膵がんに新治療 医療機器ネスキープと粒子線治療組み合わせ 「根治法ない疾患に挑戦」
公開日時 2020/01/27 04:50
代表的な難治がんである膵がんで、新たな治療が提供できるようになりそうだ。アルフレッサファーマと神戸大学医学部との産学連携で開発され、19年12月に保険適用された放射線治療用吸収性組織スペーサ「ネスキープ」と粒子線治療を組み合わせて、膵体尾部の切除不能・局所進行膵がんについて、近接する正常臓器を傷つけることなく治療するというものだ。ネスキープの開発者のひとりの神戸大医学部付属病院放射線腫瘍科の佐々木良平教授と同病院肝胆膵外科の福本巧教授が1月24日、都内で開かれたプレスセミナー(アルフレッサファーマ主催)で明らかにした。
佐々木教授によると、切除不能な膵がんで粒子線治療が即開始できる症例は10%以下で、多くの症例で事実上、治療法がなくなる。悪性腫瘍が消化管など耐用線量の低い臓器と近接している場合、粒子線が近接臓器に悪影響を及ぼすため、十分な線量を放射できなかったり、粒子線治療そのものができないためだ。
粒子線治療における近接臓器への悪影響の課題を克服するため、スペーサであるネスキープを開発。悪性腫瘍と正常臓器との間にネスキープを外科的に留置し、間隙を確保することで、粒子線治療を可能にする。ネスキープは数か月で、体内で有害物質を出さずに加水分解されるため、取り出すための再手術の必要もない。
■切除不能かつ粒子線治療不可の膵がんの4割が治療対象
佐々木教授は、「正確な統計データではなく、いろいろなエキスパートオピニオンとの話を総合したもの」と前置きした上で、「(切除不能膵がんで粒子線治療ができない)残り9割の患者のうち推定40%の患者に、ネスキープを用いることで根治的な粒子線治療ができるとエキスパートオピニオンからうかがっている」と話した。40%に入る症例が気になるところだが、この点について佐々木教授は、肝転移のある膵がんは「適応にならないと思われる」との認識を示すとともに、「切除不能・局所進行膵がん」には適応できるとの見方を示した。
膵がんは大きく膵頭部がんと膵体尾部がんに分かれる。福本教授は、膵頭部は十二指腸と近接し、膵臓と十二指腸は分けられないのでネスキープを留置できないとした上で、「膵体尾部がんは適応になると思う。膵体尾部がんで遠隔転移がない場合は、ほぼネスキープで(悪性腫瘍を)囲めるのではないか」と述べ、ネスキープと粒子線治療の組み合わせで治療を提供できるとの考えを示した。
■全国8施設でネスキープ使用 「特段の問題は起きていない」
ネスキープは19年6月に発売され、12月に保険適用された(
記事はこちら)。福本教授は、ネスキープはこの1か月余りで、全国8施設で16例に使用されたと紹介した。神戸大学病院が7例と最も多い。疾患は術腹膜肉腫、肝細胞がん、左骨盤腫瘍、骨軟部腫瘍、仙骨脊索腫、空腸がん再発、膵がん、肉腫(小児)、子宮頸がん後腹膜再発、Vater乳頭がん再発――など多岐にわたる。福本教授は、「今のところ思ったよりも安全に使用できている。特段の問題は起きていない」と、懸念していた重篤な感染症などの副作用は起きていないと説明した。
佐々木教授は、ネスキープと粒子線治療を組み合わせることで、「線量増加によって治癒率の向上を目指す」と語るとともに、「既存の方法では根治治療法がない疾患に挑戦し、新たな治療法を提案したい」と強調した。
がんの3大治療法は外科手術、放射線治療、化学療法――となる。粒子線治療は放射線治療の一種で、がん病巣をピンポイントに狙い撃ちでき、従来の放射線治療に比べ、正常組織へのダメージを低く抑えられる特長がある。粒子線治療は20年1月現在、全国23施設で受けられ、日本は世界をリードしている。今回、粒子線治療の可能性を広げる国産医療機器ネスキープが産学連携で開発された。佐々木教授は、医療機器の輸入超過問題に触れながら、ネスキープの海外展開により、「輸入超過の是正も目指したい」と語った。