2024年4月の医師の働き方改革実施まで1年を切った。ミクス編集部は主要製薬企業18社（有効回答16社）に「医師の働き方改革の支援ツール」の導入状況に関するアンケート調査を実施した。最も多かった回答は、「自社医薬品を通じ、患者が安心して治療継続できるデジタルツールの導入」で９社。次いで「自社医薬品を通じ、医師と患者のコミュニケーションを支援するアプリを導入」が８社。「医師を含む医療従事者の業務を支援（サポート）するデジタルツールを導入」が５社と続く。一方、これらツールを導入している製薬企業をみると、１社で複数の支援ツールの開発に着手していることも分かった。逆に、医師の働き方改革に「一切対応していない企業」も複数社あり、デジタル活用における企業間の温度差を垣間見ることができた。

2024年4月に実施する医師の働き方改革は、勤務医の場合、年960時間／月100時間未満（例外あり）が適応される。もちろん、2次救急、3次救急、在宅医療、知事が地域医療の確保のために必要と認めた医療機関（B水準対象医療機関）、さらに大学病院や地域医療支援病院等（連携Ｂ水準対象医療機関）は、年1860時間／月100時間未満（例外あり・いずれも休日労働含む）という時間上限が設けられる。このほかに、臨床研修・専門研修プログラムなどを扱う「集中的技能向上水準」（C-1、C-2）というカテゴリーも設定された。こうした取り組みから、新たに導入される医師の時間外労働規制は、病院内の勤務体制の変更や、医師への教育、さらには医師同士を含む医療従事者間のタスクシェアやタスクシフトが求められることになる。

◎患者の治療継続・満足度向上を促す「ペイシェント・サポート・プログラム（PSP）」

こうした状況は製薬企業の情報提供活動にも影響を与える可能性が高い。コロナ禍が終息するなかで、MRのリアル面談も回帰傾向にあるとは言いながら、大学病院や地域の基幹病院はアポイント制を引き続き敷いており、MRとの面談機会も、コロナ禍同様にハイブリッドが継続している。さらに、ここ数年で上市された革新的新薬の多くが希少疾患、難治がん、中枢神経系などスペシャリティ領域が多く、患者の治療モチベーションや治療満足度の維持向上を目的とした「ペイシェント・サポート・プログラム（PSP）」の導入も注目されている。

今回、ミクス編集部は、主要企業18社に「医師の働き方改革を支援する取り組み」について調査票を配布し、16社（内資先発９社、外資先発５社、後発２社）から回答を得た。調査結果によると、「患者が安心して治療継続できるデジタルツール」の導入を検討している企業は、内資系6社、外資系3社あった。また、「医師と患者のコミュニケーションを支援するアプリ」の導入を検討している企業は、内資系5社、外資系2社、ＧＥ企業1社となった。さらに「医療従事者の業務を支援（サポート）するデジタルツール」の導入は、内資系5社あった。

◎治療継続、患者コミュニケーション、業務支援の全てを満たすツール開発は「内資系5社」のみ

編集部が注目したのは、1社あたりのデジタルツールの開発・導入状況だ。紹介したデジタルツールの全て（3項目）を開発・導入している企業は、5社あり、全て内資系企業だった。上記デジタルツールのうち2項目を開発している企業は、2社でこちらは外資系企業だった。これに対し、デジタルツールの開発・導入を一切行っていない企業も5社あった。

すでに先行企業においてはデジタルツールの開発・導入の目的が、これまでのセールス＆マーケティングを支援する目的から、医師や患者をサポートするデジタル活用に舵を切っていることを明らかにしたものだ。製薬各社がこぞってＭＲ数を削減する中で、製薬企業のマーケットアクセスの方向性が、これまでの医師や医療従事者に加えて、ペイシェント・ジャーニーを意識した“患者フォーカス”のデジタル戦略が着実に拡がりつつある。“患者中心の医療”を実現することが命題の製薬産業にあって、「医師の働き方改革」を契機とした新たなデジタル戦略が求められることになりそうだ。