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政府協議会 ワクチンの開発・生産体制強化の提言了承 政府の開発主導「不可欠」 ワクチン買上げも

公開日時 2021/05/26 04:52
政府の医薬品開発協議会は5月25日、国内でワクチンの迅速な開発・供給を可能にするための「ワクチン開発・生産体制強化に関する提言」をまとめた。国家戦略として、近く閣議決定する。世界トップレベルの研究開発拠点を整備するほか、戦略的にワクチンの研究費を配分できるよう日本医療研究開発機構(AMED)内に「先進的研究開発戦略センター(仮称)」を新設することを提言した。また、ワクチン製造拠点の整備に向け、平時はバイオ医薬品を製造し、有事はワクチンを製造する「デュアルユース製造」を提案。この設備投資を政府が支援するよう求めた。このほか、新たな感染症に備えて薬事承認プロセスの迅速化や基準整備、治験環境の整備・拡充、創薬ベンチャーの育成なども提言した。

◎実用化後の出口戦略が重要 開発側のインセンティブとして国による「買上げ」も例示

新興感染症はいつ、どの程度の規模で発生するかわからない。このため提言では、「ワクチン開発に企業が積極的に取り組むことに経済合理性がない。このため政府が開発を主導することは不可欠」と明記し、長期継続的な国家戦略としてワクチンの研究開発や生産体制強化に取り組むべきとした。

企業にとっての予見可能性を高めるためには、開発側のインセンティブとして、「実用化後の出口戦略が重要」と指摘し、一例として国によるワクチンの「買上げ」の検討を盛り込んだ。研究費の配分や買上げなどの必要財源確保のため基金の活用も提案した。

◎国産ワクチン 「国家の安全保障にもかかわる極めて重要な問題」 井上担当相

新型コロナウイルス感染症ではいまだに国産ワクチンが実用化されていない。この反省にたち、産官学が連携して3月29日から課題の抽出と対策の検討に着手し、この日、提言をまとめた。

井上信治・健康・医療戦略担当相は協議会後、記者団に、「国産ワクチンの研究開発、生産は国民の健康保持の観点のみならず、国家の安全保障にもかかわる極めて重要な問題」と述べた。そして、「(ワクチンなどの)研究開発は一朝一夕に成果を出せるものではないが、とにかくスピードも大事。今回の提言を菅政権として迅速に実行していきたい」と強調した。近く提言内容を政府の戦略として決定し、戦略として閣議決定する方針を示した。

◎日本が抱える問題点に「企業による研究開発投資の回収見通しの困難性」

提言では、日本が抱えるワクチンの研究開発や生産体制の問題点として8つ指摘した。

具体的には、▽最新のワクチン開発が可能な研究機関の機能、人材、産学連携の不足▽ワクチン開発への戦略的な研究費配分の不足▽輸入ワクチンを含め迅速で予見可能性を高める薬事承認の在り方等▽特に第3相試験をめぐる治験実施の困難性▽ワクチン製造設備投資のリスク▽シーズ開発やそれを実用化に結び付けるベンチャー企業、リスクマネー供給主体の不足▽ワクチン開発・生産を担う国内産業の脆弱性▽企業による研究開発投資の回収見通しの困難性――となる。課題は多岐にわたるが、予算措置や規制緩和などで対応する考えだ。

◎新組織「SCARDA(スカーダ)」と政府一体で戦略的に研究費を配分

提言では、特に研究開発の環境整備と製造拠点の整備で新しい考えが示された。

研究開発関係では、文科省と厚労省が中心となって、世界トップレベルの研究開発のフラッグシップ拠点を形成するよう求めた。同拠点で平時からヒト免疫、ゲノム、AIなどとの融合による感染症に留まらない先端的アプローチを通じて、感染症、がん、自己免疫疾患などの対象疾患の縦割りを排した分野横断的な研究を推進するとともに、がんワクチンや遺伝子治療などの新規モダリティの活用も推進する。これにより、平時から相互に転用可能な多様なモダリティを育成・保持し、緊急時に迅速にワクチン開発ができるようにすべきと提案した。

研究費の配分は、AMED内に新設する「先進的研究開発戦略センター(通称:SCARDA(スカーダ)、仮称)に集約した情報をもとに、政府と一体となって戦略的に配分すべきとした。感染症関係の研究開発は危機を想定し、平時から取り組むべきとしている。

