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営業本部進化論 アウトカム評価をMRの売上目標に 実診療ベースでKPI設定

公開日時 2019/01/07 03:52

2019年の製薬業界は、10月に消費増税改定を控え、その半年後の2020年4月には薬価・診療報酬改定を迎える。このための議論が年初からスタートするため、1年間を通じて薬価制度を含む改革論議が熱を帯びることは必至だ。高齢化の進展や地方都市における人口減少など、社会システムの根幹に関わる諸課題が一気に火を噴くことも予想される。高騰する医療費を適正化する目的で再び薬剤費にメスが入る可能性は拭いきれない。むしろ環境変化に応じた産業構造に舵を切るべきとの声が製薬企業や医薬品卸の経営者から聞かれ始めた。その中にあって、もっとも旧態依然と揶揄されるのが営業組織だ。これまではコスト削減とリソースの見直しばかりフォーカスされてきたが、これからは実の取れる組織への再編が不可欠だ。「営業本部進化論」と銘打ちながら、時代の変化を見通せる営業本部の進化系組織についてご提案したい。(Monthlyミクス編集長 沼田佳之)


◎改革のスピードに周回遅れの製薬産業


国内の医療用医薬品市場はここ数年で大きく変化した。内資大手製薬企業の経営者は揃って社会環境の変化を口にし、製薬ビジネスそのものの産業構造転換に取り組む姿勢を鮮明にしている。ところが、社内組織や人財開発など、足元の改革にはなかなか及ばず、政府の医療制度改革のスピードにやや遅れだしている感は否めない。


深刻なのは営業組織とMRの問題だ。特に、生活習慣病薬を軸に開発された現在の医薬品マーケティングモデルは、厚労省が描く地域医療のスタイルに合致しない。そればかりか、ギャップを拡げているようにも見える。顧客管理やMRの行動管理に多額の資金を投じて様々な顧客管理システムを導入してきたが、その償還前にマーケットが変化し、それに追いつけていない。その際たるものが多職種連携やオンライン診療への対応だ。政府が強力に推し進める医療施策の方向は、一言でいってネットワーク医療の実現にある。2020年4月に予定される診療報酬改定もさることながら、1月に召集される通常国会に厚労省は薬剤使用面での薬剤師の職能に関する薬機法改正案を提出する。これにより地域の中で薬剤師をハブに、地域医療や在宅介護との連携を促進させる考えだ。


もちろん前回18年度改定で導入されたオンライン診療の点数も見直されるだろうし、規制改革推進会議で議論が進むオンライン服薬指導も導入されることになれば、一気に診療情報をエリア内の医療者、介護者が共有できる地域医療連携ネットワークが構築される。こうしたスケール感を製薬企業はいち早く受け止め、それに対応できる組織や人財を構築しなければならない。営業本部の改革は不可欠であり、そこに舵を切る勇気が求められる段階に入った。


◎MRのKPI設定について提案


営業本部の組織・人財、さらにはMRを含む活動目標(KPI)の設定について提案したい。各社ともエリア戦略を意識した対応に舵を切った。ただ、各社の戦略を取材すると、エリア専任者としてキーアカウントマネージャー(KAM)を配置したものの、その機能や役割が定まらないために、真の意味でのエリア戦略に至っていない。私は各社の取材を通じ、共通の課題は、目標設定にあると感じた。KAMを配置することで「売上は上がるのか」という問いに誰も答えられないでいた。よって解決策を見い出せないまま、本社が導入したCRMが発するリコメント機能によってMRの日々の訪問先が決まり、その指示に従って訪問計画通りの活動をこなすことに終始する。もちろんMRの生産性が向上するわけでもない。厳しい見方になるが、生活習慣病薬モデルで構築されたCRMが、政府の方針で多職種連携に舵を切った地域医療を補完する能力は期待できそうにない。結果、「売り上げは上がるのか」の呪縛から逃れられないまま、結論を先送りにして今日に至っているのではないだろうか。


◎営業本部の組織改革プラン


そこで発想の転換をしてみては如何だろうか。以下に記載したダウンロードファイルはミクス編集部が考える営業本部の組織改革プランだ。支店長を中心とした組織体系は従来型を踏襲するが、MRについては、スペシャリティ、プライマリケア、地域・多職種連携、デジタル戦略の4系統に振り分け、1つのチームに編成する。当初は一人のMRがすべてを兼ねることが望ましいと考えられる時代もあったが、これだけ変化のスピードが速くなると、現場ニーズへの即応が難しくなる。


次の課題は、ミッションを成功させる目標設定・目標管理にある。営業本部として「売上」はKPIから外せないという声を大勢の営業本部長から聞いた。そこで、ここの部分を最大限考慮するとして、従来の売上目標(卸から医療機関に入る販売実績)に加えて、実際の処方数や処方継続期間、その際の安全対策の取り組みを全て数値化し、新たな「売上目標」としてみては如何だろうか。


いわゆるリアルワールドデータ(RWD)の活用である。「時期尚早!」と声をあげる読者も大勢いるかと思うが、まずは考えて欲しい。政府の想定する地域包括ケアのゴールは、アウトカム評価の導入にある。よって、自院での治療成績や予後の経過、さらには重症化予防の成果などを数値化し、診療報酬で評価することを想定している。すでに18年4月の改定でも入院医療にはアウトカム評価が導入されている。この流れをさらに拡大するということは、医師など医療者が、地域の診療情報と自分の診療実績をベンチマークできる時代が早晩くることを予感させている。であるならば、MRが提供する情報をもとに、医師が当該薬剤を処方したならば、症例数や治療経過などのアウトカムデータとしてMRと共有できる時代が到来することを意味している。


すなわち、MR自身が医師や医療者と一緒に治療実績を共有し、問題や課題について情報を通じて解決しあうパートナーとしての地位を確立できるという訳だ。過去に、真の薬物治療パートナーという言葉があったが、まさにこれをMRのKPIに設定し、さらに営業本部や支店、営業所で共有し、最終的にチームの総合評価とするならば、胸を張って「売上目標」を達成することができたと言えることになるのではないだろうか。


営業本部内でこの軸が定まれば、この目標の達成をサポートする「エリア担当KAM」や「特約店・流通政策担当者」の役割が明確化され、より地域医療に貢献できる営業本部に生まれ変われることが出来る。このまま立ち止まっているばかりでは、なにも改善されないばかりか、医療者や医療現場との意識のギャップが広がるばかりだ。実際にアウトカム評価をMRの評価目標に設定するまでには、若干の時間を要するだろうが、ここはチャレンジする価値は大いにあるのではないか。その一歩を踏み出すのが、この2019年だ。「本当に売上があがるのか」との上司の問に、「時代は実診療実績(RWD)の時代です。私におまかせて下さい!」と胸を張って応える自身と勇気を持って欲しい。

 

 
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