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神経系領域スペシャリティーファーマ・Elan社買収の行方に注目

公開日時 2013/07/02 05:01

ニューヨーク証券取引所とアイルランドのダブリン証券取引所に上場している神経系領域のスペシャリティー製薬企業・Elan社(本社:アイルランド・ダブリン、G. Kelly Martin社長兼最高経営責任者)をめぐる買収に注目が集まっている。


今年2月25日、アメリカの投資会社Royalty Pharma Management LLC(本社:アメリカ・ニューヨーク、Pablo Legorreta最高経営責任者)がElan社に対して1株あたり11ドル、総額約65億ドルでの買収を提案し、きな臭い動きが表面化した。


Elan社はこの直前に同社開発品として数少ない上市にまでこぎつけた多発性硬化症治療薬・TYSABRIについて売上ロイヤリティーの一部を除く全権利を共同開発したバイオジェン・アイデックに32億5000万ドルで売却、最初の12ヶ月間は売上高の12%、その後は年間売上高20億ドルまでは18%、20億ドルを超える分については25%のロイヤリティーを得られることで合意していた。こうした資金もあったためか、Elan社はRoyalty Pharma側の提案を即時拒否するとともに、TYSABRIの権利売却金のうち10億ドルを自社株買いに充てて自己株式消却をすることで株式価値を高めること、加えてTYSABRIのロイヤリティー収入の20%を株主に還元するという買収防衛策を発表した。


Royalty Pharma側は一旦買収額を1株あたり12ドルに引き上げたが、Elan社が10億ドル分の自社株買いを発表通り実行して発行済み株式数が減少したため、1株あたり11.25ドル、総額約57億ドルの買収提案を再度行った。


しかし、Elan社はこれも拒否し、株主にはRoyalty Pharmaへの提案へ応じないよう要請するとともに、5月13日にTheravance社がグラクソ・スミスクラインと提携している4つの開発プログラムのロイヤルティの21%を10億ドルで取得する合意、5月20日にはオーストラリアの希少疾病医薬品メーカーAOP Orphan社の3億3700万ドルでの買収、アラブ首長国連邦のドバイを拠点とする医薬品会社Newbridge Pharmaceuticalsの発行済み株式48%を4000万ドルで取得、新たな投資のための8億ドルの社債発行、さらなる2億ドルの自社株買い、アルツハイマー病薬候補ELND005(Scyllo-inositol)のスピンオフを同時に発表するというなりふり構わぬ企業価値向上策を発表して対抗した。


これに対し、5月20日、Royalty Pharma側も買収提案を1株あたり12.50ドル、総額64億ドルに引き上げたが、Elan社側は自社総資産の価値として1株あたり15.50~20.80ドルとの算出結果を公表し、Royalty Pharma側の提案は同社の資産価値を不当に低く見積もっているとの声明を発表した。


この敵対的買収はついに法廷闘争にまで発展し、6月にはアメリカとアイルランドでRoyalty Pharmaの買収提案に関する情報開示が不十分として裁判所が同社の買収活動一時差し止めを決定。Royalty側は裁判所に対しては控訴するとともに、6月7日には買収提案を1株あたり13ドルに引き上げ、さらにElan社株主に対してTYSABRIが特定の売上高目標を達成すれば、1株当たり2.50ドルが支払われる不確定価額受領権(CVR)を付与する、総額80億ドルにも上るとする再提案を行ったが、Elan側も再び拒否した。


結局、買収をめぐる駆け引きは6月17日のElan社臨時株主総会にまでもつれ込み、株主の意向により買収阻止が決まり、Royalty Pharma側も最終的に敵対的買収を断念するに至った。


しかし、これでElan社側も一安心というわけではない。1969年創業、1984年の株式上場という「老舗」スペシャリティー製薬企業ながら、同社がこれまで上市にこぎつけたのは多発性硬化症に加え、クローン病の適応を取得したTYSABRIと非オピオイド系重度慢性疼痛治療薬・プリアルトぐらい。過去の開発品ではアルツハイマー型痴呆症治療ワクチンの開発中断など研究開発の失敗も少なくなく、最近でも目玉としていたアルツハイマー型痴呆症治療薬でAβ中和抗体のbapineuzumabはフェーズ2で良好な結果が得られず、提携していたジョンソン&ジョンソンは開発中止を宣言。先ごろ、09年の提携開始時に約10億ドルで取得したElan社の発行済み株式の18%の売却に踏み切った。

 


そもそも過去から同社はマネジメント全体の問題も指摘されており、02年の年次会計報告時は米証券取引委員会に期限まで報告書を提出できず、再三にわたって期限を延長している。そもそも決算そのものがわかっている限り、06年以降最終利益では赤字続きで、これまでも開発品の権利売却、さらには製剤化/製造事業部をAlkermes社に約9億6000万ドルで売却することなどで負債の返済と新規開発投資を行うという自転車操業的経営を繰り返してきた。また、2010年には、旧・大日本製薬(現・大日本住友製薬)から北米・メキシコ・ヨーロッパでの販売権を獲得し、後の04年にその権利をエーザイに売却した抗てんかん薬ゾニサミドについて、未承認用法の販促による不正を認めて米司法省に2億350万ドルの和解金も支払っている。


メリルリンチ出身で03年にElan社入りしたKelly Martin最高経営責任者は、同社停滞の改善を期待されていたにもかかわらず、経営体質は一向に変わらず、08年には同社に投資しているCrab Tree PartnersがKelly Martin最高経営責任者の更迭を求めたこともあった。にもかかわらず、Kelly Martin最高経営者は今でもプライベートジェットを使用するなどしていることから、投資家などからは放漫体質と批判を受けている。こうした批判もあってか、従来から一定の開発力はありながらも同社に関しては数々の買収の噂が上がりながらもすべて実現には至らなかった。


そして今回、Royalty Pharmaからの敵対的買収は阻止しえたものの、臨時株主総会では買収提案発表以後に同社が発表した投資策や株主利益還元策は自社株買いを除きすべて否決された。この辺はElan社も既に限界を意識し、Royalty Pharmaの敵対的買収を拒否しながらも同時に正式な身売りを公表している。


身売り発表以後、同社買収に関心を示したと名前が挙がったのが、昨年、売上高の約半分を占める抗うつ薬・レクサプロの特許が失効し、なおかつプロキシ・ファイトで取締役を送り込んだ投資会社・Icahn Partnersにより、1977年から30年以上という長期政権をしいていたHoward Solomon最高経営者が事実上追放されたばかりのForest Laboratories(本社:アメリカ・ニューヨーク)である。


現在、同社も含め中堅製薬会社数社がElan社買収に名乗りを上げているとされる。そして敵対的買収に失敗したRoyalty Pharmaも他社とのパートナーシップを組む形で買収に加わる可能性も浮上してきている。今後、メガファーマがここに参戦してくるかが1つの焦点だが、いずれにせよアルツハイマー型痴呆症治療薬の開発続行が困難になり、事実上開発パイプラインが空になったElan社はどの会社が手中に収めても再建は容易ではなさそうだ。

 


 

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