厚労省 後発品体制加算「流通改善GL踏まえ医薬品在庫管理体制含めた評価」に衣替え 名称変更も
公開日時 2025/12/08 06:01
中医協診療側は12月5日に開かれた総会で、後発医薬品調剤体制加算や後発医薬品使用体制加算の廃止に強く反対した。後発品の数量シェアが9割を超え、診療報酬上の評価に対する不要論も高まるなかで、厚労省保険局医療課は「流通改善ガイドライン等を踏まえ、多くの医薬品を在庫管理する体制を含めた報酬上の評価」に衣替えすることを提案した。体制の要件として、流通改善ガイドラインの遵守状況を示した。制度としての趣旨も変わり、名称変更も浮上している。診療側の茂松茂人委員(日本医師会副会長)は、「我々も名称を変えて加算するということであれば理解するが、“(点数を)切りますよ”ということでは理解できない」とクギを刺す場面もあった。
◎後発品体制加算は「後発品が抱える追加コスト、発生する作業の手間に対する評価」
後発品の使用促進に向けた診療報酬上の評価として、薬局の点数として「後発医薬品調剤体制加算」、医療機関の点数として「後発医薬品使用体制加算」、「外来後発医薬品使用体制加算」がある。厚労省保険局医療課は、「先発医薬品に加えて後発医薬品の在庫も抱えることによる追加的なコスト、供給不安が生じることの多い後発医薬品を取り扱うことに伴い発生する作業等の手間について、保険医療機関や薬局に対する評価を行うために設けたもの」と説明した。
後発品の数量シェアが90%を超えるなかで、廃止を求める声も強くなっている。一方で、後発品の供給不安が続くなかで、医療現場からは後発品の供給状況は悪化し、現場での業務負担が増大しているとの声があがっている。
こうした中で、厚労省保険局医療課は、「後発医薬品の使用割合の維持や使用促進のみならず、医薬品の安定供給体制を支える取組を促進する観点から、流通改善ガイドライン等を踏まえ、多くの医薬品を在庫管理する体制を含めた報酬上の評価」とすることを提案した。新たな要件として、流通改善ガイドラインの遵守状況をあげた。
診療側からは、供給不安の中で医療現場の「追加的コスト」として容認することを求める声があがった。一方で、支払側からはコストについて評価することは「検討の余地はある」としたものの、「一律の対応ではなく、相当にメリハリの効いた対応をすべきだ」などの意見が出た。
◎診療側「供給不安の中で追加的コストへの評価欠かせない」
診療側の江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は、「現状は、医薬品の在庫管理に多大な労力を要している。患者さんに必要な医薬品を安定して供給するためにも、追加的コストへの評価は欠かせない」と強調した。
診療側の森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は、「後発品の使用については、患者さんへの説明、変更調剤、新規収載される後発医薬品の情報収集や備蓄など、後発医薬品の使用割合によって、薬剤師の業務が変わるものではない」と説明。「後発医薬品調剤体制加算が使用促進のみならず、使用の維持、そして安定供給に対応する薬局、医療機関を支える大きな役割を持っている。後発品の使用割合の維持や使用促進はもちろん、患者さんのために、医療現場が安定した医薬品の提供体制を確保し、支えるための評価は引き続き不可欠だ。単に廃止すべきではない」と訴えた。
◎支払側・松本委員「むしろ減算主体が基本」 追加的コストの対応は「メリハリを」
一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は、「後発品の切り替えが一段と進み、インセンティブとしての体制加算は役割を終え、むしろ減算を主体とした仕組みとすることが基本」との見解を表明した。そのうえで、医薬品の流通・在庫管理などの追加的コストについて「検討の余地はある」と認めたものの、「一律の対応ではなく、相当にメリハリの効いた対応をすべきだ」との考えを示した。薬価調査で後発品や最低薬価品目では乖離率が大きく、薬価差益が残っていることにも触れ、「様々な要素を考慮して、総合的に判断すべきだ」と述べた。
