剤師が製薬企業に対応を求める意見書や声明などを出してきた。こうした事態を受け、厚労省も2024年2月21日にGLの「Q&A(その4)」を発出。「他社製品との比較情報について、どのような情報提供であれば問題がないか」を明確化する見解を出した。
◎「24年度調査事業・報告書」は5つの課題を明示
こうした観点でいえば、「販売情報提供活動調査事業」を経験した9年間を振り返ってみても、情報提供活動そのものが変化しており、その時々に応じて新たな課題を抱える流れになっていることは否めない。こうした環境変化を踏まえ、「24年度調査事業・報告書」では、5つの課題を明示した。1点目は、販売情報提供活動GLおよびQ&Aの普及啓発だ。報告書では、「周知活動・研修は一定程度行われていると評価するが、テクニカル的な面に終始してしまっている懸念もある」と指摘している。
◎「間違っていました、すみません」と謝罪 謝れば意図的に不適切な情報提供もOK?
2点目は、「MR教育」。報告書では、医療従事者が MR の説明の不備を指摘すると「間違っていました、すみません」と謝罪して終了するケースも報告されている。「こういった事例の中には、指摘された時には謝罪すればよいと意図的に不適切な情報提供を行っていることが疑われるものもある」と報告書は指摘しており、「極めて悪質な情報提供ということで、本事業では注視している」と警鐘を鳴らしている。
3点目は、医療従事者に対するガイドラインの周知。報告書では、「モニター医療機関の担当者からは、事例検討会で各疑義報告事案に対する委員・専門委員からのコメントや他のモニターの報告等を聞くことで、製薬企業から情報を受ける際の判断基準を持つことができたといった意見が毎年多く挙げられている」と報告。関係団体や学会等で医療従事者向けの販売情報提供活動GLに関する講習会等を開催し、この中で不適切事例を示すことも効果的とした。
4点目は、モニター医療機関以外の「一般報告窓口」について、医療関係者の認知度が低い点が指摘されている。学会・専門誌等での周知や定期的なメルマガの配信、国主導のPR活動、学会等でのチラシ配布、地方自治体への周知の協力依頼など、より一層の取組が必要とした。
◎「個人」からの医療従事者向けのメール配信 プレスリリースを使った販売情報提供活動事例
そして5点目に、製薬企業担当者「個人」からの医療従事者向けのメール配信形式による販売情報提供活動の適正化と、プレスリリースを使った販売情報提供活動事例をあげた。まず、メール配信については、「媒体を問わず、販売情報提供活動全般に適用されるものである」と指摘。「このような形式の販売情報提供活動についても、不適切な情報提供事例については、引き続き報告受付の対象として監視を行っていくことが必要」との見解を示した。
プレスリリースを使った販売情報提供活動事例については、「プレスリリースの記事自体は広告に該当しないものの、それを用いて営業活動を行う場合は販売情報提供活動に該当する可能性がある」と強調。「情報を受けた医療従事者がどのように受け止めたのかも含め、慎重に対応したい」と報告書を結んでいる。
肝心なのは提供情報の中身であり、メール配信の内容については社内の販売情報提供活動監督部門の確認とチェックが前提となる。一方でプレスリリース自体もメディアが報道する情報を掲載するものだが、ごく稀に薬機法の承認事項の記載以外の色彩を強く打ち出すものも散見される。過去10年間の情報提供活動の変遷は上述した通りだが、今後、AIやデジタルが急速に医療界において浸透することが予想される中で、情報の確からしさは、MRを含む情報提供担当者はもちろん、プレスリリースを含むWeb・Onlineなど電子メディアも、配信内容、配信方法、記載事項で、担当者はこれまで以上に注意が求められそうだ。