スカーダのボードメンバーは、臨床現場に精通し平時・緊急時の全体調整を行うスカーダのセンター長、研究開発のフラッグシップ拠点長、内閣府の健康・医療戦略推進事務局の事務局長、実用化目線で産業界の研究開発状況や国内外の新規モダリティの動向に精通した「プロボスト」で構成する。このうちプロボストがキーパーソンになりそうで、「企業におけるワクチン開発・生産を平時から後押しする役割を担う」としている。厚労省に新設するワクチン振興部局や、感染症やワクチンの専門家らと平時から連携して情報共有する。緊急時には厚労省の医務技監も意思決定に加わる。ボードメンバーと政府が一体となって投資先の決定、進捗管理、Go/No-Go判断などを行うよう提言した。

◎平時は抗体医薬を製造 有事はワクチンを製造

将来のパンデミックに備えた国内のワクチン製造拠点の整備に向けて、「デュアルユース製造」が提案された。ワクチン製造のために投資したものの、感染症が収束した場合に余剰設備となってしまうため企業が投資に躊躇するとの課題に対する解決策でもある。

デュアルユース製造は、平時はバイオ医薬品を製造し、有事にはワクチンの製造に切り替えるというもの。mRNAやDNAベクターといった新たな創薬技術(モダリティ)の登場が、この切り替えを技術的に可能にした。

例えば、平時はがんワクチンのmRNA原薬の製造ラインだが、有事にはmRNAワクチンの製造ラインとする。また、平時は抗体医薬品やインフルエンザワクチンなどの組換えタンパク製造ラインだが、有事には組換えタンパクワクチンの製造ラインに切り替える――といった具合だ。経産省の担当者は協議会で、製造拠点の新設・拡充、既存施設の改修に補助金を出し、ワクチンを国内で大量生産できるようにする考えを披露した。

◎経産省 「収益納付は求めないという整理が一定程度可能」

日本製薬工業協会(製薬協)の岡田安史会長の代理で出席した森和彦専務理事は、「技術の進歩を背景にした新しいチャレンジだ」と述べ、製薬協としても前向きに取り組みたい意向を示した。ただ、「補助金で収益が出た場合、国庫に(納める)ということも一般的にはあると思うが、どうなるのか」と政府側の見解を求めた。

これに経産省は、「今回の事業で収益納付を求めると、政策目的に対する効果が減殺される」とし、「財政当局との調整はいるが、収益納付を求めないという整理が一定程度可能と思っている」と答えた。実際、コロナ対策の別の補助金事業で収益納付を求めていないものがあるという。収益の取扱いは今後の焦点のひとつになる可能性がありそうだ。

◎平時から生物統計家やデータサイエンティストを育成・雇用促進を

このほか提言では、薬事承認プロセスの迅速化や、国内外の治験環境の整備・拡充も求めた。厚労省が中心となって、▽新たな感染症に備えて、あらかじめ臨床試験の枠組みに関する手順を作成▽緊急事態に使用を認めるための制度の在り方の検討▽臨床研究中核病院の緊急時治験の要件化や治験病床などの平時からの確保――などに取り組むよう指摘。平時から生物統計家やデータサイエンティストといった人材を育成し、また生物統計家らの雇用促進による臨床研究中核病院などワクチン開発拠点での体制整備を進めることも提案した。

◎国内での変異株発生に備えて 「国産ワクチンの研究開発を急ぐ必要ある」

提言には、「喫緊の課題」として新型コロナへの対応も盛り込んだ。既存の変異株への対応に加え、仮に日本国内で変異が発生した場合に「外国企業による迅速なワクチン開発が期待できるとも限らない」として、「国産ワクチンの研究開発を急ぐ必要がある」とした。

しかし、ファイザー製など実用化されたワクチンがある中で、健常人を対象としたプラセボ対照試験の実施が困難な状況もある。

そこで提言では、ICMRA(薬事規制当局国際連携組織)でプラセボ対照試験に代わる検証試験のデザインが議論されていることから、「ICMRAでの最終的なコンセンサスが得られる前から、そのコンセンサスを先取りして国内企業での検証試験を開始し、速やかに完了できるよう、既定の予算措置ともあわせて政府として強力に支援する」ことを求めた。
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