支払側の鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)も、「長期収載品の選定療養の導入により、後発品の使用状況が大きく変化していることを踏まえると、このまま維持ということにはならない」、「後発品の使用は患者さんにとっても、医療機関にとっても当然のこととして受け入れられたフェーズに至った。使用状況に応じた加算という方法は馴染まなくなった」との考えを示した。
◎流通改善ガイドラインの遵守事項 薬局での認知度は半数に 支払側・松本委員「正直、驚き」
新たな要件として浮上した流通改善ガイドラインの遵守状況だが、厚労省は薬局の約半数がガイドラインに定められた遵守事項を「知らない」との調査結果を報告した。
診療側の江澤委員は、「流通改善に向けたガイドラインの重要性も認識しているが、現場では、毎日綱渡りで医薬品の確保をしている状況だ。まずはガイドラインを周知していく段階にある」と理解を求めた。
一方、支払側の松本委員は薬局での認知度の低さに「正直かなり驚いた。ガイドラインの中には、医療機関や薬局側に求めることが多数あるにもかかわらず、この結果であることに非常に疑問を持っている」と述べた。医薬品の供給不足の原因として医療機関・薬局での偏在も指摘される中で、ガイドラインの遵守状況に応じたメリハリの必要性も指摘した。
◎診療側・江澤委員「努力に対して新たな評価もいただきたいぐらい」と再反発 あまりに時期尚早
これに対し、診療側の森委員は後発品の新規収載の時点で患者に説明して理解を得ているとして、「後発品使用体制加算を維持することも、今、自分たちにとっては非常に重要な原資になっていることをご理解いただきたい」と改めて訴えた。
診療側の江澤委員も「現場は日々大変苦労している状況の中で、今このタイミングで体制加算を引き下げるとか、これは終わったとか言うのは、あまりにも時期尚早な議論だ」と再度反発。「これまでの医療機関などの取り組みによって、ここまで後発品のシェアが高まっている。いまの供給不安定も相まって今の状況を維持しているという状況はご理解いただきたい。むしろ、我々としては、この努力に対して新たな評価もいただきたいぐらいの思いだ」と訴えた。
診療側の茂松委員も、大阪府の実態として供給状況が悪化していると訴え、「この現状で手法を変えるとか、そういう意見がなされるのが全くおかしい。まずは供給がきちっとできる中での話だ」と強調した。
◎支払側・松本委員「本当にこの対応でいいのか問題提起」
支払側はこれを受けて再度、意見を表明。支払側の松本委員は、「(後発医薬品使用体制加算の)性質が変わっているのであれば、そういう形でしっかりと、と申し上げている。流通や在庫の管理に関してコストがかかることには理解するが、本当にこの対応でいいかという問題を提起している」と述べた。
これに対し、診療側の茂松委員は、「我々も名称を変えて、こういう現場で困っていることに対して加算をするんだということであれば、全然理解する。そういうことなしに“はい、切りますよ”ということでは、理解ができない」と強調した。
◎地域フォーミュラリ 支払側「医薬品の処方や調剤の評価の要件としてはあり得る」
地域フォーミュラリについても議論の俎上に上った。厚労省保険局によると、全国での策定件数は18件(策定中含む)、12府県で1件以上策定されていたという(25年5月時点)。
支払側の松本委員は、地域フォーミュラリの取組みは「まだ限定的」と見方を表明。「フォーミュラリの何を診療報酬で評価するかは判断が難しいところだが、まずは地域の取り組みに参加することを医薬品の処方や調剤に関連する評価の要件として位置づけることは、あり得る」との考えを示した。
これに対し、診療側の江澤委員は「地域の医師会や薬剤師会など経済的な利害関係がない地域の医療関係者が相談し、納得した上で、取り組んでいることが必須で前提条件だ。診療方針によってインセンティブをつけるなどして特定の医薬品の使用を強引に推奨するようなことは望ましい姿ではない」と指摘。まずは、「処方権は医師にあることを明確にした上で、不適切な事例や好ましくない事例が起こらないように十分に配慮して、慎重に取り組むべき」との見解を示した。