「小林化工から譲り受ける製造設備と製造に関わる人材は、現在、医薬品の安定供給に貢献したくてもできない状況にある。サワイのクオリティカルチャーの下で、私たちの仲間になり活躍していただくことが、当社の安定供給体制の強化につながり、ひいてはGE業界全体の供給問題の改善に貢献できる最大の要因である」-。サワイグループホールディングス(サワイグループHD)の澤井光郎会長は12月3日に大阪本社で開いた記者会見でこう強調した。2時間後に福井県あわら市で記者会見に臨んだ小林化工の田中宏明代表取締役は、「設備と人材を引き受けて頂いた背景には、当社における改善が順次進んでいることがある。現在の状況が将来的にサワイの製剤を生産するに足り得る基盤となると判断頂いた結果だろうと認識している」と応じた(
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小林化工の製造設備と関連部門の人材に関する譲渡交渉の発端は、サワイグループによるオリックス(小林化工の親会社)へのアプローチに始まる。両社が最初に会ったのは2021年春頃。小林化工と具体的な検討が開始されたのは2021年夏頃だと両社は認めている。
◎澤井会長「更なる供給体制の強化、盤石化が必要になる」
会見で澤井会長は、「複数社の薬機法違反による製造停止により、足元では後発品の信頼低下や供給不安が発生している。後発品を必要とするすべての患者に対し、安全で高品質な製品を安定的に届けることが喫緊の課題となっている」と、後発品をめぐる現状認識をこう表現した。続けて、「国内GE業界におけるリーディングカンパニーとして、社会的責任を果たすためには、更なる供給体制の強化、盤石化が必要になると考えていた」と述べ、今回のディールへの信条を明かした。
サワイグループホールディングスは、今年5月に公表した中期経営計画の中で、“シェア拡大”の実現に注力する姿勢を打ち出していた。澤井会長は会見で、「将来のシェア拡大に向けて多くの企業と情報交換を行い、製造委託や企業買収を含めた様々な検討を行ってきた。しかしながら製造設備だけでなく医薬品製造にかかわる人材の双方が揃うことが大きなポイントだった」と一連の経過を振り返ってみせた。一方で供給不安の発端を作った小林化工ではあるが、5月以降は経営体制の刷新に踏み切るなど、従業員への社内改革の第1歩を踏み出していた。こうした状況に澤井会長は、「小林化工がいまの製品の生産を維持していて(工場の)稼働はありえない。建物は別会社に売却をする形でなければ、すぐにあの工場を使用することはできない。だから譲り受けすることを決めた」と述べ、早いタイミングで小林化工の製造設備に目をつけていたことを明らかにした。また、「小林化工の承認品目や承認在庫、原材料、既存の財務および潜在財務については一切承継しない」とも語り、あくまでサワイグループの製品に特化した、同社の“シェア拡大”戦略の一環であることを強調している。
◎新設子会社「トラストファーマテック」 信用・信頼を1から丁寧に作る会社
澤井会長は小林化工の設備と人員を受け入れる新設子会社「トラストファーマテック」に触れた。「トラストという言葉の通り、信用・信頼を1から丁寧に作り、患者に届けるというサワイグループおよび転籍いただく社員の心に秘めた思いを実現したいという願いと志を込めて名付けた」と述べた。一方で、沢井製薬の傘下としなかった理由として、「まだどのような実力かも分からない。GMPにしっかり向き合い、承認書にそった丁寧に沿った作業ができる生産体制を築くことを優先させるためである」と強調。2023年4月の初出荷を目指して準備を進める方針を明示した。
◎小林化工・田中代表取締役 「真の製薬会社への生まれ変わり」で苦渋の決断
「真の製薬会社に生まれ変わることを目標に、新たな経営体制を敷いて、コンプライアンスの重視を最優先事項に掲げて経営に取り組んできた」-。小林化工の田中宏明代表取締役は会見の冒頭でこう語った。
