CSLベーリングのジャン・マルク モランジュ代表取締役社長は本誌インタビューに応じ、患者向け「ペイシェント・サポート・プログラム」（PSP）を1月から導入する方針を明らかにした。実装するのは、同社の20%皮下注用人免疫グロブリン製剤・ハイゼントラで治療中の患者向け「CSL IgGサポートナビ」というアプリ。患者自身が治療記録を管理することで、定期的に医師をはじめとした関係者と治療履歴を共有し、円滑なコミュニケーションと今後の治療計画に役⽴てることができる。モランジュ社長は、11月に発売した遺伝性血管性浮腫（HAE）の急性発作発症抑制薬「ベリナート皮下注用2000」にも患者向けアプリを準備していることを明らかにした。「すでに最終のバリデーションの段階にある」と期待を込めた。

◎「対面が難しい時代」でも患者と医療者が円滑なコミュニケーションを実現

患者向け「CSL IgGサポートナビ」は、コロナ禍のような「対面が難しい時代」でも、定期的に医師など医療関係者と治療履歴を共有し、円滑なコミュニケーションを行うことで、患者にとって最適な治療環境を整えることを支援するためのサポートツールの位置づけだ。

主な機能としては、処方医の指示に従って、治療計画に基づいたカレンダー（投与スケジュール）を設定できる。また、患者自身がスマホのカメラを使って製品箱に印字されているバーコード（GS1コード）を読み取るだけで、ロット番号と有効期限が自動入力されるなど、簡単に投与記録をサポートできる。さらに、投与を記録するたびにアプリ上で治療履歴を確認、編集、共有できるため、医師をはじめとした関係者と治療履歴を共有し、円滑なコミュニケーションを取ることができる。ただし、通信手段を使ってのデータのやり取りではなく、あくまで受診時に患者がデータを持参し、医師や医療者との閲覧や共有を前提としている。

◎「我々の目標として患者さんの治療経験を正確に記録するということをお手伝いしたい」

モランジュ社長は、「我々の目標として患者さんの治療経験を正確に記録するということをお手伝いしたい。そうすることによって医師が患者さんの治療の状況や課題をより理解いただけるのではないか」と述べ、患者一人ひとりの状態にあわせた治療に役立てることをサポートするものと強調した。また、11月に発売した「ベリナート皮下注用2000」で治療中の患者向けサポート・プログラムについても社内で準備していることを明かしてくれた。

遺伝性血管性浮腫（HAE）に起因する発作についてモランジュ社長は、「医師の認識と患者さんの実際の経験とにはギャップがある」と指摘。「このアプリで発作の状況をモニタリングしていただく。患者さんは医師と発作の頻度などで、ディスカッションする機会があると思うので、今のギャップが存在している状態が改善されるというふうに思う」と強調した。さらに、「いまは治療薬があるので、患者はマイナーな発作であっても苦しむ必要がないという状況が実現されてきている」と述べながらも、「我々にとっても非常に好ましいことだ」と述べ、ペイシェント・サポート・プログラムの意義を強調した。なお、ベリナート皮下注用のサポートツールについては、「最終のバリデーションの段階ある」と述べ、「まだ正確な時期というものは決定していないが、恐らく23年初めには紹介できると思う」と意欲を示した。

◎オンデリバリー・プロジェクトの進捗　まずは主要な病院から　正しいフローを確認

このほか患者支援の試みとして医薬品を届けるオンデリバリー・プロジェクトの進捗状況にも触れた。2021年3月より関東圏で血友病B治療薬「イデルビオン」の配送をアルフレッサと協働してパイロット運用している。コロナ禍の影響も受けたところだが、モランジュ社長は、「非常に高価な医薬品になるので、宅急便でそのまま送りつけるということができないし、必要なコントロールということが発生しなければいけない製品となる」と指摘。「このため、まず主要な病院から始めさせていただいており、そちらの医療施設の方の薬剤師の先生、治療を担当なさっている先生などと正しいフロー、正しいスキームがどういうものなのかということを十分に確認している」と述べ、新しいスキームが備わっているとの認識を示した。また、同社の他製品についても、「その範囲が拡大しつつある段階」との期待感を表明した。