東京都健康長寿医療センター ワルファリンはDOACsの処方に比べて脳出血入院のリスクが約1.7倍高い
公開日時 2025/12/17 04:51
東京都健康長寿医療センターは12月12日、北海道在住の75歳以上高齢者のレセプト分析からワルファリン処方患者はDOACs(直接経口抗凝固薬)処方患者に比べて脳出血による入院リスクが約1.7倍高いとの研究結果を公表した。同研究は、福祉と生活ケア研究チーム(医療・介護システム研究)と平田匠研究部長のグループが行ったもの。今回の検証結果から、後期高齢者への抗凝固薬治療は、「脳出血に代表される大出血のリスクを考慮し、慎重な薬剤選択を行うとともに、薬剤投与時には定期的にモニタリングを実施すべき」と結論づけた。研究成果は国際科学雑誌「Aging Clinical and Experimental Research」に掲載された。
同研究は、2016年4月~2017年3月の間(ベースライン期間)に医療機関を受診した患者のうち、同期間における死亡者や脳出血による入院者を除いた71万7097人を分析対象者に選定。抗凝固薬の処方と脳出血による入院の関連を調べるにあたり、抗凝固薬の処方の有無で対象者の特性(性別や年齢、併存疾患、健康診断受診の有無など)を均等にする必要があるため、傾向スコアマッチング法を用いて抗凝固薬の処方の有無で特性の近い6万6258組(13万2516名)のレセプト情報を分析した。
◎2年間の追跡調査 抗凝固薬の処方「無し」に比べて「有り」の入院発生リスクは約1.6倍
2年間の追跡期間(2017年4月から2019年3月)において、脳出血による入院の発生率は、抗凝固薬の処方無し患者(252.2/100万人月)より処方有り患者(382.2/100万人月)で高く、処方有り患者では、処方無し患者と比較して脳出血による入院の発生リスクが約1.6倍高いことが分かった(ハザード比1.64、95%信頼区間:1.39-1.93)。
一方、1種類の抗凝固薬を処方された6万1556人のうち、ワルファリンの処方者とDOACsの処方者の特性を均等にするため傾向スコアマッチング法を用いて選定した1万9713組(3万9426名)を分析対象として、脳出血による入院の発生率を比較した。その結果、脳出血による入院の発生率は、DOACsの処方者(293.3/100万人月)よりワルファリンの処方者(382.2/100万人月)で高く、ワルファリンの処方者では脳出血による入院の発生リスクが約1.7倍高いことが示された(ハザード比1.67、95%信頼区間:1.39-2.01)。
◎75歳以上後期高齢者への抗凝固薬投与 慎重な薬剤選択と定期的なモニタリング実施を
現在の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」では、高齢者に対する抗凝固薬(特にワルファリン)の使用は大出血のリスクを高めることが記載されている。研究グループは今回の成果について、「国内の後期高齢者を対象とした大規模データで抗凝固薬の脳出血リスクを初めて示すことができ、その科学的根拠を強めることができた」と強調。抗凝固薬は日常臨床の現場でも多く用いられる薬剤として、「特に75歳以上の後期高齢者に抗凝固薬による治療を行う際には、脳出血に代表される大出血のリスクを考慮し、慎重な薬剤選択を行うとともに、薬剤投与時には定期的にモニタリングを実施することが必要であると考えられる」とコメントしている。