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【FOCUS 21年度薬価改定は如何に決まったか(上)】 新型コロナで事実上の診療報酬改定を断行

公開日時 2020/12/21 04:52
2021年度薬価改定は、平均乖離率5%以上の品目を対象とすることで決着した。実は私が注目したのは薬価改定と同時に、感染予防策を講じた医療機関に対し、初・再診に5点(医科)上乗せすることが21年度の予算編成に向けた大臣折衝で決まったことだ。この上乗せは、実質的にほぼすべての医療機関・薬局で算定できることから、新型コロナ禍の特例としながらも、初・再診などの点数引上げを政治判断した結果と言える。2021年度は本来、診療報酬改定のない年だ。ただ、新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、医療機関だけでなく、国民からも医療従事者への支援を求める声が相次ぎ、医療界に大きな追い風が吹いた。結果的には、薬価の引下げ財源を診療報酬本体に充填するという、事実上の診療報酬改定が断行された、“特例的”な年となった。(望月英梨)

「新型コロナウイルス感染症を踏まえた診療にかかわる特例的な対応案について了承されたことを受け、今回はこれ以上何も言わずに了承する」―。診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は12月18日の中医協総会で、こう述べた。前日17日の大臣折衝で対象範囲は決まってはいたものの、“乖離率が2倍以上(16%以上)”など強固に主張していた日本医師会がその姿勢を崩した瞬間だった。

中医協総会の直前に開かれた薬価専門部会でも松本委員は、ほぼ全面改定が断行されることについて、「医療従事者として誠に遺憾」と表明。「国民負担の軽減という視点はまさに理解できるが、いま最優先すべきは新型コロナウイルス感染症対策に直接対峙している医療機関や、それを面で支える地域医療提供体制全体の支援だ」と続けた。松本委員が口にした地域で面を支える医療機関への支援が、冒頭の感染予防策を講じた一般診療への特例措置だ。これが了承されるまでの間、松本委員は態度を「保留」した。このことからも、薬価改定の議論は、今回の診療報酬点数の上乗せと半ばセットであったことをうかがえる。

◎6歳未満乳幼児の初再診 第3次補正予算案決定も「まだ十分とは言えない」

この日了承された特例措置は、21年4月から9月までの時限的措置ながら、必要な個人防護の着用や職員研修など感染予防策を講じることで、初・再診(医科・歯科)5点、入院10点(1日当たり)、調剤4点、訪問看護50円を算定できるというものだ。

12月14日に持ち回りで開かれた中医協総会でも、新型コロナ等の感染対策を講じた上で6歳未満の乳幼児に外来診療を行った場合、初再診にかかわらず、医科で100点、歯科で55点、調剤で12点に相当する点数を特例的に算定できることが決まっていた。これにより、6歳未満の小児を診察するケースの多い小児科や耳鼻科などは福音となることが期待されるが、松本委員は「限定されたものであり、十分とは言えない」と訴えていた。

新型コロナは飲食店の休業要請や旅行業に代表されるように、全産業に大打撃を与えた。こうしたなかで、国民負担の軽減は国にとっても避けて通れない至上命題と言える。ただ、診療報酬を引き上げても、国見負担を軽減する方法がある。それが診療報酬の引上げとセットで薬価を引き下げることだ。これが意味するのが、2016年末に4大臣合意された「薬価制度抜本改革に向けた基本方針」に明記された、“国民負担の軽減”と“医療の質向上”の両立に他ならない。

この日の中医協総会で、診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)が、「今回の診療報酬の議論は、薬価の切り下げの議論とセットになっている。薬価が大きく下がるので、患者の負担は減る。財源的にはそうなる」と述べたことにも、その考えの一端が読み取れる。

◎日医・中川会長 就任直後の7月に布石 物語はスタートする

布石は、薬価調査の議論を開始した今春から打たれていた。新型コロナの感染拡大が続くなかで、国もコロナと闘う医療従事者への支援を重視してきた。2020年度第1次・第2次補正予算で、新型コロナ患者を受け入れる医療機関に対して重点的に予算配分してきた。ただ4月以降、患者の受診抑制が続くなかで、新型コロナ患者の受け入れの如何によらず、医療機関経営に大打撃を与えた。小児科や耳鼻科の影響は特に大きい。病院経営者からは、「人件費などで持ち出しが多く、小児科は赤字だ」と悲痛な声が漏れる。

こうしたなかで、日本医師会は一貫して、“ノンコロナ”の医療機関も含めた支援を訴えてきた。しかし、コロナ禍で歳出が膨らむなかにあって、財政当局はなかなか首をタテに振らなかった。むしろ、「不必要な受診が抑制され、医療費の適正化につながる」との見方も少なくなく、調整は困難を極めていた。

日本医師会の中川俊男会長は会長就任直後の7月、加藤勝信厚労相(当時、現・官房長官)と面談し、医療機関の窮状を訴えた。その後の記者団との取材で、中川会長はこう語っている。「ただ、診療報酬を上げればいいというのではなく、患者負担が増えるので、そうではなく色々なやり方があるだろう。患者負担を増やさずに医療機関の経営が改善する方法は何か詰めていきたい」―。この時期は、薬価調査の実施が議論となり、経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針2020)が決定された時期とも一致する。

医療関係団体では当初から、政府の決定事項だけに、薬価改定の実施を避けるのは難しいとの声が大勢を占めていた。特に、10月に菅義偉首相が就任し、毎年薬価改定に並々ならぬ意欲を示すなかで、実施路線はより強固になっていった。こうしたなかで、あえて強固に薬価改定反対との姿勢を貫くことで、政府に揺さぶりをかけ続け、水面下でストーリーが進んでいった。

◎ブルーインパルスの飛行機雲 国民は医療関係者の味方となった

医療機関経営の根幹を支えるのは、言うまでもなく初・再診料をはじめとした基本診療料だ。日本医師会は、薬剤費の引下げ財源は基本診療料に充填することを求めるが、通常改定でも難しさをはらむ。本来、改定年でもない年に、通常の診療報酬点数に上乗せできる点数を勝ち取ったのは、まさに異例のことだ。

こうした決定を後押しした最大の理由は、新型コロナの不安が影を落とすなかで、医療の充実や医療者支援を切実に望む国民の声だろう。晴天となった5月29日の東京上空には航空自衛隊のブルーインパルスが医療関係者への感謝を込めて飛行機雲を描いた。花火の打ち上げやブルーライトなどで、新型コロナに対峙する医療従事者に感謝の念を表すイベントの実施も後を絶たない。日本医師会の政治力の強さはよく語れるところだが、こうした国民の声が政治を動かしたことを忘れてはならない。中医協総会で支払側委員が点数の引上げに肯定的な姿勢を示したのも、こうした国民の声を代表したものと言える。(続)
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