日医と6病院団体が声明 26年度診療報酬改定「物価・賃金上昇対応の仕組みを」地域医療崩壊に危機感
公開日時 2025/03/13 04:52

日本医師会と6病院団体は3月12日、合同声明を公表し、医療機関経営が厳しさを増すなかで、2026年度診療報酬改定に向けて「物価・賃金の上昇に適切に対応する新たな仕組み」の導入を訴えた。その実現に向けて、財政フレームを見直し、社会保障予算の目安対応を廃止することも求めた。同日開いた合同会見では、24年度診療報酬改定後も医療機関経営が悪化しているとの調査結果を示し、「地域医療は崩壊寸前だ。このままではある日突然、病院がなくなる」と危機感を露わにした。日本医師会の松本吉郎会長は、「国民の命と健康を守っている病院、診療所がなくなっていっている地域もある。本当に待ったなしの状況だ。いまここで我々が声をあげる必要がある」と力を込め、医療界が一致団結して訴えていく姿勢を強調した。
◎医業利益の赤字病院は69%、経常利益の赤字病院は61% 破綻懸念先は半数超
24年度診療報酬改定後の病院経営の状況について、6病院団体(日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会)の会員を対象に実施した緊急調査の結果を紹介した。1816病院から得た回答によると、病床利用率は上昇傾向にあるものの、医業利益率、経常利益率はともにマイナスで、23年度よりも悪化する傾向が認められた。24年度診療報酬改定後、医業利益の赤字病院は69%、経常利益の赤字病院は61%まで増加していた。23年度WAM(福祉医療機構)データの債務償還年数の分析では、破綻懸念先と判断される30年を超える病院が半数超あった。
結果を説明した日本医療法人協会の太田圭洋副会長は、「病床利用率が90%を超えないと採算分岐点を超えられない。現実的には満床に近い状況だ。そこまで病床を埋めない限り病院の経営が成り立たない状況にまで悪化している。本当に異常な事態だろう」と強調した。
◎「高齢化の伸びの範囲内に抑制」社会保障予算の目安対応廃止を訴え
この結果を踏まえ、日医と6病院団体は、診療報酬は公定価格で物価・賃金の上昇を価格転嫁できないことから、物価・賃金の上昇に適切に対応する新たな仕組みの導入を求めた。その実現に向けて、社会保障関係費の伸びを「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という現在の財政フレームを見直し、目安対応を廃止することを訴えた。
◎賃金は人事院勧告や他産業の賃上げ、春闘 物価は消費者物価指数の活用も

“診療報酬等について、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入”について日医の松本会長は、「賃金については例えば人事院勧告や他産業の賃上げの状況、さらには春闘の結果などを参考にして対応する仕組みを考えられたらいいのではないか。物価については、光熱費、賃借料、あるいは医療材料費などがあるが、消費者物価指数などを参考にして対応する仕組みが考えられると思っている。内容についてはこれからの議論だと思う」と述べた。
◎医法協・太田副会長 「公定価格をコスト考えずに決めるのは異常な事態」

日本医療法人協会の太田副会長は、「診療報酬は公定価格だ。それを決めるときに提供するコストを全く考えずに決めるというのは、異常な事態だろう」との見方を表明。「長らく続いたデフレから物価、金利が上昇する局面になった段階で、社会保障費の目安対応は絶対に外していただかないと、持続的に医療を提供することが不可能な状況になっている」と強調した。
◎全日病・猪口会長 「現在の財政フレームの中での診療報酬改定では、賃金・物価上昇に追い付けない」
全日本病院協会の猪口雄二会長は、地方を中心に医療機関経営で困窮しているとの悲痛な声を聴く機会が多いと説明。24年度診療報酬改定では医療従事者の賃上げに主眼が置かれたが、かえって病院経営が悪化しているとして、「現在の財政フレームの中での診療報酬改定では、賃金・物価上昇に追い付けない」と指摘した。そのうえで、「できれば25年度中に何らかの財政的な援助をいただかないと、病院の運営は立ち行かなくなる」と述べ、期中改定の必要性にも言及した。
◎全自病・野村副会長 公立病院は賃上げで経営の厳しさ増す 「一つの病院だけで何とかできない」
全国自治体病院協議会の野村幸博副会長は、自身が院長を務める国保旭中央病院(千葉県旭市)でも昨年度、開設70年で初めて赤字に転落したとして、「ひとつの病院だけでは、今の病院経営をなんとかする、ということができない状況にある」と吐露した。「公立病院では人事院勧告で高い賃上げが求められている」として、さらに病院経営が厳しさを増すことに懸念を示した。
◎日慢協・池端副会長 「民間病院はそう簡単に赤字にできない」 数字以上の厳しさが
日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は、「自治体の病院はかなり厳しい状態で赤字だが、民間病院はそう簡単に赤字できない」と強調した。人件費を上げるのが難しい状況や医療機器の購入を控えるなどしていると説明。「表に出ないだけ、その黒字の中でもかなり厳しい状況が民間にある」として民間病院の実情に理解を求めた。
◎合同声明「26年度診療報酬改定の前に期中改定での対応も必要」 骨太方針見据えて要望も
合同声明では、医療機関経営が悪化するなかで、「このままでは人手不足に 拍車がかかり、患者さんに適切な医療を提供できなくなるだけではなく、ある日突然、病院をはじめとした医療機関が地域からなくなってしまう」と危機感を示した。「まずは補助金による機動的な対応が必要だが、直近の賃金上昇と物価高騰を踏まえると、26年度診療報酬改定の前に期中改定での対応も必要」とした。そのうえで、26年度診療報酬改定に向けては、①「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の廃止、②診療報酬等について、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入-を訴えている。骨太方針を見据えて、政府や与党に要望する方針。