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アルム社の戦略 医療とモバイルが医療産業を変える 初の保険適用ソフトJoinでイノベーション

公開日時 2016/02/29 00:00

マルチチャネル3.0研究所
主宰 佐藤 正晃

 

佐藤 正晃 氏
MC3.0研究所
主宰
坂野 哲平 氏
株式会社アルム
代表取締役社長

 

 

1月末の新聞記事でご存知の方も多いのではないか。株式会社アルムが開発した医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」(図1)を用いた画像情報や診療情報の共有化が2016年4月から保険適応される。医師同士がスマートフォンで患者の診断を行うソフトはこれまでの救急の患者の診断プロセスを大きく改善するものである。スマートフォンでの診断が保険適用になるとは隔世の感があるのは否めないが、これも現実に起こっている医療の変革なのである。今回はこのソフトを開発したアルムの代表取締役社長 坂野哲平氏をインタービューした。

 

 

グローバルでヘルスケア・イノベーションを進めるアルムとは

 

佐藤 会社の紹介をお願いします。

 

坂野 学生時代に医療システムの開発のバイトを行っていた関係もあり、大学卒業後ベンチャー企業を設立した。設立しては経営的に苦しい時代を経験したが医療システムの開発に加えて、映像配信のプラットフォームシステムとして日本の最王手まで登り詰めた。一方で医療業界を変えたいと言う気持ちが強くリソースを全て医療システム開発にシフトする事に決めた。現在のソリューションの軸としては医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」(汎用画像診断装置ワークステーション用プログラム)、地域包括ケアーソリューション「Team」、救急対応型個人健康記録スマートフォンアプリ「MySOS」の3つを軸としている。厚生労働省や経済産業省が主導する医療ICTプロジェクトの活動をベースに医療ソリューションの技術者を増やしており、現在では100人強のメンバーで医療特化ソリューションを展開している。

 

佐藤 海外展開も積極的に行っていますが、その辺りのどの様にお考えですか?

 

坂野 支社はアメリカ、ドイツ、ブラジル、チリ、ドイツ、韓国、台湾に持っています。医療のイノベーションは世界共通のテーマであるので、日本の中だけでイノベーションを議論する事は不可能です。私自身も世界各国に病院の医師とディスカッションをすることでいい刺激になる。Joinに関しては米国FDAでは承認され欧州CEでも登録済みだ。日本では現在約60施設に導入されている。有名どころでは東京慈恵会医科大学、名古屋大学、徳島大学、虎ノ門病院、済生会中央病院、日本赤十字医療センターに導入されている。

 

 

Join開発の背景

 

佐藤 なるほど。モバイルと正に医療で世界の医療を変えようとしている活動を着実に進めていますね。主力製品であるJoinの開発の背景や保険適応に向けたご苦労などを教えてください。

 

坂野 慈恵医大の脳神経外科の先生方との間で急性期医療を変えるためには「クラウド、スマートフォン、コスト低減、使いやすさ等抜本的な要素技術の変更と使いやすさを追及すべき」という議論を行ってきた。そしてJoinが完成された。ちょうどこのタイミングで厚生労働省は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(2014年11月)を施行させた。我々は、この流れから医療ソフトが独立した産業になると考え、直ぐに医療機器製造販売業を取得した。医療機器製販業になったのだから、それならばJoinを保険適応に向けて頑張ってみようという気持ちが沸き起こった。

 

佐藤 非常に素早い判断力ですね、しかしこれまで医療ソフトでの保険適用の例は日本では存在していませんね?かなり、苦労しそうに思いますが。

 

坂野 はい。関係者に支援していただいた事が最大の原因である。恐らく、アルム社1社だけでは申請の受理もされなかったと思う。数多くの医師の方や政府の方から支援して頂いたことが大きく、厚生労働省、医師会、学会の先生方に説明した際も、「これからの医療はこうあるべきだよね」と支援してくれた。本当に皆さんに感謝している。加えてJoinを臨床の現場と一体になって開発したのが大きいと思う。慈恵医大の先生と何度も議論を重ね戦略的というよりは現場のニーズベースにシステム作り上げたのが良かったのだと思う。特に医療現場の負荷の軽減というところでかなり評価されており、例えばJoinを使う事で脳卒中ケアユニット入院医療管理料に関わる項目では、専門医の脳神経外科の経験年数も現在の5年から3年になる見通しである。
また、導入効果に関しては脳梗塞及び脳出血手術症例をとると診断まで平均時間短縮、在院日数削減といずれも効果が見られた。

 

 

地位包括ケアに対する
急性期ネットワークの重要性

 

佐藤 地域包括ケアにおいてはどの様な考えてをもっていますか?

