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九州大学・筒井裕之教授 sGC刺激薬の投与は標準治療で増悪する患者が対象か

公開日時 2021/11/30 04:50
バイエル薬品は11月24日、「慢性心不全治療の現状と課題、新規治療薬への期待」と題してオンラインセミナーを開催した。慢性心不全治療は近年、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)やSGLT2 阻害薬など新たな薬物療法が登場しており、それらの治療効果による死亡率の減少などが期待されている。2021年9月に発売した慢性心不全治療薬の可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬ベリキューボ錠(一般名:ベルイシグアト錠)もその一つ。セミナーでは、九州大学大学院医学研究院循環器内科学教授の筒井裕之氏が「わが国における心不全医療への取り組み」と題して、慢性心不全の現状や治療法について講演した。

◎「死亡率や再入院率は減っていない」SGLT2阻害薬など新たな治療薬に期待

慢性心不全の定義は『急性・慢性心不全診療ガイドライン2017』では、「心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」、一般向けには心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気と説明される。急性増悪を繰り返しながら徐々に身体機能が低下していき、やがて死に至ることから、病気の進行を防ぐ、つまり急性増悪を起こさないことが治療上のポイントであり、課題となっている。

超高齢者社会を背景に慢性心不全の患者数は急増している。急性期心筋梗塞の入院患者数が年間7万5000人ほどであるのに対し、慢性心不全の入院患者数は4倍近くの29万人に膨れ上がり、さらにここ数年を見ると心不全の増加率が高い。講演した筒井教授は、「心不全のほうが圧倒的に高齢の患者さんが多く、超高齢化社会を迎える日本のみならず、世界において急性期心筋梗塞より心不全のほうがより重要な心疾患になりつつある」と指摘する。

筒井教授はまた、左室駆出率が低下した慢性心不全HFrEFの標準治療であるACE阻害薬、ARB、β遮断薬、MRAなどの薬物療法を紹介すると同時に、2007~2015年における1年後死亡率や再入院率が上昇傾向にあるとのコホート研究のデータを示しながら、「治療の進歩にもかかわらず、入院患者は増え続け、なおかつ入院後1年後死亡率や再入院率はほとんど改善されていない」と慢性心不全治療の現状を示した。なお、こうした状況を踏まえ、慢性心不全の治療目標は▽死亡を回避する▽心不全による再入院を抑制する▽イベントがない間の運動能力やQOLを改善する──の3つが国際的なコンセンサスを得ており、臨床試験での評価指標にもなっている。

一方でアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)の有効性が認められた2014年のPARADIGM試験以降、HFrEFに対する数々の臨床試験が行われてきたことにも言及。「2019~21年の3年間でSGL2阻害薬、sGC刺激剤、日本未承認だが心筋ミオシン活性化薬の3剤で5つの試験が行われ、すべてポジティブな結果だった。中でも最もエビデンスが蓄積されてきたのがSGL2阻害薬。糖尿病以外にも心不全やCKDの患者の長期的予後の改善というエビデンスが短期間で集積されてきた」と期待をのぞかせた。

◎心不全療養指導士の普及図り多職種による疾病管理を推進

もう一つの承認薬であるsGC刺激剤ベリキューボは、一酸化窒素(NO)の産生能低下およびNOのシグナル伝達経路に重要な役割を果たす可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)活性低下が心筋や血管の機能不全を招くなど、心不全との関連が示されていることに着目し、NOと独立、かつ相乗的にsGCを直接刺激することで、血管緊張や心筋収縮、心臓リモデリングを制御する細胞内cGMPの産生レベルを高めるという作用機序を有する。HFrEFを対象とした国際共同第Ⅲ相試験VICTORIA試験では、従来の標準治療にベリキューボを上乗せすることによって、プラセボと比較し、心血管死または心不全による初回入院の主要複合エンドポイントでみた発現リスクを統計学的に有意に減少させた。

昨今の慢性心不全治療の進歩に伴い、2021年3月に日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドラインのフォーカスアップデート版が出されている。ACE阻害薬やARBからARNIへの切り替え、あるいは標準治療へのSGL2阻害薬の追加という選択肢が示されているが、アップデート版はsGC刺激剤の承認前の出版であったため、“今後の治療薬”として記載されているのみ。また、欧州心臓学会のガイドライン改訂版における位置づけなどを踏まえ、「SGL2阻害薬を含むHFrEFの標準治療を受けているにもかかわらず、増悪する場合にsGC刺激剤の追加を考慮するという選択肢が出てくると考えている」と筒井教授はベリキューボの役割について言及した。

このほか筒井教授は、日本循環器学会の認定資格である心不全療養指導士について説明した。心不全療養指導士は様々な医療専門職が質の高い療養指導を通し、病院から在宅、地域医療まで幅広く心不全患者をサポートしていくことを目指している。「フォーカスアップデート版では、すべての患者さんにおいて最初から疾病管理や運動療養、場合によっては緩和ケアを行っていくことが必要であることをわかりやすく表記した。この疾病管理には多職種チームによるアプローチがガイドラインで推奨されており、各職種が知識や技能を磨き、心不全のチーム医療や地域連携を推進するためにこのような活動を開始した」と資格創設の狙いを説明。その上で「わが国の慢性心不全の状況を踏まえて、質の高い心不全治療に貢献していただきたい」と述べた。心不全療養指導士は2021年春に全国で1800人近くが誕生している。

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