有識者検討会・報告書骨子案 革新薬の日本への迅速導入でインセンティブ検討 創薬力強化で総合戦略も
公開日時 2023/04/28 06:31
厚労省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」は4月27日、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスの解消に向けて薬事規制、薬価などの対応策を盛り込んだ骨子案を議論した。ドラッグ・ラグとなっている品目の多くが、米国など海外ベンチャー由来であることを踏まえ、医療上必要な革新的医薬品について、「日本市場での迅速導入に向けた新たなインセンティブを検討すべき」と盛り込んだ。また、日本人データの必要性を整理するなど、薬事規制の対策も複数盛り込んだ。一方で、日本の創薬力低下が指摘されるなかで、「政府として関係府省庁が一体となって総合的な戦略を策定する」ことも打ち出した。
骨子案では、「ドラッグ・ラグの増加、ドラッグ・ロスの懸念」として、提言案では、欧米では承認されているものの、国内未承認で、国内開発が未着手の医薬品が86品目。「ベンチャー企業発の医薬品、希少疾病用医薬品、小児用医薬品が大多数」と指摘した。創薬の中心が欧米のベンチャーなどに移るなかで、革新的医薬品をいち早く患者に届けるためにも、海外新興バイオファーマなどが製薬企業と手を組み、日本市場に迅速に医薬品を導入することなどが求められている。薬事規制の課題も多く指摘されるなかで、「各種制度を抜本的かつ大胆に見直すことで、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスの懸念を解消し、直ちに患者へ必要な医薬品を届けることができる環境を整備すべき」とした。
◎ドラッグ・ラグで薬事規制対応策 日本人データや希少疾病医薬品の要件明確化など
そのうえで、対応例を列挙した。薬事規制では、「国際共同治験に参加するための日本人データの要否など、薬事承認制度における日本人データの必要性を整理」、「欧米に比べ希少疾病用医薬品の指定数が少ない現状を踏まえ、開発の早期段階で指定できるよう、要件の見直しを検討」などを盛り込んだ。国際共同治験で日本人症例の組み入れが遅いといった理由で日本が避けられる傾向にあると説明。「日本の治験パフォーマンスが海外に比べて低いという状況であり、グローバルから選ばれる国になるためにも、行政が中心となって国際的なポジションを高める必要」とした。
◎希少疾病などは特許期間中薬価維持の仕組み検討を ベンチャー企業の薬価上評価も
薬価上の対策としては、日本市場への迅速導入で新たなインセンティブの検討のほか、「希少疾病・小児・難病など、医療上必要な革新的医薬品については、特許期間中の薬価を維持する仕組みを検討」するほか、「現在開発の主流であるベンチャー企業を正しく評価できるよう制度を見直すことを検討」することも盛り込んだ。また、再生医療等製品のように適切な比較薬が存在しない製品については、「既存の枠組にとらわれない新たな評価法の可能性を検討するとともに、市販後にリアルワールドデータを活用することを検討」とした。
また、市場拡大再算定については、「企業の予見可能性を低下させる大きな要因。特に類似品の取扱いについては、他社の販売動向により、自社の薬価まで影響を受けてしまうことは投資コスト回収の点でリスク。上市時の薬事承認の範囲や市場規模の見込みから生じた想定外の上振れについては是正しつつ、市場拡大再算定の運用について見直しを検討」とした。
日本の薬価・薬事制度が海外新興バイオファーマに周知されていないとの指摘も踏まえ、「日本の薬価・薬事制度を海外企業に向けて積極的に発信」する必要性も盛り込んだ。
このほか、「未承認であってもいち早く患者へ届けることを可能にするという観点から、先進医療・患者申出療養などの活用支援を検討」する考えも示した。
◎創薬力強化へ関係府省庁が一体となった総合戦略を 新規モダリティへの立ち遅れ繰り返さないために
一方で、日本発の医薬品が減少するなど、内資系の研究開発型企業の創薬力低下指摘されるなかで、創薬力を強化する方向性も打ち出した。低分子に強みを有する内資系企業が、現在の創薬の潮流であるバイオ医薬品に乗り遅れたことを振り返り、「新規モダリティへの移行に立ち遅れないために、積極的に新規モダリティに投資し、国際展開を見据えた事業を展開できるよう、政府として関係府省庁が一体となって総合的な戦略を策定」する方向性を打ち出した。
提言案では、「製薬産業は我が国の基幹産業であり、革新的な医薬品を海外に展開することで外貨を獲得し、日本経済を牽引する成長ドライバーとしての役割が期待される」とした。
エコシステムを構築する重要性にも触れ、「一つでも多くの成功事例を生み出す」必要性を指摘し、成功事例が生まれることで次の投資につながるなど、正の循環が進むとした。ベンチャー企業との連携や、日本・海外の製薬企業、バイオベンチャー・大学・研究者のマッチングがより促進する仕組みの構築などを提案した。
◎財源論 薬剤一部定額負担に意見も厚労省・安藤課長「社保審での議論が必要」
この日の議論では、財源論にも議論が及んだ。「新薬創出等加算や市場拡大再算定の見直しを医療保険財政の中で実現し、さらに、長期収載品の収益に依存している先発品企業が新薬の開発にシフトするための方策も引き続き必要」として、薬価引下げや患者負担に加え、「薬剤一般について定額負担を求めることを考えるべきではないか」との意見があったことも示した。小黒一正構成員(法政大経済学部教授)は、「長期収載品だけにしわ寄せというか、財源を求めていく、というのはやはり財源的に限界があるのではないか。患者負担のあり方と書いてあるが、自己負担を取るならば広く薄く取るのが現実的ではないか」などと主張した。「マクロ的な視点から総薬剤費の在り方」について、「日本の医薬品市場の魅力の観点から、中長期的な経済成長率に沿うよう、総薬剤費を伸ばしていく仕組みの検討を行うべき」との意見があったとの記述に対し、「検討を行うための会議体を政府に設置すべき、という文章をこの後に続けて書いていただく」ことなども求めた。
これに対し、厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課の安藤公一課長は、「そもそも、本格的に議論するということになると、この検討会というよりはむしろ社会保障審議会とか、そういうところで行うということがやはり必要になってくる」と説明。香取照幸構成員(兵庫県立大大学院社会科学研究科特任教授)も、「(財源の話などは)結論から言うと、この検討会で議論することでもないし、していないと思う。薬剤負担の定額負担の話なんていうのは、これはもう完全に医療保険財政政策の話なので、たぶんマンデートの外なんじゃないか」と述べた。