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国立循環器病研究センター 元室長の執筆論文2編で特定不正行為を認定 「JANP study」の根拠論文も

公開日時 2021/02/01 04:51
国立循環器病研究センターは1月30日、元研究所生化学部室長(元室長)が執筆した論文2編について当該研究者の特定不正行為が認定されたと発表した。問題の論文は、「心房性ナトリウム利尿ペプチドの血管保護作用による革新的癌治療法の開発」(掲載誌:米国科学アカデミー紀要)と「非小細胞肺癌手術適応症例に対する周術期hANP投与の多施設共同ランダム化第Ⅱ相比較試験」(同:Oncotarget)で、それぞれ捏造と改ざんが認められた。同センターは、「国の先進医療制度の対象となっている特定臨床研究(JANP study)の根拠論文が含まれている」と指摘。「(当センターの前研究所長が)不正に関与していないものの、論文の内容に責任を負うものとして認定されたことを大変重く受け止めている」とコメントし、関係者に謝罪した。

同センターは、2017年12月12日に、元室長が執筆に関わった 21 本の論文の研究不正行為で告発を受けた。これを踏まえ大阪大学が調査を担当した臨床系13論文を除く基礎系の8論文について、複数の外部委員を含む「不正行為調査委員会」において調査を実施した。その結果、2020年6月に5論文に特定不正行為があると認定。予備調査を経て本調査を実施。5論文の共著者38人全員に対し、論文の記載内容と実験データの整合性について調査を行い、最終的に2論文で不正が認められた。

◎論文投稿時の図版に捏造・改ざん 再計算で統計学的有意な効果認められず

問題となった論文「心房性ナトリウム利尿ペプチドの血管保護作用による革新的癌治療法の開発」からは、投稿時の図版の捏造、改ざんが認められた。具体的には、「論文に使われた control 群と control+ANP 群の2次データの由来が不明で、残り4群の平均値の算出に当たっても特定の数値が除かれ、さらに標準誤差(SE)値についても別の実験のデータを基に算出がなされていた」と報告。その結果、「E-selectin mRNA発現量の増加においてANP投与が統計学的に有意な抑制効果を示すとされていたが、0次データから再計算したところ、統計学的に有意な効果は認められなかった」と問題点を指摘した。

また、本試験は5群で実施されたように示された実験であるが、「実際には2014年10 月 23日に実施された4群(vehicleⅳ群、静脈内 0.025γ群、vehicle皮下群およびANP皮下群)の数値データに、2014年3月14日に実施された vehicle 群の一部の数値データを vehicleⅳ群に加えるととともに、静脈内 0.1γ群の全部の数値データを合わせている」として不適切な統計解析が行われていたと報告した。

◎別の投与群のデータを部分的に使用

一方、もう一つの論文「非小細胞肺癌手術適応症例に対する周術期hANP投与の多施設共同ランダム化第Ⅱ相比較試験」については、投稿時の図版の「Sham/ANP投与群の0次データ及び1次データがなく、 Sham/ANP群の2次データは、Sham/vehicle 投与群の5匹分のデータを部分的に用いて作成されていた」と強調。また、「CXCR2の発現量のデータも、測定機器に残されている0次データを、0次データ及び1次データを記録しているエクセルファイルに記載する際、いくつかの測定値に不一致が見られた」と報告。この原因について、「別の投与群のデータを部分的に用いることは、意図がなければ行われようがないことから故意によるもの」と認定した。

さらに、免疫組織化学染色の組織画像の多くに画像の重複が認められ、中には異なる実験群であるにもかかわらず同じ染色切片から撮影した画像が存在したと指摘。その結果、図版に示されたマウスの数が「図の説明に記載された匹数と異なることや、いくつかの Mac3陽性細胞数(1次データ)が同一 個体から取得されたものであることが判明した」と指摘した。

◎不正行為の程度「根拠論文として研究の進展および社会への直接的影響は高い」

同センターの不正行為調査委員会は「研究活動上の不正行為に関する調査結果報告書」の中で、同案件の不正行為の程度に触れた。前者の論文については、「特定臨床研究 (JANP study)の根拠論文とされていることを踏まえれば、当該論文 が当該学術分野の研究の進展および社会に及ぼした直接的影響は高い」と指摘した。一方、後者の論文については、「影響は中程度」とした。特定不正行為の悪質性にも触れ、「他にも有意差ありとされた部分が、再計算の結果、有意差がなかったことが明らかになるなどの事象が明らかとなり、それが、元室長の故意によるものと認定したことから、中程度の悪質性があると判断した」と報告した。

今回の事案を踏まえ同センターは、「再度、研究者に対し、ルールの遵守を徹底するとともに、今回、調査委員会から指摘された事項について、理事長が先頭に立って、鋭意、取り組みを進めてまいります」とコメントした。


 
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