経口抗真菌剤・イトラコナゾール錠に睡眠導入剤が混入され、当該製品の自主回収(クラスⅠ)を小林化工が発表したのは、ちょうど1年前の20年12月4日だった。その当該薬剤を服用した患者から死亡例を含む健康被害が報告され、厚労省、PMDA、福井県から同社に査察が入る。そこでGMP違反などが発覚し、過去最長となる116日間の業務停止命令を受ける。田中氏が代表取締役に就任したのは、一連の問題を経て前経営陣が退陣した後の5月だった。
田中代表取締役が語る「真の製薬会社への生まれ変わり」とは、品質が担保された医薬品の安定供給を再開させることに他ならない。まさに「製薬会社としての使命だ」と会見で語っている。田中代表取締役は、「その社会的使命を当社が自ら再度果たすことはできないということになった」と述べ、苦渋の決断を迫られたことを滲ませた。ただ、サワイグループへの譲渡契約を決断するに至った背景には、2つの理由があったと明かす。一つは、「従業員の雇用の最適化」、もう一つが「品質の確かな医薬品の早期安定供給」-だ。
◎「当社の意識改革、コンプライアンス意識の向上は著しいものがあった」と手応え
田中代表取締役は会見で5月以降に自身が取り組んだ企業変革を起こす従業員の意識改革に言及した。「従業員から様々な意見や課題を聞いて、その問題点を拾い上げて、その解決を目指す姿勢で全従業員とタウンホールミーティングを行ってきた。従業員の意識改革が企業の変革には必要との観点から、その一助として企業理念を新たに作り、その核に全社一丸となって会社を改善することを行ってきた」と振り返っている。続けて、「当社の意識改革、コンプライアンス意識の向上は著しいものがあった。社員独自の力で問題点を解決するのみならず、新たな問題点を発見し、その解決に取り組む姿勢まで見えてくるようになった」と、その手応えに自身をのぞかせた。
サワイグループとの交渉は「夏ごろ」に本格化した。サワイ側の提案に対して、「従業員の過半を引き受けて頂けるという提案が含まれていたので、その内容を真摯に検討した結果、判断した」と田中代表取締役は明かしてくれた。加えて、「これにより当社による製造はなくなるが、サワイグループにより“あわらの地”で改めて医薬品の製造がおこなわれ、雇用が確保されると理解して欲しい」とも述べた。田中代表取締役は、「直接コメントする立場にない」と断りながらも、「2023年4月において製造再開を目指したいと聞いている。当社としても工場の再稼働が一日も早く実現するように、また市場への供給が少しでも早くできるよいにサワイに協力していく」と強調した。
◎小林化工の全製品を自主回収 薬価削除を経て承認整理へ 一部製品は他社に承継
小林化工の今後にも触れた。田中代表取締役は、「品質管理部門を移管するので、品質の担保を責任もってできなくなる。以上の理由により、原則として全製剤を自主回収し、薬価削除を経て、最終的には承認整理する」と述べた。薬価削除や承認整理のスケジュールについては厚労省との調整に委ねるとした。一方、医療上必要な後発品は、「他社に製造を委託し、あるいは製造販売業としてこれを世の中に出していくことを他社に承継する」と説明。小林化工に残る製造販売部門の人材については、「一定の期間内に業務が無くなる」と述べ、従業員に対する早期退職プログラムを用意するとし、「割増退職金や再就職支援を寄り添った形で丁寧にしっかり行っていく」と述べた。
◎健康被害者への補償 小林化工の枠組みで最後までやり遂げる
このほかイトラコナゾールを服用して健康被害を生じた患者への補償について、「業務を超えてずっと社会的責務としてこれからも続ける。医薬品の承継などが終わった後でも、これについては継続して責任を果たしていく」と述べ、その時まで会社を清算せず、小林化工の枠組みで最後までやり遂げる考えを表明した。