AZ労組 従業員過半数加入を目指す 早期退職制度「万策尽きた中でその選択肢も模索」
公開日時 2018/06/25 03:51
アストラゼネカの労使紛争の和解成立後、初となるアストラゼネカユニオンの定期大会が6月23日、東京都内で開かれ、同ユニオンは「アストラゼネカ従業員労働組合」(以下、AZ労組)に改名するとともに、人事評価システムやワークライフバランスなど全従業員に関係する問題に取り組むことを決めた。これまでは個別に不利益を受けた社員や元社員の集合体との色彩が濃かった。和解にあたり会社と労働協約を締結し、組合員の労働条件に関する交渉団体と認められたことから、幅広く全従業員に関わるテーマにも取り組む労組に転換する。
AZ労組は従業員の過半数以上が加入する労組を目指す。現在の組合員数は約70人。
係争していたのは、▽ベテランMRが不当解雇されたとする事案(東京地裁でMR側が勝訴、今年2月の東京高裁での控訴審で和解勧告)▽ベテランMR3人が“追い出し部屋”に配置転換され、不当に降格・減給されたとする事案(17年5月に東京地裁に地位確認などを求め提訴)▽現役MR8人が不当な降格・減給を受けたとして集団提訴した事案(17年7月に東京地裁に地位確認などを求め提訴)▽東京都労働委員会への救済命令申立てに関する事案――の4件。これらを包括的に解決する和解が5月25日付で成立した。解雇は撤回され、元の等級に戻るなどした(和解成立の記事は、こちら)。
■マタハラ問題 交渉事項として労使確認 団交で解決へ
AZ労組は大会後に記者会見した。労組側代理人の棗一郎弁護士(旬報法律事務所)やAZ労組の上部団体の東京管理職ユニオンの鈴木剛執行委員長は、マタニティハラスメントが疑われる事案など約20件が今後の交渉事項として労使双方で確認されていることを明らかにした。
マタハラを訴えている社員は2人。産休を取得した女性従業員が、「休んでいる期間中の評価ができない」との理由で降格されたという。鈴木執行委員長は団体交渉を通じて解決していくと強調した。
18年度薬価制度抜本改革などを背景に、内資系、外資系を問わず、製薬各社で早期退職者の募集が相次いでいる。鈴木執行委員長は早期退職者募集制度に対するAZ労組のスタンスについて、「労組のイシューは雇用を守る、労働条件の向上、職場環境の改善が第一」とした上で、「団体交渉の中で、これまでブラックボックスだった会社のルールや財務状況の実状がデータとして出てくる。経営努力などいろいろな観点からデータを分析し、万策尽きた中で、そういった選択肢も模索することになると思う」と述べた。仮に同制度の提案が会社側からあった場合も門前払いではなく、話し合う姿勢を示した格好だ。
■「より良い会社を作っていきたい」
棗弁護士は会見で、和解協議の開始は会社主導だったと振り返った。その背景について、▽ベテランMRの不当解雇事案で解雇無効との一審判決が出て、控訴審の中で一審支持の方向が出たこと▽会社側が一審判決後に人事労務問題に強い第一芙蓉法律事務所を追加し、主任弁護人を同事務所の木下潮音氏にし、木下弁護士が会社側を和解の方向に説得したのではないか――と推測を含め解説。想定よりも早く、前向きな労使関係を作る動きになったと述懐した。
会見には今回提訴した社員らも出席した。不当解雇されたと訴えた山口浩治さんは、「今日は社章をつけて来た。社員として復職した。私の名誉は皆さんによって回復し、給与も入り、生活の計画が立てられるようになり、嬉しい限り」と心境を語った。一審判決では営業活動の虚偽報告など一部が認定されたこともあり、「反省を、今後の人生にいかしたい」とも話した。
不当降格・減給され、追出し部屋に配置転換されたと訴えた山梨理さんは、「なぜPIP(=成績下位者に適用される業務改善計画)の対象になり、なぜPIPに合格できなかったのかはっきりしない」と改めて指摘し、「裁判を起こしたのも、後輩が同じような目に合わないため」と振り返った。労働協約を締結したことに触れながら、「(労使双方で)より良い会社を作っていくということになり、是非そういう形にしたい」と語った。
不当降格・減給されたと訴えた現役MRの榎並俊行さんは、「まさか自分の人生で裁判沙汰になるとは思っていなかった。おかしいことはおかしいと主張し、弁護団やユニオンの支援をいただいて戦って良かったと思っている」と話した。そして、「今回の勝利和解を区切りにし、本当に働きやすい職場を目指して、組合のみんなと力を合わせて頑張っていきたい」と前を向いた。
■会社側代理人「相互に互譲の精神に則り、この度の事件解決に至ったことに敬意」
会社側代理人の木下弁護士ら会社側弁護団は会見後のレセプションにメッセージを寄せ、「アストラゼネカ事件・解決報告レセプションの開催にあたり、一言申し上げる。貴組合と会社が相互に互譲の精神に則り、この度の事件解決に至ったことに改めて敬意を表する」との内容だった。