軽症～中等症の心不全患者に対し、埋め込み型除細動器（ICD）に加え、心臓再同期療法（CRT）を行うことで、ICD単独治療に比べ、総死亡＋心不全による入院の発生率を有意に25％抑制することが分かった。「RAFT(Resynchronization/defibrillation for Ambulatory Heart Failure Trial)」試験の結果から分かった。米国イリノイ州シカゴで開催されている米国心臓協会（AHA）2010年学術集会の「Late-Breaking Clinical Trials」セッションで、カナダのUniversity of Ottawa Heart Inst.のAnthony S.L.Tang氏が11月14日報告した。

試験は、軽症～中等度の症候性で、心電図でのQRS幅が広い心不全患者を対象に、ICDにCRTを加えることで、総死亡や心不全による入院を減少することができるか検討することを目的に実施された。

対象は、①NYHA心機能分類でⅡ度またはⅢ度②心電図のQRS幅≧120ms　またはペースメーカー調律時のQRS幅≧200ms③ランダム化から６カ月以内に、心プールシンチグラフィ（MUGA）により算出した左室駆出率（LVEF）≦30％、またはLVEF≦30％、左室拡張末期径（LVEDD）＞60mm④ICDの適応が１°または２°⑤最適な心不全の薬物療法⑥正常洞調律または永続性の慢性心房細動または心房粗動患者で、安静時の心拍数≦60bpmで、６分間の歩行テスト後の心拍数が90bpm以下、または房室結合部のアブレーションを考慮している―とした。

カナダを中心に欧州、オーストラリアなど34施設から1798人を登録。①ICDにCRTを加えた治療群（以下、ICD＋CRT）894人②ICT単独治療群904人―の２群に分け、治療効果を比較した。主要評価項目は総死亡+心不全による入院の複合エンドポイント。

平均40カ月間追跡した結果、主要評価項目の発生率は、ICD単独群では40.3％（364例）に対し、ICD＋CRT群では33.2％（297例）で、有意にICD＋CRT群で抑制する結果となった（ハザード比：0.75、95％CI：0.64～0.87、P値＝0.0002）。総死亡は、ICD単独群で236例、ICD＋CRT群では186例で、有意にICD＋CRT群で抑制した（ハザード比：0.75、95％CI：0.62～0.91、P値＝0.003）。

Tang氏は、NYHA分類Ⅱ度とⅢ度に分け、治療効果を比較したデータも提示。いずれも有意差をもってICD＋CRT群が良好な成績となったが、「NYHAⅢ度の方がより有意差が少なかった」ことも紹介した。

これらの結果から、Tang氏は、「５年間14人を治療すれば、１人の死亡を減らすことができる。５年間11人を治療することで、１人の心不全による入院を防ぐことができる」と述べ、CRT治療の有効性を強調した。

◎Yancy氏　　CRT適応の最適症例が今後の課題に

Discusstantで登壇したBaylor Heart and Vascular InstituteのMedical Director（Baylor University Medical Center）のClyde W.Yancy氏は、これまでの「COMPANION」「CARE-HF」「MADIT CRT」「REVERSE」などの大規模臨床試験結果から心不全へのCRTの有効性を強調し、「臨床ガイドラインの改訂が待ち望まれる」とコメントした。

一方で、これまでの臨床試験では、対象症例のQRS幅や主要評価項目が異なると指摘。また、何をもって“軽症”と判断するか、またQRS幅やQRS延長のパターンなどを含め、CRTの治療効果が得られる患者を適切に判断することが難しいとの見方を示した。なお、同試験の結果は同日付の「The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE」に掲載された。