 

坂野 弊社が持っているTeamは、患者・家族・行政・介護・医療機関・医療従事者が一体のチームとなり、各ステークホルダーの負担を軽減させ、継続的に地域社会全体の利益実現を行う地域介護・医療連携向けるソリューションを構築している。実際に介護と医療連携などは非常に大きなテーマであり医療ICTを活用して解決すべき内容だと考えている。新潟県長岡市の「行政×医師会モデル事業」で街全体の地域包括ケアの基盤ソリューションとして使われている。一方で地域包括ケアの一番の大事なポイントは急性時の患者への対応という観点があまり議論されていないと考えている。患者、家族は万が一の時対応は解決すべき一番の課題であるのは言うまでもないのだが、実際に医療機関で急性期医療ネットワークというものは殆ど議論されていなかった。

 

佐藤 なるほどそこでJoinの活用ですね

 

坂野 そうです。Joinは急性期の医療の仕組みを抜本的に変えるモデルです(図2)。専門医が近くにいなくてもモバイルの画面で患者の状態を診ることが出来ます。CTやMRIの画像共通以外にも院内環境のリアルタイム配信が実現されていてICU/OR設置カメラやモニターからリアルタイム映像配信機能もある。Joinを使った急性期病院向けのフローとしては救急搬→急患情報の入力→急患情報の登録/更新→チーム内の一斉通達そこからリアルタイムに更新されて、担当医を中心として救急対応チームによるチャット、医療画像、医療データの共有が行われ救急車の到着の予測情報が届く。この一連の流れをスマートフォンが中心となるモバイル端末で実践する。

 

佐藤 しかしそこまでの機能があると、医師の勤務体系も変わってくることが想定されますね。

 

坂野 特に中山間地区では専門医の確保が急務です。実際に確保されたとしても激務でくたくたになってします医師も多いです。Joinの良いところは治療に貢献できるのは当然ですが、医療従事者の勤務時間の改善にも役立つのです。

 

 

地域包括ケアと
製薬企業に関して

 

佐藤 これまで医療側のソリューションを提供しているが、製薬企業との連携というのはあるのだろうか?

 

坂野 弊社の関連企業が製薬企業向けのWeb講演会のシステムの展開を行っているのでこれまで製薬企業との連携は少なからずあった。しかし、Joinの様な診断システムの領域の話になるとなぜか、製薬企業の方と会う機会が極端に減ってきたと感じている。病院のシステムを導入するたびに打合せで医局の前にいるMRの方など色々話をしたいと思っている、特に地域包括ケアの中では様々なステークホルダーとの調整や連携業務が必要になってくるために、専門性を追求する医療従事者では対応できないことも数多くあるという話をよく聞く。MRの方は医療の知識に加えてコミュニケーション力も高いので地域包括ケアのハブになるような仕事は非常に向いているのではないかと思う。実際弊社にもMRを経験している社員がいるが、医療関係者との連携はいるまでもなく優れていると実感している。

 

佐藤 なるほど、MRの活動と地域包括ケアの中心になる可能性があるという事ですね。

 

坂野 はい、やはり全国をカバーしているMRは地域毎の医療施策の特性をよく理解していると思います。だだ、よく感じることは自社の薬のプロモーションのみに時間を費やすあまり、元々有している知識を活用する場面がないと思います。やはり、企業として地域特性を加味した形での活動を推進すべきであると思います。

 

 

Joinと製薬企業との
コラボレーションは可能か

 

佐藤 ところで、Joinを開発する際に製薬企業とのディスカッション等は行いましたか?

 

坂野 実はほとんど行っていない。ただ、数社にデモを見せた時にはビジネス上のシナジーに関してはあまりピンと来てない感じがした。よく誤解されているのがJoinは電子カルテの様な診断した結果の医療情報を入力するツールではなくて、これからどのような処置を行ったら良いかを決定する診断ソフトです、ですので薬を処方するタイミングとしては一番ライトなタイミングで使われるソフトです、例えば適用が時間で制限されている血栓溶解薬等の場合、処置が始まってからの時間をシステム上で自動記録しているので、適正使用をソフト上で明示化できる。実際には製薬企業とのディスカッションに関してはこれから実施したいと考えているので、前述の地域包括ケアのシステムも含めて、製薬企業の方と新しい取り組みを起こせるのではないかと考えている。

 

佐藤 スマホアプリに保険収載適応される現在、今後ますます医療ICTが診療現場に占める割合はますます増えるのは疑う余地がない。自ら動いて保険適用まで突き進む坂野氏の情熱はこれからの医療を変える道筋をつけるベクトルに向かっていると強く感じた、今日本で一番話題の医療ICT企業で大変多忙にもかかわらず御時間いただき誠にありがとうございました。

 


マルチチャネル3.0研究所とは:(MC3.0研究所)
「地域医療における製薬会社の役割の定義と活動スタイルを定義することを目的にして、製薬企業の新たなる事業モデルを構築し地域社会並びに患者や医師をはじめとする医療関係者へのタッチポイント増大に向けたMRを中心とするマルチチャネル活用の検討と実践を行う研究機関」である。設立2015年4月主宰 佐藤正晃(一般社団法人医療産業イノベーション機構 主任研究員)

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